第68話・謁見(2)

ポリティークという邪魔な存在は王女の後方へ下がってしまった。

正直言えばプリームスからすると邪魔では無い。



死熱病を作為的に発生させた首謀者の一人ととして、プリームスが狙いを定めていたからだ。

本来なら逆上させて正体を露見させる筈だったのだが、まさか王女が一緒とは想定外であった。



そして何故かプリームスと王女の問答となる。


アグノス王女は笑みを浮かべたまま静かにプリームスへ問いかけた。

「聖女様、貴女は本当にボレアースの聖女であらせるのですか?」



プリームスは真っ直ぐにアグノス王女を見つめ答える。

「その問いに対して正確には答えあぐねる。そもそも”ボレアースの聖女”とは他人が勝手につけた呼称に過ぎない。私自身、聖女など名乗っていないし、聖女とも思ってもいないしな・・・」



少し思考した後、アグノス王女は質問を変えて尋ねた。

「では、プリームス様とお呼びした方がよろしいでしょうね。プリームス様は、ボレアースで発生した死の病を治療したと聞き及んでいます・・・確かな事ですか?」



頷くプリームス。

「それは確かに私が成した事だ。それと既知とは思われるが、私はその死の病を”死熱病”と定義して呼んでいる」



するとホッとしたような表情をアグノス王女は見せた。

「良かった・・・プリームス様が本当にあの”ボレアースの聖女”だったのですね」



プリームスはアグノス王女のその様子を見て首を傾げる。

「たった2つの質問で私を信用するのかね? それに”良かった”とは、どう言う事なのかな?」

相手が王族だとは全く思っていないプリームスの言い様である。



流石に心配になったのかメルセナリオが口を挟んで来た。

「おいおい、プリームス殿・・・もう少し丁寧に喋れんものか?」



「良いのです、メルセナリオ様。この国の人民でなければ、ギルドマスターの貴方と同じ立場と言えるでしょう。只それが私達に認めさせているのか、そうでないのか・・・その違いだけです」

そうアグノス王女はメルセナリオへ言い放つ。



「う~む、アグノス姫がそう言うならワシは構わんが」

メルセナリオは諦めたように引き下がった。



アグノス王女は居住まいを正すとプリームスを真剣な表情で見つめる。

「我が父である国王エビエニス・リヒトゲーニウスが、その”死熱病”を患ってしまったのです。プリームス様・・・貴女様の聖女としての力が必要なのです」



驚愕に目を見開くメルセナリオ。

まさかプリームスが予測した事態になるとは思ってもいなかったからだ。

しかもそれが国の中枢であり、頂点に立つ国王なのだから尚更である。



プリームスは冷静に問い返す。

「本当に死熱病なのかね? それに手は尽くしたのかね?」



まるで痛みを堪えるかのようにアグノス王女は悲痛な表情を見せた。

「あらゆる手を尽くしましたが・・・快方に向かう事はありませんでした。それで以前に死熱病の患者を診た事が有る医師から、そうであると断言されたのです」



そしてアグノス王女はプリームスへ向けて首を垂れた。

「もうプリームス様しか頼る事が出来ないのです。どうか・・・国王を、父を救って下さい!」



「王女殿下! お考え直しを! この時期に、この者が王都へ姿を現したのは都合が良すぎます」

そう叫びながら再び王女の前へポリティークが歩みを進めた。



突然の介入に戸惑うアグノス王女。

「な、なにを・・・?」



ポリティークは尚も王女へ訴えた。

「死熱病を完全に治療できる、即ちそれは死熱病に精通していると言う事。そのような者が死熱病を”利用”していないと誰が断言出来ましょうか!」



アグノス王女はポリティークの突拍子も無い訴えに唖然としてしまう。

「何を馬鹿げた事を! もしその可能性があったとしても、私はプリームス様を頼るしか方法が無いのです!」



険しい表情でポリティークは告げた。

「なりませぬ」

そして片手を静かに掲げる。



その瞬間、謁見の間の両脇に整列していた、10名ずつの騎士が一斉に抜刀したのだ。

更に謁見の間の扉が開け放たれ、20名程の衛兵が中になだれ込んでくる。



メルセナリオが舌打ちをした。

「初めからプリームス殿を捕らえるつもりだったのだな」


プリームスは特に怯える事無く溜息をつく。

「やれやれ、私が死熱病を治療出来るか否か確かめる為に、ここまでの茶番を打つとは・・・こんな遅い時間までご苦労なことだ」



血相を変えて慌てるアグノス王女。

「ポリティーク! 駄目です! 兵を引きなさい!! これは命令です!!」



ポリティークは首を横に振りアグノス王女を見つめた。

「王女殿下や国王陛下の傍に、あのような死熱病を自由に操る者を近づける訳にはいきません! 拘束し尋問した上で真実を明白に致します」



「フンッ」とプリームスは不機嫌に鼻を鳴らすと、

「スキエンティア、フィエルテ! 命だけは助けてやれ、だが容赦はするな」

そう不敵に言い放った。



もはや全く憤りを隠そうとしないポリティークは叫ぶ。

「全員拘束せよ! 抵抗するなら腕や足の1本や2本切り落としても構わん!」

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