第263話・軽快活発なイリタビリス(1)
守り人一族の地下の拠点となっていた都市は、地下大空洞の丁度中心部に位置していた。
その為、この大空洞の端に降り立ったプリームスは、都市を目指し3km程を歩かなければならなくなった。
理由は簡単である・・・守り人の民に出会う為だ。
そしてプリームスの目的は、次元断絶を隔てたこの地下空間から、守り人の民と剣聖を救い出す事にあるのだから。
「この距離を徒歩は中々キツイな・・・・」
ついつい独り言を言ってしまった後、プリームスは自嘲する。
独り言とは、自身の不安を解消するためにしてしまう行動である。
そんな行動をしてしまった自分に笑いが出たのだ。
『私は不安なのか?』
そう自問し、その答えは直ぐに出た。
『あ・・・・そうか、いつも私は誰かが傍にいるから・・・』
この世界に来てから常に誰かがプリームスの傍に居た為、1人で居ると違和感があり寂しさを感じたのかもしれない。
『フフフ・・・私も人の子だな・・・』
どのみち守り人の一族を見つければ、嫌と言う程に人と接しなければならない。
つまり一人気ままな旅は、都市に着くまでの限定的な時間だけと言えるだろう。
都市までの道程は、割と平坦で歩きやすい。
しかしながら100年間、誰も手入れしていない為か草木が生い茂り、密林がプリームスの行く手を阻んでいた。
そして空中を飛んでしまえば、もし魔神が居たならば恰好の的になってしまうのだ。
『飛んで目立って魔神を誘き寄せる方法もあるが、それでは先制されてしまうしな・・・・やはり悪目立ちは避けるとしようか』
そう考えたプリームスは、索敵魔法を展開させ徒歩でのんびりと森を進むことにした。
索敵魔法には幾つか種類が有るが、プリームスが使用したのは
これは術者を中心にして半径20m前後の空間に、結界を発現させる魔法である。
この結界は目に見えるような物では無く、人程度の生き物を感知し術者へ視覚的及び意識的に知らせる効果があった。
使用目的は視界が通らない森で、魔神との遭遇で先制を取る為、そして守り人の民との遭遇を見落とさない為でもある。
しかしながら範囲外であれば見落とす結果になるので、索敵に掛かれば幸運程度の考えだ。
索敵魔法を仕込み森を進んで5分程度して、早速”人以上”の生物を感知する。
『これは魔神か・・・・』
プリームスの索敵範囲に入ったそれらは、魔法の効果により淡く朱色の光を帯びてその輪郭を露にする。
体格は3mにも及び、魔物でいうなら巨人種に相当しかなり大きい。
それが徒党を組んで5体も視認出来た。
『こんな歩きずらい森の中を、あんな巨体で何をしているんだ? 小隊規模だが・・・・何かを探している様な・・・・』
魔神は全くプリームスに気付いていない。
故に即倒してしまうか、何をしているのか様子を見ようか逡巡してしまう。
その時、突然プリームスは背後に人の気配を感じた。
「!?」
そしてその人の気配は一瞬にして傍まで来るとプリームスの手を取り、まるで魔神達から引きはがす様に後方へ引っ張ったのだった。
この謎の人物の接近も、その行動も抑止出来たのだが、プリームスは全く対応せず成すがままだ。
理由は、この人物から殺意も敵意も感じなかったからだ。
完全に魔神達を見失った時、漸くプリームスを掴んでいた手が離された。
そして周囲をまだ警戒してか、その人物は小声で話し掛けて来る。
「貴女、一体誰? あんな無防備な状態で歩くなんて・・・・死にたいの?」
生い茂る木々の間から零れる光で、その人物の様相を確認する事が出来た。
身長はプリームスより高く、細身だが筋肉質で何か武術を嗜んでいるような体格だ。
また切れ長の気の強そうな目が印象的で、非常に容姿の整った少女であった。
しかし少女と言っても、恐らくはプリームスの今の肉体年齢より上らしく、
「うわぁ・・・貴女みたいな綺麗な娘、初めて見たわ・・・・。どこから来たのか知らないけど、お姉さんが安全な所まで案内してあげる!」
などと言い出したのだ。
プリームスの今の肉体年齢は15歳であるが、客観的に見てそれより少し幼く見える。
因って、このように侮られるのは仕方が無いのかもしれない。
プリームスが何か言おうとするが、そんな事はお構いなしに少女は話を進めてしまう。
「あたしはイリタビリス。貴女は何て名前? まさか言葉が通じないって訳じゃ無いわよね? それにこの森をウロウロしている所を見ると、都市側の人間でも無さそうだし・・・。それにその恰好・・・闘士っぽいけど全然弱そうに見えるから、そんな訳無いわよね」
セッカチなのか短気なのか、それとも自己中心的なのか、捲し立てる様に言葉を投げかけるイリタビリス。
流石のプリームスもある意味気圧されて戸惑ってしまった。
だが何も言わずに居れば、また連続して捲し立てられそうなので返答はしておく。
「プリームスだ・・・・。闘士が何なのか良く分からんが、この服は知り合いが見繕ってくれた物で、私自身の事とは何も関係ない」
するとイリタビリスは楽しそうな顔をして、
「アハッ、あたしの師匠みたいな喋り方するんだね! でも声が可愛らしいから違和感めっちゃある~!」
と言った。
スキエンティアやアグノスが聞いたら、その不敬な態度に怒り出しそうである。
当の本人であるプリームスはと言うと、
『えええぇ・・・私の喋り方は、見た目との違和感が有るのか・・・・』
そう内心で愕然としてしまう。
かと言って自身の振る舞いを方を変えようとも思えない・・・・今更だからだ。
そんなプリームスの事など意に介さず、イリタビリスは再び手を掴むと引っ張り出した。
「取り合えず森を出よう。あたしに付いて来て」
そう告げてプリームスを先導するイリタビリスは、独断思考が強いが歯切れがよく面倒見も良い様に思えた。
そうして長い黒髪をなびかせプリームスを引っ張るその後姿は、とても女性らしく美しく見えるのであった。
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