第238話・開かれた道と母親的な
半壊した身体を液体に戻したミメーシスは、そのまま床の隙間へ浸み込むように消え失せてしまった。
そして”精霊化”を解いたプリームスは、その負荷と聖剣の呪いに因る影響でその場に倒れてしまう。
何とかプリームスを抱き留める事が出来たテユーミアは、
「申し訳ありません・・・・私のせいでこんな・・・・お許しください」
まるで自身の信奉する神へ、懺悔するが如く呟いた。
疲れた表情ではあったが笑顔をテユーミアに見せるプリームス。
「許すも何も、お前は何も罪を犯してはおらぬではないか。気に病むことは無い」
そう気遣い優しく告げるプリームスを目の当たりにし、テユーミアは胸が締め付けられる思いがした。
テユーミアは自身の使命が果たされ次第、プリームスへ身を捧げると決めていた。
故にこれからはプリームスの下僕になり、また盾となって身を呈する事を誓い告げようと考えていた。
その時が今なのだ。
「プリームス様が挑む試練は全て完遂されました。これで私の使命も達成された事になります。私の忠誠を受け入れて下さいますか?」
懇願する様なテユーミアの言い様とその表情を見て、プリームスは溜息をつき言った。
「好きにするがいい・・・・。後で私の本質を知って後悔しても知らんからな」
プリームスに気に入られている事に、テユーミア自身は自覚している所があった。
なのでこの言い様は照れ隠しであると直ぐに気付き、キュンっと胸が舞い踊るのを感じる。
プリームスが言うように、この先、予想外の素顔を見る事になるかもしれない。
だが決して後悔も落胆もする事は無いとテユーミアは確信していた。
プリームスはこんな危険な所に興味本位とお節介で付いて来たからだ。
その優しさと度量の大きさは大海の如しと言えた。
更にその全てが神域に到達し、強さと儚さが同居する矛盾した存在。
故に”人外”で在りながら、とても人間臭く魅力的なのだ。
「何十年もかけて漸く見つけたのです、貴女の様な素晴らしい方を・・・・嫌と言っても離れませんからね!」
まるで押しかけ女房の様な事を言うテユーミア。
呆れながらも承諾するように「勝手にしろ」と言いつつ、プリームスはテユーミアの胸に顔を埋めた。
すると傍に来ていたアグノスは溜息をつき言った。
「はぁ・・・これで叔母様も身内の一員になってしまいましたね・・・・クシフォス様には何と言われるおつもりですか?」
するとテユーミアは意に介した風も無く、あっさりと返答する。
「状況がどう変化しようと、あの人との夫婦としての繋がりが消える事は無いわ。それに”この時”が来た場合の承諾は貰っているの・・・・そもそもそれが前提での結婚だった訳なのだから」
守り人一族の一員であるテユーミアには2つの使命があった。
1つは地上の権力と縁を結び子を設け絆を深める事。
そして2つ目は、守り人一族の王が求めるプリームスの様な超絶者を迷宮へ誘うことである。
その2つが達成されれば、幼少より抱いていた”想い”を成就したいと考えていたのであった。
それは自身の存在を託し仕える事が出来る相手を探す事であり、またそれは全てに優先され、テユーミアの中では人生の指針となっているのだ。
初めて聞くテユーミアの話に、アグノスは驚き呆れてしまった。
夫を持つと言う事は家族が有る訳で、そんな人間がプリームスの身内になれば重婚の様な状態になってしまう。
『ウッ!』
自身の迂闊な考えに声が漏れそうになるアグノス。
アグノスは自身をプリームスの伴侶として自負している。
女同士ではあるが・・・・。
そんな自分がテユーミアの状況に、”重婚”のようになってしまう・・・・と思ってしまったのだ。
詰まり、テユーミアをプリームスの伴侶の一人として認めてしまいそうになったのであった。
『ああぁぁあ・・・・これでは更に競争相手が増えてしまいます・・・・』
しかもアグノスがどれだけ心配しようが、プリームスが受け入れを認めてしまったのだから後の祭りである。
そんなアグノスを余所にフィートが呟いた。
「私の扱いは、どうなるのでしょうか?」
ハッとするアグノスとテユーミア。
『『そう言えばここに伏兵がいた!』』
変わり種であるが美形であるフィート。
またここに居るのはプリームスの意向であり、確たる理由が無い為、どうしても訝しんでしまう2人。
そうこうしていると、突如床が揺れ出し地震かと勘違いしてしまう一同。
そして暫くすると目の前の石の床5m四方が、ゆっくりと沈み始めたのであった。
先程の様子とは打って変わりテユーミアはプリームスを抱き上げると、その沈んだ床の方へ歩み出す。
「アグノス、フィート、行きますよ。我が一族の王がお待ちです」
そう2人へ告げた後、腕の中のプリームスへ確認を取った。
「よろしいですか?」
グッタリとした様子でプリームスが頷く。
揺らさない様に慎重に歩み、テユーミアはフワリと沈んだ床に身を躍らせた。
沈んだ床の底は、元の高さより4m程の位置に下がっており、普通に飛び降りれば怪我をする高さだ。
しかしテユーミアは重力を感じさせない様な身のこなしで、殆ど音を立てずに着地する。
それは魔法を使った様子も無く、純粋に身体能力と技術だけで着地したのだ。
感心した様子で呟くプリームス。
「私の身のこなしに随分と驚いていたようだが、お前も大したものだぞ」
眼前に続く発光魔石で構成された隠し階段を進み、テユーミアは少し照れ、そして苦笑いをしつつ答える。
「いえ、そんな・・・・漸くプリームス様の足元に及ぶかと言った所かと思います・・・・」
面倒見が良く、更に奥ゆかしい所があるテユーミアを目の当たりにして、プリームスは笑みが零れた。
今居るプリームスの身内には無い性格の持ち主で、何だか気持ちがホッコリしたからだ。
『皆良く出来た者達だが、”家”を守れるようなドッシリとしたものが居ない故な・・・・テユーミアを迎い入れて丁度良かったのかもしれん。まるで母親役だな・・・・』
などと思いプリームスは苦笑していたが、失念していた事を突如思い出す。
そもそもは拠点探しが事の発端であり、今は母親役に守らせる為の”家”が無いのだ。
更に言えば、この迷宮は拠点には出来ない事が”ある理由”から明白。
詰まり守り人一族の件が片付けば、振り出しに戻る訳である。
プリームスが自身の悪い癖に今更頭を抱えていると、背後でドスンと音が聴こえ少しの揺れを感じた。
テユーミアの身体越しに後ろを確認すると、アグノスがフィートを抱えて着地したのをプリームスは見て取った。
『おいおい、本当に魔術師なのか・・・・?』
同じ血筋でも才能と育ち方で、これ程に変わるのかとテユーミアとアグノスを交互に見やるプリームスなのであった。
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