第57話・電撃的な上洛(1)
スキエンティアはクシフォスに訊き忘れていた事を突然思い出した。
「そう言えば死神をおびき寄せた訳を聞いていませんよ」
「王都に一早く連絡が行くようにだ」
そう言ったのはプリームスの声だった。
部屋に居た一同の視線が、寝ていた筈のプリームスに注がれる。
「お目覚めでしたか・・・ひょっとしてうるさかったですか?」
とフィエルテが心配そうにプリームスへ尋ねる。
「いや、自然と目が覚めたよ」
そう言うと下着姿のまま上半身を起こすプリームス。
そして肩が凝ったのか自分の手でモミモミし出した。
慌ててフィエルテが宿で用意されているガウンをプリームスの肩にかけると、
「プリームス様、肩をお揉みしますのでお任せください」
そう従者らしく言った。
プリームスはニッコリ微笑み返す。
「ああ、頼む。フィエルテは良く気が利くな」
フィエルテがベッドに乗りプリームスの肩を揉みだす。
それを微妙な笑みを浮かべて一瞥した後、スキエンティアはクシフォスへ問うた。
「ああ申されていますが・・・クシフォス殿も同意見ですか?」
「え? フィエルテが良く気が利くって事がか?」
急に問われて的外れな事を言いだすクシフォス。
スキエンティアの神速のボディーブローがクシフォスの脇腹に直撃した。
「冗談ですか? それとも貴方は馬鹿なんですか?」
と、悶絶するクシフォスにスキエンティアが再び問う。
フィエルテとプリームスが仲良くなっていくに連れて、スキエンティアの機嫌が悪くなっている様に感じるクシフォス。
色々なトバッチリが来るのは覚悟していたが、地上最強クラスの突っ込みは流石にきつい。
しかしここは漢らしく甘んじて受けねばなるまい・・・そうクシフォスは覚悟する。
「じょ、冗談だ。プリームス殿が言うような事は俺にはよく分からんが、取り合えず死神から俺は情報を引き出したかっただけだ」
分かってはいたが、クシフォスの要領を得ない返答に少し苛立つスキエンティア。
見かねたプリームスが話し出した。
これ以上クシフォスがスキエンティアの鬱憤解消に使われるのを可哀そうと思ったのかもしれない。
「死神は王都で謀略を企む者と繋がっている筈だ。それに何故か死神の”足”が速い。そうすると我々がこのまま王都に向かうであろう事は伝わるだろうな。ならば焦りだし、動きも分かり易くなるというものだ」
「私と同じことをお考えでしたか・・・それと死神アポラウシウスの”足”の速さも確認した訳ですね」
そうスキエンティアは分析するように思考しながら言った。
フィエルテに肩を揉まれるプリームスは、「あぁ・・・」と少し色っぽい声を出す。
それを聴いたプリームス以外の3人は、何だか恥ずかしくなって居た堪れない様子になる。
真剣な会話が台無しであった。
そんな事は全く気にせずプリームスが突如驚く事を言い出した。
「今から王都へ向かうぞ。皆、用意せよ」
「は?! こんな高級な宿をとらせておいて、それは無いだろう!」
一番最初に異議を唱えたのはクシフォスである。
フィエルテはプリームスの意思に従うまでなので、特に異論は無いようだ。
まるで考える事を放棄したように、
「プリームス様、腰と背中も按摩致しますので、うつ伏せになって下さいませ」
話し合いとは全く違う事をプリームスへ言った。
素直にうつ伏せになるプリームス。
そのまま続けてフィエルテに按摩され、また声を洩らした。
「あぅ、ぅ・・・フィエルテは上手だな。今回の件が落ち着いたら夜伽はお前に頼むとしよう」
フィエルテは嬉しそうに顔を赤らめて頷く。
「承知しました・・・」
スキエンティアの眉間にシワが寄った。
その様子を一早く察知し危険を感じたクシフォスは、
「と、兎に角だ、今から王都に急ぐ理由を説明してくれ。今からここを発てば夜通しになる。俺は良いにしてもプリームス殿の身体が心配だ」
とまるでプリームスを気遣うように言う。
本当はスキエンティアの怒りのトバッチリが怖いだけだが・・・。
スキエンティアが呟くように言った。
「また
プリームスはベッドに埋めていた顔を上げると、
「流石スキエンティア。察しがいいな」
ニヤリと笑いながら言い放つ。
するとフィエルテが心配してプリームスに抱きついた。
「いけません! お身体に障ります。私は心配で心配で・・・」
ベッドとフィエルテに挟まれながらも、プリームスは器用に体を翻しフィエルテに正面から抱きつく。
「可愛い事を言ってくれる。だが心配は無用だ、王都に着いて即行動が出来るよう準備はしてある」
心配そうにフィエルテはプリームスに問いかけた。
「それはプリームス様の身体に負担は一切かからないと?」
頷くプリームス。
「無論だ。それにクシフォス殿の疑問だが、"あちら"も私が今日中に王都へ到着するとは思わんだろう」
納得した様子のスキエンティアが続けて補足した。
「焦らせておいて、更にこちらが素早く王都に到着する。そして準備をしておくのですね」
まるでペットを可愛がるように、フィエルテに抱きついたままその身体を撫で回すプリームス。
「うむ。準備は素早くクシフォス殿が軍部を掌握しておく事だ。謀反を不発に終わらせたいなら軍部が一番の問題になるからな。まぁ、まだ謀反とは決まってはいないが・・・」
フィエルテがくすぐったそうに悶えながら言った。
「あの・・・プリームス様には物理的な攻撃が基本的に通じないと伺いました。ですが弱点もあると・・・」
フィエルテを撫でていたプリームスの手が止まり、その目がスキエンティアを睨みつける。
「お前、話したのか?」
スキエンティアはとぼけた仕草をすると、
「身近に置く従者には話しておくべきかと思いますがねぇ〜」
的を射つつもはぐらかすように言った。
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