第67話・謁見(1)

プリームス達5人は、案内役の騎士隊長に先導されて王宮内を進んでゆく。



王宮の外観は戦時にはとても考えられないような華美さを有していた。

美しく磨き上げられた大理石で組まれており、その様相は見る者の目に美しさと権威を誇示する為だけに設計されたように思える。



更に内装は外観を遥かに上回る華美さに包まれていた。



『戦時は戦術の進化と兵器の進歩を促す。そして平時は文学と美術の進歩を促す訳だが・・・これは中々に度が過ぎておるな』

とプリームスは一人呆れてしまう。



随分歩かされた後、漸く謁見の間らしき扉の前に到着した。

すると扉の両側に立っていた衛兵に武器の有無を確認をされる。

しかし既にプリームス達は、武器を収納魔道具に仕舞っておいたので特に問題は生じなかった。



それにしても王宮内の豪奢な内装を嫌と言う程見せられた。

これは王宮の美しさを時間をかけて見せる事によって、その権威の大きさを示すのが目的だと言うのは直ぐにプリームスは洞察する。



『ここは南方連合の議長国だ。故にこの華美過ぎる演出は平時には必要不可欠なのだろうが・・・全くくだらん』

そうプリームスが思っているのを察したのか、メルセナリオが苦笑した。


そしてプリームスに耳打ちするように呟く。

「ワシなど定期的にここに来ておるぞ。王国議会があるでな」



苦笑するプリームス。

「それはそれはご愁傷様だな・・・」



そして暫く待たされ後、謁見の間の扉が開かれた。

恐らくプリームスが確保され連れて来られるまで、宰相代行は別室に控えて居たのだろう。

王族や地位の有る者達は、いつ来るか分からない者の為に常に謁見の間に詰めている訳では無いのだから。



プリームスは自ら先頭に立って歩み進む。

礼節など知った事かと言わんばかりに、堂々と謁見の間の中央まで歩み出た。

その後を従者2人が付き従い、メルセナリオ、フィートと続く。



謁見の間の先を見据えるプリームス。

そこには玉座が有り、簡素だか美しい衣装を身に纏った美少女が座していた。

そしてその傍に20代後半の神経質そうな男が立っている。



更に謁見の間の両脇には、10名ずつ近衛騎士らしき者達が整列していた。

『遅い時間だと言うのに、ご苦労な事だ』

とプリームスはほくそ笑む。



プリームスは玉座まで距離を詰め、10m程の距離で歩みを止めた。

すると玉座の傍に立っていた男が口を開く。

「控えぬのか? それに名乗らぬ気か?」


そうしてその男は玉座に座する少女へ手をかざすと、

「こちらの御方は、アグノス・リヒトゲーニウス王女殿下で在らせられるぞ!」

そう語気を強めて言い放った。



プリームスは気にした風も無く答える。

「それがどうしたのだ? 私に会いたいと言うから来てやってみれば、高圧的な輩だな。先ずは貴様から名乗るのが筋であろう?」



プリームスの背後からメルセナリオが焦っている雰囲気が伝わってきた。

フィートはと言うと、直視していない為に分からないが特に動揺はしていないようだ。



怒りに身を任せて怒鳴り付けようとした男を、玉座に座るアグノス王女が制止する。

そして申し訳なさそうな表情を浮かべて言った。

「来てもらった上に、礼を欠いて申し訳ありません。この者は、ポリティーク・レクスアステリア伯爵です。今は私の補佐と宰相代行を務めているの・・・」


更にプリームスへ微笑みかける。

「貴女のお名前を教えていただけないかしら?」



プリームスは溜息をついた後、軽く会釈をして答えた。

「私はプリームスという者だ。お初にお目にかかる、アグノス姫」



ポリティークにはプリームスの態度が不遜に見えたようだ。

「プリームスとやら、王族に対して不遜だとは思わぬのか? 王女殿下の寛大さに甘え不敬が過ぎるぞ!」

そう言い放ち睨みつけてきた。



再びプリームスは溜息をついて面倒臭そうに言う。

「勘違いしているようだから言っておいてやる、青二才。私はこの国の人民では無い。よって私がへり下る理由など何一つ無い」


それから追い打ちをかける。

「それにアグノス姫は私と話がしたいのであろう? 宰相代行の青二才は黙っていろ」



見る見るポリティークの表情が変わっていくのが見て取れた。



プリームスの背後からメルセナリオが小声で話しかける。

「おいおい、少しやり過ぎだぞ・・・見てて面白かったが肝も冷えた」



アグノス王女は苦笑いをする。

「まぁまぁ、お互いに抑えて貰えませんか? プリームス様・・・いえ聖女様をここへお呼びした理由をお話しておきたいですし」



慌てた様子でアグノス王女へ意見するポリティーク。

「殿下! このような者に”様”付けなど必要ありません! この国の王女である貴女様が、どこの馬の骨とも分からない者に下手に出てどうなさいますか!」



するとアグノス王女の表情が険しくなった。

「レクスアステリア伯爵! 控えなさい! あなたが調査し”ボレアースの聖女”と認めて来て頂いたのでしょう? その言い様は自身をも貶める事になりますよ!」



王女に叱責されたポリティークは、畏まった様子で一歩後方へ下がった。

いい気味だ・・・とメルセナリオの声が聞こえてきそうだ。



漸く場が落ち着いた様子を見せ、アグノス王女は笑みを浮かべる。

「度々の不敬、申し訳ありません。聖女様、幾つか質問に答えてもらえますか?」



プリームスは頷いた。

「何なりと。私で答えられる物であるなら答えよう」

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