第五章:古代迷宮の守人
第5章予告
そこは暗く陰湿な空気が漂った空間。
窓などは1つも無く、普通の人間なら息が詰まってしまうだろう。
その部屋は思った以上に広く、壁を見ると武骨に削り出された岩を使ってはいるが丁寧に組み上げられており隙間は無い。
また薄暗い割には見通しが利いた。
光源らしき物・・・例えば蝋燭の炎などは一切見当たらない。
では何故、薄暗いだけで闇が支配していないのか?
それは部屋の床に幾つも並べられた巨大な水瓶の所為だ。
その水瓶は高さこそないが横に巨大で1.5mは有ろう口を開き、水を湛えている。
そしてその水が光を発して部屋中を淡く照らしていたのであった。
「長い時が過ぎた・・・・でも貴方と私は何も変わらない・・・・」
深い藍色の長い髪を持つ女性が、部屋の中央にある一際大きい水瓶を覗き込み呟く。
その女性は透き通るような白い肌で端正な顔立ちをしており、歳は妙齢のように見える。
しかしその醸し出す雰囲気は、幾星霜もの年月を歩んできた老人のようだ。
「変えなければ・・・・取り戻さなければ・・・・。私はどれだけの歳月をかけても必ず・・・・」
その目が見据えるのは巨大な水瓶に湛えている水面。
淡く光を発するそこには何が見えるのか?
「深部に何者かが到達したようです」
いつの間にか傍に佇んでいた黒い影が告げた。
「そう・・・・」
素っ気なく深い藍色の髪の女性は言った。
そして僅かな期待を込めた光が女性の目に宿る。
「久方ぶりのお客様ね。でもここまで来れるかしら? それに私が望む実力を持っているのかしら?」
佇む黒い影は何も答えない。
静寂と沈黙が答えでもあるかのように・・・・。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
周囲は暗黒に包まれていたが、光も溢れ出していた。
何とも矛盾する情景だが、そこには確かに光と闇が同居していたのだ。
見通せば遥か彼方まで続く様にも、だが閉鎖された闇の空間のようにも感じる。
時は”停滞”し過去も未来も存在しないその空間は、最早地獄と言えたかもしれない。
そんな虚空の地に、たった一人の男が立っていた。
背は180cm程のどちらかと言うと細身な体形で、精悍なその顔つきは意志の強さを物語っている。
その身に纏うのは遥か最北の地にある民族衣装で、着物と言われるものだ。
それは淡く美しい藤色を基調としたもので、更にその上に青銅色の陣羽織を羽織っていた。
そして右手には漆黒の刃が握られて、見る者が見れば神器級の物だと一目で理解出来る得物であった。
男が見据える遥か先の虚空に、朧げだが闇色の軍団らしき物が見て取れる。
「何度来ても同じことだ・・・・」
男はそう呟いた。
全てを諦めた様な表情で・・・・だがその瞳は力を失ってはいなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます