第75話・アグノス・リヒトゲーニウス(2)

国王を蝕んだ死熱病の対処も済み、一段落が付いたプリームス。

後は国王暗殺を企てたポリティークを締め上げて詳しく話を聞き出すだけである。



ケラヴノスも王の寝所に来ると言っていた筈だが、結局姿を現さなかった。

ポリティークを投獄するのに手間取ったのかもしれない。

何か不測事態が起きて居なければ良いのだが・・・。



メルセナリオは自身のギルドが所在する国として気になるのか、事の顛末を見届ける為、王宮に泊まる事にしたらしい。

まあ王国議会に議席と決裁権を持つ身としては、今回の騒動を見届ける義理はあるかもしれない。



プリームスはと言うと、アグノス王女にせがまれて何故か一緒に寝屋を共にする事となってしまった。

個人的には見た目も美しい姫と添い寝出来るのだから、面食いのプリームスとしては嬉しい限りではある。



しかしその後の展開を考えると心配になるのが正直な所であった。



プリームスは王女付きの侍女達に裸にむかれて身体を綺麗に清められた。

そして下着無しの上、極薄の寝間着を着せられてしまう。

涼しくていい塩梅だが、まるで裸のような感覚で心もとない。



その後、アグノス王女の寝室に案内されるプリームス。

既に準備が出来ていたのかアグノスはベッドに腰を掛けていた。

その様子はまるで初夜を共にする相手を待ちわびる様に、ソワソワと落ち着かない様子だ。



アグノスもプリームスと同じように下着は着けておらず、極薄の寝間着を身に着けていた。

燭台のぼんやりとした明かりでも、その魅惑的な肉体が確認出来た。

『これは中々に・・・』

と、まるで助平オヤジのような事を思ってしまうプリームス。



アグノスもプリームスが寝室にやって来たのに気付く。

そしてプリームスをジッと見つめた。

暫く見つめた後に恥ずかしそうに両手で顔を覆う。



『あぁ・・・こっちからスケスケに見えると言う事は、向こうも私が・・・』

年甲斐も無くプリームスは恥ずかしくなった。


350年も生きて、今更こんなに若い娘に照れるとは・・・。

そう自嘲すると余計に恥ずかしくなってしまう。



ゆっくりとアグノスの元へ近寄るプリームス。

すると少し緊張した様子でアグノスは身体を強張らせた。

何だか初々しくて苦笑してしまいそうになるが、プリームスはグッと堪えて笑顔を浮かべる。



そうしてアグノスの横に腰を下ろす。

まだ緊張したままのアグノスを和らげるように、そっと背中を優しく撫でた。

少しビクッと身を震わせたがプリームスが優しく背中を撫で続けると、やっと慣れて来たのか強張った身体から力が抜け始める。



薄い寝間着の上からアグノスの形の良い乳房が見て取れた。

そして細い腕、細い腰、そして力を籠めれば折れてしまいそうなか細い首。

アグノスの全てが扇情的に見えた。



『アグノス姫から私はどう見えているのだろう・・・』

そうプリームスは思ってしまい、つい口にも出てしまう。

「アグノス姫は本当に華奢で女性らしく美しいな。そう思うと自分はどう見えているのか心配になってしまうよ」



嬉しそうな表情を浮かべるアグノス。

「プリームス様、謙遜はおやめ下さい。私など及ばぬ程に絶世の美を有しておられるのに・・・その言い様では私が惨めになってしまいます」

そう少し怒った風に言った。



暫くの沈黙の後、アグノスがおずおずと手を差し出す。

それはプリームスに触れて良い物か戸惑うように宙で制止すると、

「触れても・・・プリームス様にこの手で触れてもよろしいですか?」

そうアグノスはプリームスへ心配そうに尋ねる。



「何を今更・・・」

そうプリームスは言い放ちアグノスの手を取ると、そのまま自分の胸へ押し付けた。



これにはアグノスも驚いたようで再び身体を硬直させてしまった。

しかし直ぐに落ち着き笑顔を見せる。

「プリームス様は、大胆ですね」



次の瞬間、プリームスは天井を仰いでいた。

正しくはベッドの天蓋である。

『あぁ、私は押し倒されたのだな』

と他人事のようにプリームスは思う。



アグノスはプリームスに覆い被さると懇願するように言った。

「私はプリームス様に魅了されてしまいました。もう離したくはありません・・・私の傍にずっと居て戴けませんか?」



この言葉をどう受け止めれば良いのか、プリームスは困惑してしまう。

ただ単に愛人として傍に置いて愛でたいのか?

それとも人生の伴侶として傍に居て欲しいのか?


プリームスとしては、どちらを選んでもこの国の庇護に下る事になる。

他にも有るかもしれないが、どちらにしろ”国家”という物に強く影響されるに違い無かった。



正直それは困る。

この世界には”束縛されない人生”を求めているからだ。

やりたい事をして自由に我儘に生きたいのだ。

これは正に以前の世界で、責任と使命に抑圧された人生を送った副作用なのかもしれない。



プリームスは申し訳なさそうに答える。

「すまない、私は自由に生きたいのだ・・・ここに留まればそれは叶わないだろう? アグノス姫の好意には応えたくはあるのだが・・・」



この時、『しまった!』と思い、プリームスは失敗した事を確信する。

アグノスに言質を与えてしまったからだ。



アグノスがニヤリと笑みを浮かべたように見えた。

そしてゆっくりとプリームスへ顔を寄せると口付けをした。

それはとても情熱的なもので、流石のプリームスも驚き目を見張る。



アグノスが漸く解放した時には、プリームスの身体はグッタリとしてしまっていた。

微笑みを浮かべるアグノスは、プリームスにお構いなしに告げる。

「では、私がプリームス様の傍に、いつ迄も居られる方法を探しましょう」



プリームスは思った。

この娘を色んな意味で侮っていたと・・・。

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