第212話・上層の管理者(1)
プリームスとフィートが抱き合って巨大縦穴を降り切ると、既に先に降りていたテユーミアとアグノスに睨みつけられてしまう。
正しく言えば睨むでは無く、羨ましそうに見つめられたのである。
要するにプリームスと密着出来たフィートを妬んでいるのだ。
それを敏感に感じ取ったのか、フィートは地面に足が付いて早々、そそくさとプリームスから離れてしまった。
一方そんな事はお構い無しに2人へ告げるプリームス。
「2人とも降りるのが早いな、飛行魔法でもつかったか?」
プリームスはフィートの安全を考慮して、浮遊魔法による緩やかな落下を選んだのである。
正直な話、テユーミアとアグノスの魔法技術を全く把握していないプリームスではあるが、状況を見るに2人はそれなりに魔術は達者なようであった。
「はい、1人でしたら飛行魔法の方が楽ですから」
とアグノスは素直に答える。
「そうですね、でもプリームス様に抱きしめて貰えるなら使うべきでは無かったですね・・・」
と、こちらは一癖あるテユーミアだ。
プリームスは苦笑する。
「少し疲れてきたからな、次が有ればどちらかがフィートを頼むぞ」
つまり中層、下層も煩わしい探索などすっ飛ばして最短経路で行きたいと暗に言ったのだ。
それを聞いたテユーミアも同じく苦笑した。
「心得ておりますよ・・・では早々に上層の管理者の元に向かいましょうか」
そう言って1つしかない通路へ足を踏み出す。
その通路は横幅5m程、高さは3m程しかなく、30m程度進むと行き止まりになり頑丈な鉄の扉が見て取れた。
その鉄の扉の前に立ちテユーミアはプリームスへ告げる。
「この先に上層の管理者と戦える試練場があります。準備はよろしいですか?」
頷くプリームス。
「まだ中層と下層も残っているのだ、さっさと済ませよう」
テユーミアは、セッカチで大雑把なプリームスの様子に呆れてしまう。
しかしながらテユーミアも本当に心配して注意を促したのだ。
何せこの階層の管理者は、魔術師然としたプリームスとは相性が悪そうだからである。
「本当にもう・・・後悔しても知りませんからね」
そっと片手で重そうな鉄の扉に触れるテユーミア。
するとまるで軽い木の扉のように奥へ開き、さっさと扉を抜けてテユーミアは中に入ってしまう。
プリームスもその後に続き、この鉄の扉が見た目だけの軽い物か確かめてみるが・・・・本当に重い鉄の扉であった。
厚さは15cmで完全な鉄製、数百キロは有りそうな扉は、ひ弱なプリームスでは全くもってビクともしない。
テユーミアは体中に魔力を巡らせ筋繊維と融合させる事で、想像を絶する膂力を得ているのだ。
だがそんな事は普通は無理であり、可能だったとしても相当な技術と魔力強度を有していると考えられる。
『これは流石に私でも真似は出来ないな・・・』
とプリームスは鉄の扉を見つつ呆れたように苦笑いをした。
そうするとテユーミアが振り返り告げた。
「やはりまだ気付いていないようですね。私が直接管理者を呼んで参りますね」
プリームスがテユーミアの居る場所を見ると、そこは円形状の小振りな闘技場のように見えた。
3m程の壁に囲まれた円形の更地の外側は、広くは無いが階段状の観客席迄ある。
またかなり高い天井部分から、下の更地部分を局地的に照らす魔法の光が降り注いでいた。
テユーミアの元まで徐に歩み寄り、プリームスは笑みを浮かべながら言う。
「何とも管理者の趣味が分かる場所だな・・・」
恐らくこの上層管理者は戦い好きなのだろう。
それも正々堂々と試合方式で行う、物理戦闘型と思われた。
理由は直径15m程の小さな闘技場だからだ。
もしこれが魔法を絡めて戦う場であれば、これの2倍以上の広さが必要になる為である。
「そうですね・・・」と言ってテユーミアも小さく笑った刹那、観客席辺りから野太い男の声がした。
「縦穴を使った奴が居たと思えば、やはりテユーミアだったか・・・」
観客席側は闘技場を見易くする為に薄暗い。
そのせいか声の主の様相は良く確認は出来なかった。
しかし大きな体躯なのがその輪郭から見て取れ、プリームスが予想した通りに物理型の武人と言えた。
プリームスが暗がりの中の武人を値踏みしていると、相手も同じ事をしていたようである。
「なんだ?
などと観客席の男は言ったのだ。
そして溜息をついたが、直ぐに驚愕の声を上げる。
「むお?! その白くてちっこいのは本当に人間か?! 凄い別嬪ではないか・・・妖精か人外の者ではないのか?」
初対面の相手に対して何とも失礼な言い様である。
これにはテユーミアが怒りを露わにした。
「師匠・・・プリームス様にそのような言いよう、まかり通りませんよ!」
『テユーミアの師匠と言う訳か・・・ならば同じ脳筋か、或いは・・・』
とテユーミアの言葉を聞いて、プリームスはほくそ笑んでしまう。
そうすると観客席に居た男は、その場から跳躍し一瞬でテユーミアの目の前に降り立った。
だがその巨躯に似合わず、羽毛の様に殆ど音を立てずに着地した様子は、不気味であり違和感を感じさせる。
「いやいや、すまん。久々の来客で饒舌になってしまったようだ。で、テユーミアがそう言うからには、その白いお嬢ちゃんが王の求める強者な訳だな? 全然強そうに見えんな・・・」
そう笑顔で告げたテユーミアの師匠は、メルセナリオ程の巨躯を持つ壮年の男であった。
「師匠は相変わらず向こう見ずですね・・・。それに人を見かけで判断しない方がいいですよ」
と不機嫌な口調で言うテユーミア。
自分が気に入った相手が
「ほほう・・・面白い! 俺の名はイースヒース・・・このテユーミアの武芸の師でもあり、この上層の管理者だ」
この豪胆な男は、屈託の無い笑顔でプリームスにそう告げた。
イースヒースは、王に実力を示す為の試練の相手だ。
別に敵と言う訳では無いので、プリームスも普通に名乗る事にする。
「私はプリームスだ。肩書きは・・・特に無いな、ただの異邦人だ」
するとプリームスの背後で控えていたアグノスが、
「プリームス様、今は魔術師ギルドのマスターと言う肩書きがありますでしょう・・・」
と見かねた様に言った。
『そんな事この男に言ってどうにかなる物でも無かろうに・・・』
プリームスがそう思っていると、意外な事に相手は感心した様子を見せた。
「その歳でギルドマスターとは、随分と優れた才能の持ち主のようだな! 益々面白い! ならば早々に試させて貰うとしようか!」
見た目そのままの歳に見られ否定しようとしたが、面倒なので止めるプリームス。
今後もこの様に容姿で侮られる可能性はあるが、その時は力ずくでギャフンと言わせれば良いのだ。
それに見た目で惑わされる様な相手など、正直どうでもいい。
ゆえにこのイースヒースも、進路に転がる小石の如く蹴飛ばすだけである。
こうしてプリームスと上層管理者イースヒースの戦いが始まろうとしていた。
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