第181話・メンティーラの真実(1)
「そう言う訳で法王とは話が付いていてな。もう君達がこの学園で潜入工作を行い続ける必要は無い」
そうプリームスはバリエンテ達を見据えて告げた。
プリームスと法王ネオスが面会した経緯、そして話し合ったその内容を聞きバリエンテ達は唖然とするしか無かった。
一年近くも魔術師学園で生徒として潜入していたのだ、今更そんな事を言われても実感が無く半ば信じられない状態であった。
イディオトロピアが一早く我に返り、詰め寄らんばかりの勢いでプリームスへ尋ねる。
「妹は、私の妹は大丈夫なの?!」
プリームスはイディオトロピアを落ち着かせた後、笑顔で言った。
「大丈夫だ。妹さんの治療は継続して行われる。只、新設する魔術師ギルドの運営に携わって貰う事になるが、問題無いかね?」
するとイディオトロピアは胸を撫で下ろすと、納得したように頷いた。
「勿論問題無いわ。今の状況より遥かにマシな待遇で逆に怖いくらいよ。でも妹とは随分と会っていないから・・・寂しがっていないか心配かな・・・」
「まぁそれは杞憂になると思うぞ・・・フフフ」
と何か思わせぶりに笑みを浮かべるプリームス。
その次はバリエンテが慌てた様子でプリームスへ問いかけた。
「ノイーギアの両親はどうなったんだ?」
当人より取り乱しているバリエンテは滑稽に見えたが、それだけノイーギアの事を心配しているのだろう。
何よりも2人は恋人同士なのだから。
「ノイーギアの両親も心配無い。免罪され牢を出て今は自由の身だ。だが家の再興は諦めて欲しい。魔導院の新体制下では他の貴族の反発が強く争いの火種になり兼ねんからな」
プリームスはそう少し申し訳なく告げた。
元より法王ネオスは、ノイーギアを使い潰すつもりだったのだ。
詳しい話は聞かなかったが、ノイーギアの両親は前法王の側近であったらしい。
そして政変が起こり前法王が失脚、その勢力にあった者達も粛清された。
詰まる所、前政権に居座っていた者達が、元の地位を取り戻す事など出来る訳が無かったのである。
それを理解していたのかノイーギアは殊勝な様子で言った。
「父と母が無事であれば何も文句など有りません・・・有難うございます、プリームスさん」
「うむ、では魔術師ギルドに関しても問題無いと受け取るが・・・」
そうプリームスが尋ねるとノイーギアは頷き、深々と頭を下げた。
「お、俺も異論は無いぞ!」
と再び慌ててバリエンテが言った。
デカイ体躯の割に小心者である。
そんなバリエンテを見てプリームスは苦笑する。
「分かっている。ノイーギアとお主は一蓮托生であろう? と言うか君達は3人協力して今まで頑張って来たのだ。これからもギルドの運営に一丸となって働いて貰うぞ」
そうしてプリームスは、先程から押し黙っているメンティーラへ視線を向けた。
「さて、メンティーラ・・・多くを語らずとも分かっていよう?」
プリームスに声を掛けられてメンティーラはビクリと肩を震わせる。
『怯えている相手に追い討ちするようで気乗りしないが・・・』
そう内心で呟いた後、プリームスはスキエンティアを呼び、
「調査の報告を頼む」
と端的に告げた。
「はい、では魔術師学園の生徒であるメンティーラさんの調査報告を口頭でお伝えしたいと思います。先ずはご実家、ポリディス商会について説明致します」
スキエンティアがそう言った瞬間、メンティーラは俯いていた顔を上げ悲壮な表情を浮かべる。
スキエンティアの調査によれば、メンティーラの実家は王都エスプランドルの豪商であるらしい。
基本的には食料の貿易を主とし、また王都内に複数の高級料理店を営んでいる。
そしてポリディス夫妻は子宝に恵まれず実子は存在しない。
ではメンティーラの存在は?
実はメンティーラは養女なのであった。
更にポリディスの養女になったのは3年前で、そこから直ぐに魔術師学園に入学していたのだ。
「まるで学園へ入学する為に商人の養女になったように見えるな」
そうプリームスが呟くと、スキエンティアは頷いた。
「はい、更に身元を調査したところメンティーラさんはリヒトゲーニウスの人間では無い事が分かりました。ですが魔術師学園には才能が有れば他国の人間でも入学は許可されます。まぁそれなりの審査は有るようですが・・・。つまり他国の人間としてでは何か不味い事でもあったのでしょう」
スキエンティアは淡々と補足するようにプリームスへ説明をした。
プリームスはメンティーラを見据えると抑揚の無い声で告げる。
「ここまで来て隠し通す必要もあるまい? メンティーラ、君は何のために魔術師学園へ”潜入”したのかね?」
返答に窮しているのか・・・それとも黙秘し続けるつもりなのか、メンティーラは再び無言で俯いてしまう。
「・・・・・・・・」
それを見兼ねたスキエンティアが追い打ちとばかりに
「ポリディスはリヒトゲーニウス王国で唯一、魔導院と貿易をしている商人です。魔導院、いえ法王ネオスには随分と覚えが良いようで、信頼も厚いらしいですね・・・ねぇメンティーラさん?」
とワザとらしく問いかけた。
これが決め手になり、メンティーラは諦めたように顔を上げ溜息をついた。
「しっかりと外堀を埋められていたようですね・・・。もはや逃げる事も力で抗う事も不可能でしょうし・・・分かりました正直に話しましょう」
バリエンテ達が固唾を呑み見守る中、メンティーラはハッキリを言った。
「私は魔導院法王ネオス・エーラの娘、フィーユ・エーラと言います」
「なぬ?!」
と少し間抜けな言葉が出てしまうプリームス。
まさかの法王の身内と言う事に、流石のプリームスも驚きを隠せないのであった。
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