第311話・次元断絶の真実
モナクーシアの妻ケーオが突如姿を現し、プリームスとイリタビリスを驚かせた。
それは隠蔽魔法を施された魔道具の所為だとプリームスは看破するが、モナクーシアから話を聞き出す腰を折られた感は否めない。
ケーオ本人はと言うと、モナクーシアに指示された通りに飲み物を提供して、直ぐに姿を消してしまう始末。
結局、ケーオは一言も喋らず仕舞いだった。
『不気味な奴め・・・。気配だけでなく、人そのものを感じさせないとは』
プリームスが内心で訝しむのを他所に、モナクーシアは口火を切った。
「私がプリームス殿に伝えたいのは、次元断絶の真実だ。我ら一族は、これを完成させる為に多くを犠牲にしてきた・・・。時間も人も、それに心をもだ・・・」
プリームスは大凡の検討は付いていたが、頷きモナクーシアが話すのを待った。
『やはり次元断絶が問題の根底にあったか・・・』
「うむ・・・・」
「次元断絶を発動し維持し続けるには、強力な魔力を保有した起動支柱が幾つも必要だった。これを作りだす為に我ら一族は900年の時と、10人の王を必要とした。そして内4人の王は失敗し、礎にさえ為れずに命を落としてしまったのだ・・・」
とモナクーシアは語ると瞳を閉じてしまう。
その眉間には、何か痛みに耐えるが如く深い皴が刻まれた。
プリームスは、モナクーシアの言葉を脳裏で咀嚼する。
次元断絶の起動支柱は6つあり、それを作り出す事を成功させた王が6人存在するのだ。
また起動支柱は、それ単体で強大無比な魔道具で、外部からの干渉を許さない・・・まるで意志が有る様に。
「起動支柱は強大な魔力を有する人間を・・・いや王を人柱にして完成させたのだな」
一足飛びに自身が洞察した事をプリームスは告げた。
モナクーシアは少し驚いた様子で呟く。
「流石プリームス殿、ここへ来る前に起動支柱へ
そうして頷くと、僅かだが暗然とした語調を含ませ説明を続けた。
「その通りだ・・・。守り人一族の王は、次元断絶の人柱に成る為だけに生み出される。50歳で王に即位し、90年を掛けて起動支柱に成るべく魔力を鍛え蓄えるのだ。そして140歳にして入定する。更にそこから10年を費やし起動支柱を完成させるのだよ・・・」
プリームスは脳裏にシュネイの言葉が浮かんだ。
”私は・・・・寿命が尽きかけているのです”
それからモナクーシアへ鋭い視線を向けて言った。
「シュネイは今年で丁度150歳と言っていた。つまりそれは・・・」
既に言わんとする事を察していたモナクーシアは、プリームスの後に言葉を続けた。
「王は起動支柱と成るために大切に育まれるのだ。故にそれ以外の目的など何も有さず、運命と使命を全うするに必要な150年と言う寿命が、その遺伝子に刻まれている」
プリームスは思考の沼に沈んだ。
入定とは、恐らく起動支柱と成る為の祠に入る事・・・プリームスが実際に見た場所で言うなら、入り口が完全に埋め立てられた崖墓である。
そんな場所で、只一人で10年もの歳月をかけ次元断絶の礎となる・・・否、死を待つのだ。
それは想像を絶する孤独と苦しみなのは明白であり、それゆえにモナクーシアは「我々が抱える真実と苦しみ」と言ったのだろう。
そして愛する王が、そのような非人道的な使命に殉じる事を許せなかったのだ。
この目の前にいる副王が、苦しみを抱えている事は良く分かった。
しかし只それだけで、まだまだ合点がいかぬ事ばかりだ。
実際に王で在るシュネイを必要とせず、100年前に次元断絶が発動し、しかも今尚それは維持され続けているのだから。
「それだけでは私を納得させる事は出来んぞ」
そうプリームスが言う事を見越していたのか、モナクーシアの反応は早かった。
「シュネイ様を犠牲にすれば丁度今頃に、"完全"な次元断絶を発動させる事は出来た。だが私はそれを受入れられなかった・・・」
思わせ振りなモナクーシアの言い様に、プリームスは少し不快な表情を浮かべる。
「・・・要するにシュネイ無しに、不完全な形で次元断絶を発動した訳か? 己の感情を優先してまで」
モナクーシアは肯定するように、
「何とでも言うがいい。当事者では無いプリームス殿には、この気持ちは分かるまい。兎に角、私はシュネイ様に起動支柱の使命を背負わせない為、その方法を模索し実行したのだ」
ここまで言われれば、現在の有り様にプリームスは合点がいく。
恐らくモナクーシアは、次元の切れ目を閉じる手段を持っていた・・・だがそれが成功せず、逆に魔神の大侵攻を招いてしまったのだろう。
「なるほど・・・。それで失敗し、結果不完全でも次元断絶を発動せざるを得なかった訳だな」
そうプリームスは少し呆れたように告げた。
目的を為すために逸った結果が、今のこの状況なのだ。
気の毒とは思うが、非難されて当然とも言えた。
恥じる事も弁解する事も無く、モナクーシアは只淡々と事実を口にする。
「・・・・その通りだ。本来7つの起動支柱があれば、ある程度の限定された空間を次元断絶で隔絶する事が出来たのだが・・・・6つでは制御力に欠け地下空間全域に及んでしまった」
相変わらず今に至る訳を語るだけで、自身の正当性を全く主張しないモナクーシア。
この副王は独自で次元断絶を越え、そして地上へ攻め入ると言ったのにだ。
故にプリームスは一向に話が進展せず、要領を得ない事に苛立ちを覚え始めていた。
「結局何が言いたいのだ? 王の犠牲を回避しようとして失敗し、民を犠牲にした事が地上へ攻め入る理由とでも言いたいのか?」
ここに来て堪えきれず、プリームスは辛辣な言い様をしてしまう。
地上にはプリームスの身内と、それに近しい者達が多く居る。
モナクーシアが独自で次元断絶を越えられるとは思えないが、万が一それを成功させて地上に攻め入らすなど許せる筈が無かったのだ。
『元より私の意志は決まっていた。ただ訳も聞かずに力尽くは、私の趣味に合わなかった・・・それだけの事」
意を決したプリームスは席から立ち上がり、
「当初は互いの妥協点を模索しようかとも思ったが・・・話し合うのは無駄だったようだ。最早どのような理由があろうとも、地上へ攻め入る事を許す訳にはいかん!」
と鋭い視線と言葉をモナクーシアへ放つ。
モナクーシアは遺憾そうな表情で深い溜息をついた。
「そうか・・・ではどうする?」
状況の急展開に付いて行けず驚くイリタビリスへ、プリームスは少し下がる様に目配せをした後、モナクーシアへ告げた。
「お主を拘束する。そしてお主に従う都市の者達を掌握するとしようか」
突如モナクーシアが、目の前にある重い石材テーブルの隅を掴んだ。
次の瞬間、とても人力では動かせない筈のテーブルが、対面に居たプリームス目掛けて滑る様に突進したのであった。
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