第120話・フィエルテ強化計画(1)

バリエンテ達への許可証の用意は問題無く?済み、後は翌日を待つだけである。


ただ、どうしてプリームスが問題児であるバリエンテ達に手を差し伸べたのか・・・その理由はまだ”身内”には話していない。

しかも何をして、どう言った結果に導くのかさえ説明もまだなのだ。



「その様子ですと問題児3人にも計画の全容は話していないようですね?」

と勘繰るようにアグノスがプリームスへ尋ねた。



「うむ・・・悪い影響が出るなら話さぬ方が良い。それにこれは彼らだけの問題では無いからな。この学園の欠陥を修正するにも一役買うだろうし、失敗させたくはない」

そうプリームスは告げて来客用のソファーに腰を下ろす。



考え込む様子でアグノスは呟いた。

「欠陥ですか・・・」

そして不安そうに再び問いかける。

「私にも詳しい内容は話せないのですか?」



するとプリームスは少し苦笑いをするように訊き返す。

「聞きたいか?」



アグノスは返答に窮して言葉を詰まらせてしまう。

『ううぅ、聞けばきっと無茶な内容に反対してしまう。でもプリームス様の事ですから、全て見通した上での事でしょうし。あぁ~ん、もう・・・』


結局アグノスはプリームスの企む計画を把握しない事にした。

知れば色々気持ち的にも苦労しそうだからだ。

「やめておきます」



「そうか・・・」

と言ってプリームスは苦笑するだけであった。


それから申し訳なさそうな顔をすると、

「理事長の業務をアグノスに任せきりになってしまうが、構わないだろうか?」

そう言ってアグノスのスカートの裾を摘まむと上目遣いで見つめる。



何ともあざといが、先に惚れたが運の尽き・・・。

余りにも美しく儚い為、守ってあげたい、何かしてあげたいと言う衝動に駆られてしまうのだ。

アグノスは溜息をついて仕方なく頷く。

「余り乗り気ではありませんが、プリームス様に任せると言われては断れませんよ。その代わり埋め合わせはして貰いますからね!」



アグノスのその言葉にプリームスは満面の笑みを浮かべる。

「ありがとう」




話も一段落した所で、フィエルテがおずおずとプリームスへ話しかけて来た。

「あの~、宜しいですか?」


この娘は”身内”だと言うのに、どうも遠慮がちな所がある。

もっと積極的に絡んで来れば良いのにとプリームスは思ってしまう。

「何だい? 遠慮せずに言ってみなさい」



するとフィエルテは傍までやって来て、ソファーに座っているプリームスに目線を合わせる様その場に膝を着いた。

元々武家のような血筋で、上下関係や主従関係に五月蠅いようだ。

よって振舞いを厳しく教育されたようである。

何と言うか堅苦しい・・・。



「お疲れでなければ、私の武術の指導をお願いしたいのですが」

と真っ直ぐにプリームスを見据えてフィエルテは言った。



そう言えばそんな約束をしていたな・・・と今更ながら思い出すプリームス。

フィエルテは、自身がスキエンティアのような武力が無い事に悩んでいる。

恐らく死神アポラウシウス並みの強敵が現れた時に、対処出来ずプリームスを守れない事を危惧しているのだろう。



それでもプリームスの見立てでは、一般的な傭兵や騎士とは雲泥の差が開く程の実力が有る様に感じた。

要するによっぽどの事が無い限り心配は要らないのだ。



とは言うものの、頭で分かっていても感情が納得しないのが人間である。

そんなフィエルテの焦りの気持ちを思い、考えを改めるプリームス。

『望んでいる物を与えるのが、主の役目でもあるな』



プリームスはソファーから立ち上がると、

「約束でもあるしな、時間の許す範囲で出来るだけ鍛えてやろう」

フィエルテに笑顔を見せてそう告げた。



先程まで少し遠慮していたのか伏し目がちだったフィエルテは、嬉しそうに表情を明るくする。

「ありがとうございます! で、では、どう言った事から鍛えて頂けるのでしょうか?」

その瞳はプリームスを見つめ輝いていた。



何を鍛えるのか全く考えていなかったプリームス。

その為、慌てて思考を巡らす。

慌てた理由は、自分を慕い忠誠を誓ってくれているフィエルテに落胆されたくないからだ。

あんな純真な瞳で見つめられたら、主としては恰好も付けたくなると言う物だ。



しかし身内に対して恰好を付けるなど、慣れない行為である。

因って上手く行く訳が無かった。

『技術的な面ではスキエンティアが教えているようだし・・・不味いぞ、何も思いつかん』



「どうしよう?!」

と声が聞こえてきそうな不安顔で、プリームスはスキエンティアを見つめる。



スキエンティアは溜息をつく。

そしていつも通りの大雑把さに加え、子供じみた見栄を張るからだと突っ込みそうになる。

が、口に出すのは控えた。

それはプリームスに違和感を感じたからだ。



以前のプリームスは、こんな見栄など張らない。

自身の考えが及ばない部分を冷静に判断して、部下に意見を求め進言させていたのだ。

詰まる所、今はプリームスが子供ぽいのである。



『ひょっとして依代である肉体に影響されているのか?』

スキエンティアはそう思い至り不安になる。

今のプリームスの肉体は15歳程なのだ。

精神もそれに牽引されて幼くなってしまったのなら、色々大変な事を引き起こしかねない。



とにかく今は、主が本格的に取り乱す前に対応すべきでだ。

「フィエルテに”意識”と”無意識”について教えてみては如何でしょうか? 理論と技術畑の私では教えられない分野ですので」

これは恰好を付ける事に”意識”してしまったプリームスを見て、思い付いた意見である。


我ながら絶妙な内容だと自身を褒め、ほくそ笑んでしまうスキエンティアであった。


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