第162話・罠と罰とご褒美と

「食当たりで救急搬送されてしまいました」

と申し訳なさそうにアグノスは告げた。



「・・・・・・」

一瞬無言になるプリームス。


そして溜息をつくと呆れたように言った。

「予測はしていたが、まさか食当たりとは・・・」



アグノスの話によると、プリームスと別れてからバリエンテ達は昼食を取りに行ったらしい。

ただ食事を取るだけなら問題は起こらなかったのだろう。

しかしバリエンテ達3人だけでは無く、もう1人同席した人間が居たのだ。

その同席した人間と言うのが、魔法戦術連盟の副団長メンティーラであった。



何故そうなったかと言うと、昼食を御馳走するので4人で話がしたいとメインティーラが申し出た事に端を発する。

余りにもしつこいので承諾し仕方なく昼食を一緒にした。

そうして後になって3人とも食当たりを起こしてしまったのだ。



プリームスは何かしらの方法で、メンティーラがバリエンテ達に接触してくる事を予測していた。

そしてバリエンテ達を罠にはめる事も予測出来ていた。

故にバリエンテ達と別れた時に、それとなく忠告しておいた訳である。


ひょっとすれば本当に偶然の食当たりなのかもしれない。

しかし十中八九、バリエンテ達は嵌められたとプリームスは考えていた。



では何故、メンティーラがバリエンテ達を罠にはめて食あたりにしてしまったのか?

理由は簡単である。

明日行われるアロガンシア王子との決闘で、バリエンテ達を勝たせない為だ。


何とも仲間思いであり、団長思いのメンティーラである。

小ズルい手を使う誇りの無い女ではあるが・・・。



プリームスが思いに耽っていると、心配した様子でアグノスが顔を覗き込んで来た。

「申し訳ありません。プリームス様がわざわざ彼らの面倒を見てくれたと言うのに、こんな事になってしまって・・・」


機嫌が悪くなったと勘違いしたようである。



首を傾げるプリームス。

「何故アグノスが私に謝るのだ? お前は何も失敗していないし、迷惑も掛けていないだろう?」



すると畏まった様子でアグノスは答えた。

「プリームス様は学園の事や、問題児扱いされているバリエンテ等の事を考えて動かれたのでしょう? ですのに私は、防げたであろう事態を見過ごしてしまったのです」



プリームスはアグノスの背中を優しく撫でる。

そして抱き寄せたまま囁きかけた。

「お前は頑張っているではないか。それに理事の仕事は私がすべき所を、アグノスが全部してくれている。バリエンテ達の事にしても私が勝手にしている事だ。多少不都合な事態が起きたからと言って、それがアグノスの所為になるのは可笑しかろう」



そう言われてもアグノスは首を横に振ってしまう。

「プリームス様が何をなさろうとしているかは、私などには推し量る事は出来ません。ですがバリエンテ達3人が決闘に敗北すれば、プリームス様にとってご都合が悪いのは明らかです。足を引っ張ってしまった私自身が不甲斐なくて・・・」



思ったより頑固なアグノス。

どう慰めたものかとプリームスは困り果てる。

正直、プリームスにとって想定内の事が起こっただけで、別に都合が悪い訳では無かった。

多少面倒臭い事にはなりはしたが。



そんな2人の様子を傍で見ていたスキエンティアは、苦笑しそうになり慌てて堪えた。

プリームスを慕う者は皆、何とかして役に立ちたいと願うのだ。

しかし他の身内がこうして躍起になっている所を目の当たりにすると、ついつい笑みが零れそうになる。


勿論それはスキエンティアも同じであり他人事では無い。

だからこそスキエンティアは、そんな素振りを悟られない様に口煩く言ったり、冷静ぶったりしているのだ。

そして今、自身を冷静に見てしまい自嘲してしまう。

『我ながら素直ではないな・・・』



そう考えるとアグノスは自分に素直で真っ直ぐだ。

スキエンティアからすれば、そう振舞えることが羨ましく思え若さを感じる。


そんな事を他人に思われているとは、アグノスも思ってはいないだろう。

故にまだ続いていた・・・。


「う~ん、ではどうすればいいのだ?」

とプリームスは困り果てて投げてしまった。



するとアグノスはプリームスに半ば詰め寄り、

「私に何か躾を・・・罰をお与え下さい!」

などと言い出す。



「ええぇ~?!」

流石のプリームスも、そのアグノスの言い様にドン引きだ。

そしてスキエンティアは、もう我慢できずに笑い出す始末である。

片やフィエルテはと言うと、何故か羨ましそうな顔を浮かべるのであった。



再び困らされてしまったプリームスは、考え込んでしまう。

「う~ん、子供でもあるまいし躾と言われてもな。それに悪さをした訳でも無いのに罰とは・・・」



乗り気ではないプリームスへ、上目遣いで無言の圧力をかけるアグノス。

何故だか追い詰められたような状態で、プリームスは仕方なく思考を巡らせた。


『うむむ、アグノスは王女・・・姫だしな。いや、もう王位継承権を放棄するなら王女でも無いのか? しかし身分や地位からくる誇りを少し傷付けるくらいしか・・・』



意を決したプリームスはアグノスへ告げる。

「”この件”が済んだらアグノスは、王女としての振る舞いを暫く禁止する。その間、私の専用の従者として付き従って貰うぞ。勿論1から10まで私の世話をさせる・・・良いな?」



それを聞いたアグノスは嫌な顔を浮かべる所か、満面の笑みに変わった。

「そのようなご褒美・・・いえ罰を今の私に耐えられるかどうか心配ですが・・・誠心誠意尽くさせて頂きます!」



予想とは違うアグノスの反応にプリームスは戸惑ってしまう。

そして選択を失敗したことは分かったが、どう失敗したのは見当もつかない。

取り合えず適当に愛想笑いをしておく。

「あ、あぁ、頑張ってくれ」



兎に角、この状況から逃れる為に話を変える事にするプリームス。

「バリエンテ達が心配だ、今からでも様子を見に行こうかと思うのだが」



すっかり気を取り直したアグノスは頷くと、

「分かりました。今は学園診療所で治療中です、ご案内いたしますね」

一瞬で真面目な表情に切り替えプリームスへそう言った。

何とも現金な娘である。



アグノスが先導するように部屋を出たのを見計らって、スキエンティアがプリームスへ小声で話し掛けて来た。

「プリームス様、調査の結果報告はどういたしますか? アグノス姫の耳に入っても良いのか判断しかねますので」



『と言う事は私の洞察通りと言った所か』

そう内心で呟きプリームスはほくそ笑む。


そうしてフィエルテの手を引きながらスキエンティアへ告げた。

「報告は二人だけの時にでも聞こう。先ずはバリエンテ達が先だな」


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