第104話・古代迷宮の魔女(2)
しこたまアグノスへ悪戯をして満足したのか、プリームスはご満悦の様子だ。
被害者であるアグノスはと言うと、疲れたようにグッタリしてしまっている。
しかしその表情は若干恍惚としている様にも見えなくは無い。
フィエルテが少し顔を赤くしてプリームスへ尋ねた。
顔が赤いのはアグノスが目の前でプリームスに弄られていたからだ。
「エスティーギア様は一体何者なのでしょうか?」
「う~む・・・」とプリームスは答えあぐねた。
憶測で物を言うのは簡単である。
しかしこれはアグノスの出生に関わる内容で、本人がそれを知らなければ傷付ける可能性が出てくるのだ。
アグノスはソファーの上でグッタリしたまま言った。
「母からは何も教えられていません。以前に母の過去や出生を知りたいと思いましたが、知らない方がいいとやんわりと拒否されました。ですが私も良い大人です・・・今更知って落ち込むような事は有りません!」
アグノスの意思の固さはプリームスへ伝わった。
しかし弄られて若干恍惚とした様子で言われても、余り説得力は無いと言うものである。
そう思い笑みが漏れるのを堪えながらプリームスは頷いた。
「分かった・・・だがこれは飽く迄、私の私見ゆえ鵜呑みするでないぞ。真実を知りたければ母親に直接聞くがいい」
そうプリームスに言われてアグノスは居住まいを正した。
プリームスはアグノスの髪の毛にソッと触れる。
「この髪の毛の色は中々に珍しい。魔力の強い者はこういった様に、魔力の性質に合わせて身体へ特徴をだす。これは魔力の強い”種族”に現れる特徴なのだよ」
その言い様に何か気付いたような表情を見せるスキエンティア。
「成程、そう言う事ですか。詰まり我々と同じ・・・」
頷くプリームス。
「人と言う枠組みの中には、汎用性に富む性質で繁殖力が高い人種・・・そして魔力が非常に高く繁殖力が弱いが長寿な人種に分かれる。前者はこの世界に一般的にみられる人間だ。更に後者は”魔族”と呼ばれ、今のところ私が見るにほぼ見かけない」
フィエルテとアグノスが少し首を傾げて呟いた。
「「魔族・・・」」
「アグノスは母に年齢を訊いた事はあるかね?」
そうプリームスに問われてアグノスは少し考えながら答えた。
「え~と、はっきりとした年齢は教えてもらえませんでした。ですが父よりも年上だと言っていましたね。それに母の誕生祭も年齢は偽って公表されています。今は40歳と言う事にしているようですが・・・」
フィエルテは驚いてしまう。
「エスティーギア様はどう見ても20代半ばにしか見えませんよね・・・。公表されている40歳でもどうかと思われますが、国王陛下より年上とは・・・」
アグノスはプリームスへおずおずと問いかける。
「お母様は・・・”魔族”と言う事なのでしょうか? そして私はその混血と?」
プリームスは少し思考し断言するのを躊躇った。
理由はそもそも純粋な魔族がこの世界に存在するのか?と言う点にある。
エスティーギア自身、混血かもしれないし更に言えば隔世遺伝かもしれない。
市井を見るに、魔族らしい魔力を持つものが全く見当たらないのも理由と言えた。
また魔族と人間は見た目で言うなら全く違いが無い。
そして以前の世界でも確率は低いが、魔族と人間の間で子を成す事も確認されているのだった。
そういった事を踏まえて魔族は人間の中に取り込まれ帰化してしまったのかもしれない。
故に純粋な”らしい”存在は目に出来なかったのだ。
そう洞察したプリームスは、
「純粋な魔族と言う事なら断言は出来ない。ただ、少なくともアグノスはその血筋を含んでいるとは思う」
とアグノスに答えた。
するとアグノスは嬉しそうな表情を浮かべる。
「では、私はプリームス様に近い存在と言えるのですよね?!」
「え!?」
プリームスはアグノスの意外な反応に怯んでしまった。
スキエンティアはその状況を見て笑いを堪える。
魔王と呼ばれた最強の存在が、齢17歳の少女の言葉に戸惑う姿は実に滑稽であったからだ。
人間というのは基本的に他者と異なる部分があると、不安になる傾向がある。
それは個々の個性を尊重するのではなく、集団的な調和に重きを置いているからだ。
しかしアグノスは周囲の人間と違う可能性があると言われて嬉しそうなのだ。
人間の王族として人の中で生活して来たと言うのに・・・。
恐らくプリームスを魔族だと思っているからであろう。
つまり異質な存在で有る事が、自身が愛するプリームスに近しい事だとアグノスは思っているのだ。
他とは違う異質な存在。
そして慕う相手と同じ事が、自身をその相手に対して特別な物にしてしまう。
そう思う事が何とも乙女な感じで可愛らしい。
プリームスはアグノスの頭を優しく撫でる。
「私はお前が人間であろうが魔族だろうが関係無いと考えている。私にとって大切なことは、”身内”である事なのだから」
それは出生や育った環境、そして地位や立場など関係ないと言っているのだ。
アグノスは確信した。
プリームスの元へ嫁いだ事で”特別な存在”なったのだと。
感極まったアグノスはプリームスへ抱き着いてしまった。
「プリームス様! 私をここまで虜にしたのですから、最後まで責任はとってくださいね!!」
「言われるまでも無い」
そう言ってプリームスはアグノスへ口付けをする。
突然の不意打ちに硬直するアグノス。
その様子を諦めたように見守るスキエンティア。
そして恥ずかしそうに仮面の目の部分を手で押さえるフィエルテだが、指の隙間から2人の様子をガン見するのであった。
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