第92話・親子に贈る”身内”の儀式

プリームスは身内となる証として、収納魔道具をアグノスとエスティーギアに作って贈る事にした。



先ずは魔力を失った魔晶石を2人に持たせるプリームス。

そして5分程経過して2人から魔力を吸収したであろう魔晶石をプリームスは回収する。



アグノスとエスティーギアは親子の為か魔力の性質も似ているようで、どちらの魔晶石も深い藍色の光を放っていた。

2人の髪の色と同じ色である。



一説では魔力の性質は、色素の影響が出やすい場所に顕著に現れると言われている。

例えば髪の毛や瞳などである。

元のプリームスの身体が良い例で、強大な火属性を持つ為に髪の毛は燃えるように赤く、瞳の色も深紅なのだ。



この深い藍色がどのような魔力属性なのか、調べてみないとプリームスでもよく分からない。

なのでプリームスは若いアグノスの潜在的な能力と、その成長が楽しみでもあった。



プリームスが収納魔道具の作成に入ろうかと思った時、理事長のエスティーギアが慌てたように自身の懐をまさぐり始める。

「少々お待ちを! その英知の一端を目に焼き付ける為にも・・・」

そうして目的の物を見つけたのか、ホッとしてそれを懐から取り出した。

眼鏡であった。



「申し訳ありません、実は余り視力が良く無くて・・・」

そう言ってエスティーギアは眼鏡をかけるとプリームスを見つめる。



例に漏れる事無くエスティーギアは硬直してしまった。

実はアグノスから神託の話を聞いていて、プリームスの様相を知っていたのだ。

しかし話で知るのと実際に見て知るのでは、相当に差異がある事をエスティーギアは実感する。



まるで地上に存在してはいけない程の美しさ。

天上の美とはこの事か!?、とエスティーギアは脳裏で叫んでしまう。


そして溜息をついて、

「アグノス・・・貴女が一目惚れをして運命の相手だと思う気持ちが良く分かりました。これ程の麗人を夢に見て、現実で出会う事が出来たなら私でもイチコロです・・・」

そうエスティーギアはアグノスへ告げた。



アグノスは少し心配そうな表情でエスティーギアへ尋ねる。

「では・・・プリームス様の元へ嫁ぐ事をお許し下さるのですね?」



苦笑するエスティーギア。

「許すも許さないも、そもそもそう言う次元の話では無いわ。貴女の人生なのですから好きにすれば良いのですよ」



大喜びして母親に抱き着くアグノス。

それを見てプリームスも笑顔を浮かべる。

『親子の仲が良好で何よりだ。しかし・・・』

少し痺れを切らせて困った表情になるプリームス。

「すまんが、収納魔道具の作成に入っても構わんかね?」



慌てた様子でアグノスとエスティーギアは離れ、居住まいを正す。

そして申し訳なさそうに2人は愛想笑いを浮かべた。

「す、すみません、舞い上がっちゃって・・・」

「申し訳ありません・・・どうぞ進めて下さい」



プリームスは指輪を2個を自身の収納魔道具から取り出すと、目の前のテーブルに置いた。

片方はシルバーでアグノス用。

もう片方はゴールドで王妃であるエスティーギア用だ。

アグノスの指輪をシルバーにしたのは、フィエルテと同じく”身内”用に見た目を揃えようとプリームスが考えたからだ。



更に付加魔法と指輪同士が干渉し合わない様に50cm程離して置く。

そうしてエスティーギアを見つめてプリームスは説明を始めた。

「魔力の波長や質は人それぞれ必ず違いがあってな。私はそれを魔紋と呼んでいる。そしてその魔紋を利用し、1人の人間にしか使用できない魔道具を私は作る事が出来る」



エスティーギアは眼鏡の奥の瞳を輝かせて、

「詰まり魔石の残骸だった物に、私とアグノスの魔力を吸収させてそれを魔紋とするのですね? 更にそれを元に私達専用の魔道具を作って頂けると!?」

そうプリームスへ期待を込めて問いかける。



「そう言う事だ」

プリームスは頷くとシルバーの指輪にアグノスが握っていた石を重ねる。

そしてゴールドの指輪へエスティーギアが握っていた石を同じように重ねた。

それから古代マギア語の詠唱を始める。



「この魔力を以って認識のカギとせよ・・・エンチャント、タウィーザ・ミフターフ。固有の世界を以って其の物に恩恵を・・・エンチャント、インフィニート・トラステーロ」



すると一瞬だけ2つの小さな魔法陣が、2対の指輪と石に展開され直ぐに消えてしまう。

それと同時に2つの深い藍色に輝いた魔晶石は光と色を失ってしまった。



魔晶石は只の石コロに成り下がったが、2つの指輪は何の変化も無いように見える。

しかし銀の指輪をアグノスに差し出し、金の指輪をエスティーギアへプリームスは差し出した。

そしてフィエルテの時のように収納魔道具の使い方を説明する。



プリームスに言われれるがままに従い、指輪を身に着け使用するアグノスとエスティーギア。

訝し気だったその2人の表情は直ぐに驚愕へと変わり、尊敬の眼差しをプリームスへと向けた。


「す、素晴らしいです!! こんな小さな物に収納魔法を付加してしまうなんて! 魔術と錬金術の常識が今覆りました!!」

そう興奮気味でエスティーギアは言い放つ。



一方アグノスは、プリームスより自分しか使えないたった1つの贈り物を貰えて、至極満足した表情を浮かべていた。

それから急に思い立ったように、

「これは婚約指輪に相当しますよね。いえ・・・もう確定したので結婚指輪と言う事でよろしいんですよね!!?」

とプリームスに迫り問いかけるアグノス。



「チッ」とスキエンティアの舌打ちが聞こえたような気がした。



興奮気味のアグノスを苦笑しながらなだめるプリームス。

「そう慌てるな・・・。お前がそう思いたいなら私はそれでも構わんが、この指輪は”身内”となる者に渡すのが今の私の方針だ。詰まり・・・」


全てプリームスが言い切る前にアグノスが少し怒ったような表情で被せてきた。

「そ、それは他に”身内”の方が居て、同じような物を貰っていると言う事ですか?!」



「そうなるな・・・」

とプリームスは申し訳なさそうに答える。



アグノスの視線はプリームスの背後にいる従者二人に注がれた。

余りの鋭さに少し怯んでしまうフィエルテ。

しかしスキエンティアは全く気にもせず、逆に不機嫌さを放っている程であった。



諦めたように突然気落ちしてしまうアグノス。

「仕方ありませんね、私は言わば新参者なのですから・・・。でも努力次第では扱いもかわりますよね?」

少し俯いたまま小さな声で続けた。

「私、頑張りますから。一番の寵愛を受けれるように・・・」



『あ~ぁ・・・”身内”同士仲良くしてくれよ、本当に・・・』

と自分の所為でこうなっている事に自覚がないプリームス。



そんな一同の様子を見て王妃エスティーギアは、娘を大変な所に嫁がせたのでは・・・と今更ながらに後悔するので有った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る