第232話・下層の門番(1)

プリームスが目を覚ましたのに反応してテユーミアも起き出して来た。



アグノスの世話をして一番最後に眠った筈である、なのでもっとゆっくり眠っている様にプリームスが言うと、

「いえ、主のお世話をするのが従者の務めですので・・・・後に起きてしまい申し訳ありません・・・」

などと言い出すテユーミア。

もう完全にプリームスの従者気取りである。



『本人がそれで満足して幸せなら私は構わんのだが・・・・』

テユーミアを正式に”身内”へ迎え入れている訳では無い。

しかし正直な所、考えるのが面倒になってしまったプリームスはどうでも良くなってしまい、テユーミアの好きにさせる事にした。




そうするとテキパキと動き出すテユーミアは、まるで家族の中心である母親の様にフィートとアグノスへ身支度をさせ始める。

『世話好きな奴だな~』

そんな事をプリームスが思っているとスキエンティアの事が脳裏に過り、ついついテユーミアと比べてしまう。



スキエンティアの場合は世話好きと言うより、プリームスに対してのみ面倒見が良い。

周りが出遅れるならば、それは自己責任であり放って先に進む性格である。

『まぁ身内にはそこまで冷たくはしないだろうが・・・・』



そうしてプリームスは軽薄な自身にハッとする。

皆個性があって然るべきなので、家長としては身内同士を比べて評価するなど有ってはならない。

それは諍いの原因になり得るからだ。


『思ってしまうのはどうにもならんからな、せめて口に出さぬ様にせねば・・・』

プリームスがウダウダと考えている内に、すっかり3人とも行動準備が出来上がる。

後ははだけた寝間着のままでベッドに横たわるプリームスだけであった。



「さぁプリームス様も身支度を整えましょう」

そう言ってテユーミアはプリームスの上半身を起こし、有無を言わさず寝巻きを脱がす。

ダラダラしていたプリームスだけに文句も言えず、成すがままである。



本日のプリームスの衣装は昨日と同じ物では無く、テユーミアが用意した別の物だ。

ちゃっかりとプリームス用に、テユーミアが着せたい衣装を収納魔道具に入れ持って来ていたのであった。


どのような物かと言うとテユーミアと同じ武闘着の類で、かなり身体の線が出る意匠だ。

そして露出こそ少ないが、真っ直ぐに下りたスカートの横が腰の辺りまで深い切れ込みが入っている。

しかも生脚なので歩いたりすれば裾がユラユラと揺らめいて、真っ白なプリームスの太腿がチラチラと露になるのだ。


テユーミアの武闘着と殆ど変わらない意匠であるが、着る人間が違うとここまで扇情的になるとは誰が予想出来ただろうか?・・・そうテユーミアだけが、それを見抜いていたのだ。



アグノスはプリームスの様相を見て拳を握り締めると、テユーミアへ向けて親指を立てた。

「流石ですテユーミア叔母様!!」



何が流石か良く分からないが、プリームスも気に入ってしまう。

「色は黒だが見る角度によって銀の刺繍が浮き出る様になっているな。それに背中はレース地か・・・・地味そうに見えて中々良いではないか」


さり気なく施されている銀の刺繍は、竜を形どった物で何気に威圧感がある。

足元はくるぶしが隠れる程度の踵があるブーツだ。

これもテユーミアが履いている物と意匠は殆ど同じであった。



テユーミアは満足そうに笑顔を浮かべて、アグノスへ頷く。

「フフフ、私の見立てに間違いはなかったでしょ」

そしてプリームスを見やり、

「プリームス様はやはり体の線が出る召し物と、肌の色を際立たせる黒色が一番お似合いですね」

と自信満々で告げた。



一方テユーミアもアグノスも、そしてフィートも昨日と同じ様相だ。

テユーミアとフィートは良いとして、アグノスは侍女の恰好のままである。


『まだ侍女の刑を続けるつもりなのだろうか・・・・?』

プリームスがそう思っていると、テユーミアが察したように言った。


「昨日アグノスは、侍女らしい事は余り出来ていませんでしたからね。本日も続行で良いかと思いまして」



これにはアグノスが大喜びだ。

プリームスの世話を1から10までこなす侍女の刑なのだが、どうやらご褒美であったようである。

それにテユーミアが甲斐甲斐しくプリームスを世話してしまった為、昨日はアグノスの出番が減ったのだ。

そう考えれば、この2人は結託している様に思えて仕方無いプリームスであった。




漸く全員の準備が整い軽く朝食を済ませると、時刻は午前10時をまわってしまっていた。

こうして2つある通路のうち、100m先に門が見て取れる方へプリームス一行は進む。

片方は50m程進んだ辺りで瓦礫に埋まり、通行不能になっていたからだ。



「ここまで来ると、もはや案内は不要だな・・・」

そう言ってプリームスは門の前で立ち止まった。

その門は高さ3m、横幅は2.5m程の大きさで、どうやらオリハルコン製のようだ。

つまりオリハルコンの様な独自の機構で開閉する、頑強な物で守らなければならない重要な経路なのだ。



『この先に最強の門番が居るとするなら、王の所在も目と鼻の先であろうな』

プリームスが内心でそう呟いていると、テユーミアがプリームスあるじを待たせまいと素早く門に触れた。

途上にあった巨大なオリハルコン製の門と同じく、防衛機構により遺伝子認証をするのだろう。



すると迷宮の元防衛担当であったテユーミアに反応し、門は小さく振動した後に音も立てずに横へ滑るように開いた。

そして急かす様にテユーミアは一同へ告げる。

「ここは最重要経路ですので、この門は直ぐに閉じます。急いで中へ」



テユーミアの指示通り即座に門を潜ると、内部は暗闇で満たされていた。

不安がるアグノスとフィートを余所に、プリームスは躊躇わず闇の中へ歩を進める。

すると突如、床が淡く発光し空間を照らした。



この空間の広さは50m四方の大きなフロアーになっており、天井の高さも10mは有りそうである。

天井も床と同じく淡い光を放ち、それで漸くこの空間の全容が把握出来る状態であった。



『これは発光魔石では無く、魔力を意図的に伝播させ発光させる機構のようだな。つまり何者かがそうしたか、或いは入り口の門の開閉が切っ掛けと言った所か・・・』

プリームスが呑気に分析していると、突如フロアーの中央の床から何かが染み出す。


そしてそれは、まるで剣の形状を模して、床に突き刺さった様な状態を見せるのであった。


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