第254話・伴侶と従者の違い
プリームスが虚ろな意識の中で目を覚ますと、自分が誰かに抱きしめられている事に気付く。
とても温かく柔らかくて実に心地が良い。
『この感じは・・・・テユーミアか』
テユーミアの身体に内包する魔力は、何故かプリームと相性が良く、その身体と触れ合っているだけで癒し効果があるのだった。
故に直ぐ、テユーミアだと分かったのだ。
そして背中にも誰かが密着する様な感触を感じる。
『後ろのはアグノスだな・・・』
17歳という若い乙女の生命力が肌から伝わり、プリームスへアグノスだと教えてくれた。
部屋の中は薄ぼんやりした灯りに照らされており、睡眠を妨げない配慮が窺える。
また蝋燭でも
魔法の灯りは意外にも調整が難しく、それを長時間発動させっ放しとなると更に難度が上がる。
『恐らくテユーミアかアグノスが使った魔法なのだろうが・・・』
と何気なく考えながら天井の灯りを眺めていると、背後のアグノスが反応した。
「あ・・・お目覚めですかプリームス様。体調の方は如何ですか?」
アグノスの言葉と共に吐息が漏れる。
それが項に触れてしまい、プリームスを少しだけ身悶えさせた。
「あぁ、大丈夫だ。私はまた随分と眠ってしまたようだな・・・・」
すると愛おしそうにプリームスの背に指を這わせ、アグノスは言った。
「そうですね、6時間程でしょうか。シュネイ様を御呼びしてまいりましょうか?」
アグノスから再び刺激されプリームスは背筋がゾクリとしたが、不思議と嫌な感じはせず逆に快感に似た感覚が身体を支配した。
愛しいと思える相手に触れたり触れられたりするのは、人で在れば誰でも悦びや快感を伴うものである。
そう考えると、プリームスが触れればいつもアグノスは嬉しそうにする。
『相思相愛だな・・・・・』
と思いつつも、プリームスは今更な事だと自嘲してしまう。
そしてアグノスへ告げた。
「いや、私が起きたと伝えてくれれば良い。シュネイも身支度せねばならんかもしれんしな。それに私も湯浴みと身支度をしたい」
「承知いたしました」
アグノスはベッドから身を起こし、指を一回鳴らす。
すると天井付近に浮いていた魔法の灯りが徐々に白みを帯び、寝室内をハッキリと見通せる程に照らした。
器用に魔法の光源を操るアグノスに、プリームスは感心する。
『流石、エスティーギアの娘・・・いや守り人一族の王の孫と言ったところか』
だがそれもつかの間、明るくなった事で3人とも真っ裸であるのに気付きプリームスは訝しみだす。
「おいおい、寝込みの私をひん剥いて何をしていた?」
「えっ!? あっ・・・プリームス様の無防備な姿を見ていたらムラッと・・・・。では無く、御慰めしたくて、僭越ながら私の体を使った訳です」
などと少し慌てた様子でアグノスは言い訳をした。
プリームスは溜息をつく。
100歩譲ればアグノスは肉体的、精神的に弱ったプリームスを世話してくれた事になる。
しかし隣で寝ている真っ裸のテユーミアを見ると、そんな気も失せてしまう。
「ならこのテユーミアはどうなる? お前達2人で私を慰み物にしたのではないか?」
プリームスの鋭い突っ込みに焦り出すアグノス。
「あわわ・・・え~と、お世話ついでにご褒美を頂こうと思いまして・・・。でも一人で独占するのも気が引けたと言うか・・・・」
最早言い訳になていないアグノスの言い様に、プリームスは苦笑いを禁じ得ない。
それだけ魅力的に思われ、愛されていると考えれば怒るに怒れないからだ。
それにこれと言った実害も無いので許すしかない。
「まぁお前は私の伴侶と言う事になるようだしな・・・・多少悪戯をされた所で咎める理由にならんか・・・・」
プリームスのその言葉にアグノスの表情がパァッと明るくなる。
『あ・・・要らぬことを言ってしまった!』
とプリームスは後悔した。
詰まる所、今回の様に寝込みに悪戯する程度の事なら許す・・・と言質を与えてしまったのだ。
しかし身内扱いではあるが従者のテユーミアは別である。
こんな事を身内全員に許してしまっては、プリームスの身体が持たないと言う物だ。
「兎に角だ、私の意識が無い間に好き勝手は困る。よって従者にはお灸をすえねばな!」
そう言い放つプリームスは、テユーミアの臀部を勢いよく平手で叩いた。
パーン!!
突然の刺激に眠っているとはいえ、テユーミアが驚かない筈が無い。
「ひゃぁ!?」
と声を上げて慌ててテユーミアは目を覚ますと、自身のお尻に薄っすらと朱色の手跡が付いているのに気付く。
そして眠気眼でそれをマジマジと見つめた後、少しウットリとした表情になり、
「あぅぅ・・・、プリームス様の・・・手形が・・・」
と何故か嬉しそうに呟く始末だ。
そんな状況をみてアグノスは、
『これではお灸では無く、御褒美じゃないですか・・・・』
と溜息をついてしまうのであった。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
プリームスが湯浴みを済ませて身支度を整えた頃に、シュネイが部屋を訪れてきた。
シュネイの恰好は初めてプリームスが出会った時の様相では無く、黒の布地に美しい銀の刺繍が施されたローブ姿だ。
それは厳かな印象を受け、まるで今から何かの儀式を行うのかと思わせる物だ。
『何だか嫌な予感がするな・・・・』
そう内心で呟くプリームスの恰好も、シュネイに劣らず立派な物である。
それはテユーミアが用意してくれた衣装で、黒を基調とし要所に赤の刺繍がされている武術着風のドレスであった。
また地下は地上に比べて気温が低い為、薄紅色の
これはまるで羽衣のように薄く軽いのに、とても保温性に優れて温かく魔法の品で有る事は明らかだ。
ドレス自体の意匠が肩から腕が露出してしまう物なので、プリームスが風邪を引かないようにテユーミアが配慮したのだろう。
更に足元はいつもの如く踵のあるく黒い靴である。
服装を含め、とても危険が伴う場所へ向かう恰好では無いと言えた。
一方、プリームスの世話をしていたアグノスは相変わらず侍女の恰好で、まだまだ世話をしたり無い様子。
そしてテユーミアはと言うと、プリームスとお揃いにしたのか同じ意匠の武術着で、刺繍などは極力控えた簡素な物だ。
恐らくプリームスとの主従関係を明確にしたかった、そんなテユーミアの想いの表れかもしれない。
シュネイはプリームスの艶やかな様相を目にして、見惚れたように呆然としていたが直ぐに我に返ると言った。
「プリームス様、次元断絶を越える前にお話ししたい事があるのですが、御足労願えますか?」
『話をするに場所を変える必要が有るのか?』
と訝しみつつもプリームスは承諾する。
そうして案内された場所を見て後悔する事となるのであった。
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