第119話・正式な許可とトンチンカンな、

プリームスが理事長室に戻ると、アグノスが忙しそうに書類を片付けていた。

どうやら理事長代行としてプリームスがする事務業を、アグノスが処理してくれていたようだ。



「済まないアグノス。仕事を押し付けてしまったな・・・」

プリームスが申し訳なく愛想笑いを浮かべてアグノスの元へ近づく。



するとアグノスは笑顔で迎える。

「おかえりなさい、プリームス様」


そしてプリームスにまるで新婚の夫婦のように口付けをして、

「元々お母様がプリームス様に押し付けた仕事ですから、娘の私が肩代わりして処理するのは当然ですよ」

とアグノスは逆に申し訳無さそうに言った。



プリームスはアグノスを抱き寄せて優しく頭を撫でる。

「お前は良く義理と道理を弁えているな。優しくて機転が利いて、私には勿体ないくらいだよ」

そう言って更にアグノスのお尻を撫でたり、胸を軽く擦ったりしだした。



照れつつも少し嬉しそうなアグノス。

何だか積極的に触れてくれるプリームスに、違和感を覚えたが気にしない事にする。


何故ならプリームスの行う事には意味が有るからだ。

それに愛でられるのは、アグノスにとってとても大切な事で、愛情を確認出来る指数なのであった。



それを少し離れた位置で見ていたスキエンティアが、苦笑するのを堪えていた。

『おべっかで何とかしようとは・・・我が主ながら往生際の悪い』



不思議そうにフィエルテがスキエンティアへ囁き尋ねる。

「何だかプリームス様の様子がいつもと違いますね。あのようにベタベタされる印象が無いのですが・・・」


スキエンティアは人差し指を縦に口に当てて、堪えきれず苦笑いを浮かべた。

「静かに・・・見ていれば分かりますよ」




プリームスはアグノスを背後から抱きしめると、その耳元へ小さく話しかける。

「アグノス、話しておきたい事がある。それとお願いがあるのだが、聞いてくれるかい?」


その時、プリームスの大きくて柔らかな胸がアグノスの背中に密着し、その感触と体温を伝えた。

突然の展開と言い様に「えっ?!」と問い返すアグノス。



プリームスはもう一息と言わんばかりに追撃した。

右手がアグノスの腰に深く入ったスリットへ差し込まれ、優しくもてあそぶように、その太腿を撫でたのだ。

更に左手は胸元へ触れ、優しく擦るのを忘れない。



プリームスから感じる肉感と、突然のご褒美による悦びでアグノスは正常な判断力を失いつつあった。

「は、はい・・・何なりと・・・」



アグノスを愛でる手を止めずにプリームスは話し始める。

「下級学部の生徒である、バリエンテ、イディオトロピアとノイーギアを知っているな?」


段々と息が荒くなるアグノスは何とかそれに応答する。

「・・・はい・・・下級学部の・・・い、一番の問題児です」



「彼らに団体を結成させ、学部外活動を日がな一日させる事にした。それでな、何か許可証がいるなら用意してやって欲しい。因みに明日から活動を始めて、私が顧問として傍に居るぞ」

とプリームスは一気に捲し立てた。



愛でられながら喘ぎそうな自分を抑えつつ、アグノスはプリームスの言葉を脳裏で何度も反芻してしまう。

何故なら理解するのに時間がかかった為だ。

詰まり身体が反応し、悦びに脳の大半が支配されてしまったからであった。



「え?!」と声を漏らすアグノス。


「うん?」と問い返すプリームス。



「今、何と仰いました?」

身体は反応してしまい、アグノスの息が荒くなってしまっている。

しかし目は冷静そのものであった。



弄り愛でていたプリームスの手は止まってしまい、

「え~と・・・その問題児3人に団体結成と活動の許可を与えた。後、私が彼ら3人の顧問だ・・・」

そう少し弱気に告げてしまう。



突如プリームスの手を跳ね除け、お尻を突き出すアグノス。

そうすると突き出したお尻に押され、プリームスは後方へたたらを踏んでしまった。

「な、なにを?!」

と焦った様子のプリームス。



プリームスへ振り向いたアグノスは詰め寄ると、怒りを露に言い放った。

「なにを?じゃありません!! 何故そんな余計な事を勝手になさるんですか!?」

衣服を乱れさせ、下着も見えてしまっている状態で怒鳴られても、余り迫力は無いと言う物だ。



だが思った以上のアグノスの憤りに、プリームスは驚いてしまう。

確かに理事長補佐であるアグノスに相談せず勝手をした。

しかし見過ごせない状況で有ったのは確かであり、自身が行った事に何の後悔も無かった。

有るとすれば、それはアグノスの機嫌に対してと言ったところか・・・。



プリームスはアグノスに気圧されながらも反論する。

「うむむ・・・そんなに怒る事もないだろう。怒る理由は何だ? やり方がまずかったのか? それとも相談しなかったことを怒っているのか?」



アグノスはガシっとプリームスの両腕を正面から掴み、そしてその目を鋭く見据えた。

「そんな事どうでも良いのです!」



「え?!」

と意味が分からず、ついプリームスは声を漏らす。



「日がな一日、顧問としてプリームス様が傍におられるのでしょう? そうなったら私と過ごす時間が減ってしまいます!!」

項垂れながらアグノスは言い放った。



余りのくだらない理由に今度はプリームスが項垂れてしまう。

『え~~~、そこなの!?』



少し離れた位置から傍観していたフィエルテが、小さな声で言った。

「私も他人事では無いです・・・もっとプリームス様と2人きりの時間が欲しいと、つい考えてしまいますし」

その言葉はスキエンティアへ向けられた物であった。



当のスキエンティアは特に意に介した風も無く、惚けた様子で呟く。

「まぁ私は振り回されるのは慣れていますからね」




かくしてバリエンテ達の団体結成と学部外活動の許可は、正式に下りる事となる。

だがその代償として、アグノスへの更なるおべっかが必要となるのであった。


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