第309話・副王と絶世の美少女(2)
「さて、プリームス殿の口から直接伺おうか・・・私の元に来た理由を」
副王モナクーシアは落ち着いた口調でそう告げた。
既にアグノス辺りからプリームスの事を聞いている筈だが、確認の為と言う訳だろう。
しかしプリームスとしては、アグノスとフィートの安否が先である。
「その前に私の身内が無事なのか知っておきたい。どこにいるのだ?」
プリームスは逆に訊き返した。
するとモナクーシアは特に何か駆け引きを交わす事無く、すんなりと答える。
「うむ・・・そうだな、それは当然気にかかる所であろうな。だが心配ない、今はこの神殿内には居ないが2人とも無事だ」
『この神殿内には居ない?』
それを聞いたプリームスは安心したのと同時に、嫌な予感がした。
故に直ぐに問い返す。
「ここで無ければ、どこにいるのだね?」
「ここには宿泊用の施設は少ないのでな、行政府の方に滞在して貰っている。扱いも賓客とまではいかんが、丁重にしているつもりだよ」
相変わらず落ち着いた口調で話すモナクーシア。
正直、余り良い状況とは言えない。
もしモナクーシアが何か企んでいるなら、プリームスは人質を取られら事になるのだから。
またここで騒ぎ立てては目的を果たせない所か、更に状況を悪くする可能性があった。
『先ずは予定通り、こちらの目的を告げるしかないか』
そう内心で呟き、溜息をつきそうになるのをプリームスは堪えた。
何時のもプリームスであれば”こう為らない様に”状況で優勢を取っているのだが、如何せん今回は不明不測な事が多く準備不足が否めない。
つまり良く言えば臨機応変、悪く言えば行き当たりばったりと言う訳だ。
「そうか・・・では、私が此処に来た理由・・・いや、この地下世界に来た理由だが、取り残された民を全員救う為だ」
プリームスの言い様に静かに頷くモナクーシアは、再び問うた。
「救うとは、どう言った状況になる事かね? そして何故それを行う?」
確証を得る為に探りを入れているようだが、「面倒臭い」とプリームスは思わずには居られない。
本当なら強引に協力させ、さっさと事を済ませ帰りたいのだが、ここはグッと我慢をするしかなかった。
「全員を次元断絶から解放し、その上にあるエスプランドルの迷宮まで送り届ける。そしてそれを私が行う訳は、お主等の王であるシュネイから依頼されたからだ」
モナクーシアは瞳を閉じ、感慨深そうに呟く。
「漸く救援が・・・・王は我々を見捨てて居なかったのだな・・・」
すっかり白髪になってしまった頭部が、年齢だけの為では無く、この隔絶された世界での苦労を物語っていた。
その様子を見たプリームスは、オリゴロゴスも同じ反応をしたのを思い出しホッコリしてしまう。
『オリゴロゴス殿もモナクーシア大司教も、シュネイに今も尚忠誠を捧げ、心の拠り所としていた事に違いが無いのだな・・・』
だがそれも束の間、一瞬にして空気は一変した。
「プリームス殿、貴女の申し出は非常に有難いが・・・我々は独自で次元断絶を越える。大人しくしているか、貴女だけで地上へ戻られるがよい」
などとモナクーシアが言い放ったのだ。
プリームスは慌てる事も戸惑う事も無く、首を傾げて冷静な声で問うた。
「何故だ? 私に従えば容易に次元断絶を越えられると言うのに」
それこそが間違いだと言わんばかりにモナクーシアは首を横に振る。
「我々には1つの目標があり、皆団結している。他者の意志が付け入る隙など無いのだ」
この地下都市中心街に来て感じた違和感は、”これだ”とプリームスは思い至る。
本来、守り人一族は王を頂点にした君主制の筈である。
しかし街の雰囲気から察するに、人々は生き抜く為、また何かの目的の為に全てを投げ打った強い意志を感じたのだ。
『これは要するに共産制を強いている・・・いや民の意思を操作したのか・・・』
それは権威や階級、地位などを極力排する事を意味する。
またそうする事に因って全てが平等に分配され、生きる事への苦しみが分かち合われるのだ。
プリームスは何か薄ら寒い物を感じた。
幾ら守り人一族が減ったからと言っても、その文化水準と魔法技術、更に武力は、地上の国家が持つ力を上回る可能性がある。
そして強固に統率された意識は、それだけで脅威と言えた。
もしオリゴロゴスが言うように、モナクーシアの目的が地上への侵攻にあるなら、今この瞬間こそが岐路だとプリームスは確信したのだった。
プリームスはワザとらしく困った様子で腕を組んで見せた。
「う~む・・・それでは私の受けた依頼を果たすことが出来ない。それにオリゴロゴス殿と剣聖をどうするつもりだ? 放っておくつもりか?」
「貴女が危惧する事では無い」
返ってきた言葉は、取りつく島など全く無い程に端的で鋭い。
それでもプリームスは食い下がる。
「シュネイの思いを蔑ろにするつもりかね?」
モナクーシアは、眉をひそめ言った。
「シュネイ様は我々など眼中に無い・・・。ただインシオン殿だけを救い出したいだけなのだ」
正にその通りで、それを見透かされていただけにプリームスはシュネイを庇う事が出来ない。
もはやお手上げ状態だ。
『されど聞こえ様に因っては、嫉妬しているだけにも感じる。それはそれで・・・』
痴情のもつれは非常に厄介なのだ。
しかも三角関係で他の2人には直ぐに会い、対処出来る訳も無かった。
結局のところ八方塞がりと言わざるを得ない。
プリームスは深く溜息をつくと、落ち着いた口調で問い質した。
「モナクーシア殿・・・1つの目的とは何だ? 次元断絶を越える事では無かろう? 越えた先に何を見据える?」
モナクーシアはジッとプリームスを見つめた後、瞳を徐に1度だけ閉じた。
そしてそれが見開かれた時、強固な意志を伴って告げる。
「地上へ攻め入る。先ずは手始めにリヒトゲーニウス王国の首都を落とす」
分かっていた事だが、改めて本人から聞くと中々の衝撃があった。
だからと言って慌てる訳でもないのだが、プリームスとしては仕事が増えて面倒で堪らなかった。
『その意志は随分と固そうだな。説得してどうにか為る物でも無さそうだし・・・どうしたものか』
選択肢としては、話し合いで互いの妥協点を探る方法が1つ目で、これが一番穏便に進み一番面倒臭い。
2つ目は力尽くでプリームスに従わせる・・・一番簡単だが、互いに一番危険な方法だ。
『どちらにしろ訳を聞くべきか・・・』
そうプリームスは考え、性急な決断を思いとどまった。
ひょっとすればプリームスが知り得ない、モナクーシアがそうすべき正義と真実があるのかも知れないのだから。
「ふむ・・・。ではモナクーシア殿、その目的を実行する訳を聞かせて貰おうか」
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