第260話・次元断絶を越えて(3)

「ここまで連れてきておいて、何を今更な事を!」


「そうです! あんな怖い思いまでして、ここまでご一緒したと言うのに」


プリームスが2人から怒られるように言い返されたのは、1人で次元断絶を越えると言い出したからである。

しかしながら全員が同じ場所へ転送されない可能性があるなら、身の安全は保障できないのだ。

特に戦闘能力がないフィートが一番危うい。



「フィートが一番心配ゆえ、何とかして誰かと一緒に転送できないものか?」

と言いながらプリームスがシュネイに視線を向けると、

「そうですね・・・・絶対では無いですが、一緒に送る確率を上げる事はできますよ。これを使えば」

そう答えて自身の懐を漁り出し、取り出したのは1対のイヤリングであった。



「これは・・・・」

そのイヤリングは深緑の宝石を元に作られたもので、プリームスの目から見て明らかに魔法の品である事が分かった。

そしてシュネイが何を言おうとしているか、即座に洞察する。



「このイヤリングに使用されている魔石は元々1つで、精神に影響する魔法が込められています。1人が1対付けていると全く意味は有りませんが、2人が分けて1つずつ身に着ければ、互いに念話が可能になるのです」

シュネイがそう説明してくれるものの、このイヤリングで同じゴーレムに送られるとは、とても思えなかった。



「こんな物で本当に確率を上げられるのですか?」

と不安気なアグノス。



アグノスはイヤリングに付加された、魔法の効果に不安があるのだろう。

だがプリームスはそれでは無く、イヤリングが1対で1つで在る事と、素材の魔石が1つで有る事に着目する。

「回りくどい言い方をする・・・・付加された魔法の効果など関係ないのだろう?」



悪戯顔で微笑むと、シュネイは答えた。

「フフフ、プリームス様のご明察通りです。試すような事をして申し訳ありません。実は元が1つの物であれば送り込んだ場合に、5割程の確率で同じゴーレムへ出現する事が分かりました」



それを聞いてアグノスは首を傾げてしまった。

「どういう事なのでしょうか? 」



アグノスに問われてプリームスは少し困ってしまう。

この同じ場所へ送られ易い現象は、因果律に関係する物と思われ口で説明するのは中々に難しい内容だからだ。

「う~ん・・・・簡単に説明するなら、元々1つだった物は存在力を共有していて、魔術的また因果律的に同じものだと認識されやすいと言う事だな」



プリームスの説明を聞いて少し考え込むアグノス。

そして何か喋り出そうとした時、フィートが被せる様に話し出した。

「え~と・・・・つまり簡単な例であげるなら、双子などがそれにあたりますよね?」


するとアグノスが怒り出してしまった。

「あ~ん!! 今それを言おうとしたのに!!」


アグノスが詰め寄ってしまったせいで、フィートが怯えて縮こまる。

少し気の毒だが若干空気が読めない所があるので、フィートは自業自得と言えるかもしれない。



「まぁまぁ、そう怒るなアグノス。お前が十分に聡い事は分かっておるゆえな」

簡単にアグノスを諭した後、早速シュネイへイヤリングを付けさせる相手を指示する。

「取り合えずアグノスとフィートで良いだろう」


これを聞いたアグノスは更に怒りを露にする。

「な、何故、私とフィートが一緒なんですか!? プリームス様と伴侶である私がイヤリングを身に着けるのが妥当な筈です!!」


フィートも同意見らしく、無言ではあるが「嫌」と言わんばかりの表情を浮かべていた。



再び困ってしまうプリームス。

「いや・・・これは消去法でこうなったと言うべきで、私の立ち回りを考えてくれ」


この2人の相性が微妙に悪いのは分かっていたが、今回に限っては仕方ない。

まずプリームスは魔神を見つければ率先して殲滅する為、フィートと共には行動出来ない。

これは低位の魔神でも危険であり、フィートを戦闘に巻き込んでしまうと考えれば当然と言えた。


故にアグノスへフィートを託すのだ。



少し考えた後、アグノスはテユーミアを見て言い放つ。

「ではテユーミア叔母様がフィートと共に行けば宜しいのでは?」



今度はテユーミアが困った顔で、プリームスとシュネイを交互に見やった。

「え〜と、私は・・・」



「テユーミアはシュネイより別件を受けているのだろう?」

プリームスは見透かした様にシュネイへ言った。


虚をつかれた様な顔で固まり、直ぐに苦笑いするシュネイ。

「プリームス様は何でもお見通しなのですね・・・・。仰る通りテユーミアには地下都市に残した魔道具の回収を命じています」


そして慌てて続けた。

「ですが、プリームス様の行動支援を優先しますので御心配ありませんよ!」



プリームスは笑顔が溢れる。

優れた読心術を有するシュネイも、逆に見透かされるのは不得意なようで、そんな所が可愛らしく思えたのだ。


シュネイは不思議そうプリームスへ尋ねた。

「私がテユーミアへ指示を出していた事に、どうして気付かれたのですか?」



「気付くも何もアグノスに言われて、テユーミアが困った顔をシュネイに向けただろう。あれで気付かん方が可笑しい」

そう答えた後、プリームスは少し惚けた様子で続ける。


「それに現存しているゴーレムも勿体ない。それも含めて地下都市に有る貴重な魔道具の回収をしたがると思ってな」



「御もっともな推測です・・・」

シュネイは、そう言って微笑むとアグノスとフィートへイヤリングを手渡した。


こうして仕方なく受け取った2人は、片耳にそれぞれイヤリングを身につけ溜息をつくのだった。





漸く地下都市へ向かう準備が整い、プリームス達は水瓶に身を浸した。

プリームスとテユーミアは、それぞれ個別の水瓶へ。

アグノスとフィートは、1つの水瓶に何とか一緒に入る事が出来たが、密着した状態なので随分と窮屈そうだ。



「うわ〜ん、どうせならプリームス様と密着したかったです」

と未練がましいアグノス。

片や付き合わされるフィートは、いつも以上に表情が「無」である──と言うか目が死んでいる・・・気の毒な話しである。



プリームスはと言うと、シュネイより手渡された地図を見つめていた。

その地図は、守り人一族50万人もが暮らしていた地下都市の全容を記したものである。

『これは相当な広さがあるな・・・・とても地下とは思えん』


プリームスが驚くのも無理は無く、地下都市を構成する為の地下空間は、一番広い箇所で10kmにも及び高さも1kmに達するようなのだ。

そして同時に項垂れそうになってしまう。

『これ程に広大な空間の何処に飛ばされるか分からないとは・・・・』



そうこうしている内にシュネイが目の前に来て、

「さぁ一番手でプリームス様を御送り致しますね」

などとプリームスが直面するであろう苦難を余所に告げるのであった。

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