第242話・弱点と秘密の共有
プリームスは居間のテーブル席に座らされると、右真横に椅子を置きアグノスも座った。
ハッキリ言って密着に近い距離で、非常に動き辛い。
そのままアグノスはテーブルに用意された食事に片手をかざし、
「さぁ冷めないうちに御食べ下さい」
と笑顔でプリームスに告げた。
そんな事を言われても、プリームスの真横に密着されては右手を動かし難く食事もし難い。
しかし楽しそうに笑顔でプリームスに付き添うアグノスを見ていたら、そこを咎める気にもなれなかった。
仕方なしにプリームスは左手でフォークを持とうとするが、
「ありゃ?」
と間抜けな声を漏らしてしまった。
手がプルプルと力無く震えて、上手く食器を持つ事が出来ないのだ。
試しに動き難い右手で試したが、左手と同じ状態でフォークを持ち上げる事も不可能だった。
「うわぁ・・・これは酷いな。"精霊化"の反動がこれ程とは・・・・」
プリームスは自身に呆れるように呟いた。
それを見ていたアグノスは、かなり心配した様子だったが、
「私が全てお世話致しますので、楽にしていらして下さい」
と言い少しニヤけ顔だ。
付きっ切りでプリームスの世話が出来るのが嬉しいのだろう。
またプリームスの言葉が気になったのか、アグノスはスプーンでスープをすくいながら言った。
「精霊化とは何なのですか?」
「言葉そのままだよ。身体を一時的だが精霊と同じ状態にして、この物質世界から逸脱した存在になる。そうする事により周囲からの影響を抑え、逆に自分からの干渉力は高まる訳だ」
そうプリームスが端的に説明をする。
アグノスはプリームスの口にスプーンを運び、優しくその口内にスープを注ぐ。
美味しそうに味わった後、問題なくスープを嚥下出来きたのを見てアグノスは一安心した。
再びスープをすくいながらアグノスは質問を続ける。
「要するに精霊化は"凄い技"?なのですよね? ですが余りにも代償が大きいように思えます。使われるのは危険なのでは?」
完全に介護状態のプリームス。
アグノスにされるがままで照れつつも、プリームスは食事を続け質問に答えた。
「元の身体なら問題は無かったんだよ、多少疲れが出て少し休憩すれば元気になったしな・・・。だがこの身体では最早奥の手になってしまうか・・・・」
プリームスの言い様に不思議そうな表情をアグノスは浮かべた。
「元の身体?」
失念していたとばかりに苦笑するプリームスは、
「そう言えばアグノスには詳しく私の事を伝えて居なかったな・・・・テユーミアが知っているのに、それでは正に公平さが無いと言う物か・・・・」
そう独り言のように呟き、アグノスの目を見据えた。
そして真剣な面持ちで告げる。
「本当の私の身体は、スキエンティアが預かっているのだよ」
「?!」
正直、プリームスが何を言っているのかアグノスは理解出来なかった。
その様子を見てプリームスはまた苦笑して呟く。
「まぁ、そんな反応になるだろうな・・・・」
プリームスは、この世界に来た直後の出来事を、分かり易くアグノスに説明する事にした。
「聖剣の呪いの事は以前話した筈だな・・・・確かエスティーギアと初顔合わせした直後だったか?」
思い出しつつ話すプリームスにアグノスは頷く。
「はい、右胸の魔法の紋様が呪いとなり、プリームス様の魔力と反作用を起こすと・・・・。そして呪いと反発して死にかけたと仰っていましたね」
量は余り食べれないが食欲が湧いて来たプリームスは、雛鳥の様に口を開けて待機・・・嬉しそうにアグノスはスープをその口へ丁寧に運ぶ。
嚥下した後、偉そうに話し出すプリームスは滑稽だが非常に可愛らしく見え、お互いご満悦だ。
「その通りだ。その時に改良した転生魔法で肉体と魂を分離し、肉体をスキエンティアへ預け、魂はこの予備の肉体に移動させたのだ」
更にプリームスは予備の肉体が自身の細胞から作った複製であり、戦で肉体を失ったスキエンティアに準備していた物だと語った。
想像の斜め上を行く事実に、アグノスは唖然としてスプーンを落としそうになる。
だが「スキエンティアが預かっているのだよ」の言葉に合点がいく。
それらを可能する超絶した神域の業は別として・・・・。
以前よりスキエンティアとプリームスの様相が似すぎている事に訝しんでいたからだ。
「要するに中身は別人ですが、肉体は同一人物・・・・変な言い回しになりましたが、そう言う事なのですよね?」
アグノスのその言い様に笑いがこみ上げるプリームス。
「面白い捉え方だな・・・だが雰囲気的にはそんな感じで良いか。フフフ・・・」
そうして再び真剣な面持ちでプリームスは告げた。
「兎に角だ、死に至る呪いの影響は肉体と魂を分けた事で回避した。しかし生み出して15年しか経たぬこの肉体は、私の”本来の力”に耐えられないようだ。それにな・・・呪いは魂に深く根付いているゆえ、この身体への影響が無くなった訳ではない。些細な魔法でも予想以上に消耗が激しい・・・」
それを聞いて悲愴な表情になるアグノス。
「そんな・・・・それでは
『私が眠っている間にシュネイから話を聞き出したのか・・・』
「どうやら祖母と孫の対面は上手く行ったようだな」
そう溜息をつきプリームスが言うと、アグノスは申し訳なさそうに縮こまってしまった。
「別に責めている訳では無い。ここまでお前を連れて来た上に、シュネイより話を聞いてしまったのなら後には引けまい・・・・。そうなるとこれまで以上に危険に巻き込む事になる・・・それが心配でな」
逆にプリームスから心配されたアグノスは心が震えてしまう。
悲しみや悔しさでは無く、それは愛されていると言う認識から来る悦びからだ。
「本当にプリームス様は、女を手籠めにする達人です・・・・これでは女たらしと言われても仕方ありませんよ」
笑みを浮かべながらも不服そうに言うアグノスに、プリームスは嫌そうな顔をする。
「むぅ~ひょっとして皆、私の事をそんな風に思っていたのか?!」
「さぁ?」と惚けるアグノスは悪戯顔だ。
だがそうプリームスを
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