第56話・クシフォスの目的と主の弱点
死神アポラウシウスが姿を消し、スキエンティアも戻って来た。
しかしクシフォスが咳き込むわ、クシャミをするわで状況が良く分からないスキエンティアの為にフィエルテが事の顛末を話す事になる。
寝入っているプリームスを1人しておくのは心配なので、プリームス達の寝室に集まる一同。
恐らく回復するまでプリームスは何をしても起きそうにない。
そい言う訳で、フィエルテ、スキエンティア、クシフォスはプリームスに気を遣わず話し始めた。
「プリームス様がクシフォス殿に言ったらしいです。死神アポラウシウスが現れるかもしれないと」
そうフィエルテが話し始める切っ掛けを作った。
少し考える仕草をしてからスキエンティアが続く。
「つまり私がプリームス様の傍にいると、死神アポラウシウスが姿を現さない。それで暫く離れていろと言った訳ですか・・・」
クシャミは止まったものの、まだ目を赤くしているクシフォスが答えた。
「まあそう言う事だ。逃げられたけどな・・・」
おびき出しておいて、しかも逃げられてしまうとはどう言う事か?
そもそも死神をおびき出して何をしたかったのか?
スキエンティアとしては死神など眼中に無かったので、プリームスを危険に晒した事の説明を求めた。
「偶然なら仕方無いですが、意図的にプリームス様を危険に晒す事は許しませんよ! アポラウスウスをおびき寄せた理由を説明しなさい」
クシフォスは申し訳なさそうに話し出した。
「すまん・・・元々はこの町へ転送する前にプリームス殿に耳打ちされてな。スキエンティア殿が反対するかもしれんが、死神を捕らえられる良い機会ゆえ利用せよと・・・。乗った俺の詰めが甘かった為に逃がしてしまうとは、申し訳ない」
スキエンティアは溜息をつく。
「そうでは無くて、死神を捕らえてどうしたかったのですか? それにクシフォス殿は強いのでしょう? 何だか情けない状況で逃げられたように見えますが」
フィエルテもそれが疑問だった。
「そうですよね。私の見立てでは、アポラウシウスと互角以上に渡り合っていたように感じました。クシフォス様はやっぱりお強いです! ですのに何か小さな袋を手にした瞬間、2人とも悶絶するように・・・」
クシフォスは少し情けない顔をして説明しだす。
「あ~、あれはな、近接戦闘で使えないか試したんだ。胡椒や辛子の粉末を詰めた巾着袋でな、相手を戦意喪失させるために俺が作った物だ」
そして収納魔道具であるブレスレットを見せて、
「咄嗟に取り出して使える様にこれに収納しておいたんだが・・・風向きや相手との距離で自分にも影響が出るのが問題だ・・・と分かった」
と肩を落として言った。
スキエンティアとフィエルテは頭を抱えてしまった。
「そんな事、実行する前に分かりそうなものですが」
とスキエンティアがやんわり突っ込む。
一方、フィエルテはクシフォスを見てガッガリした表情で言った。
「クシフォス様はお強いのに・・・脳筋なんですね」
『あぁ~、この娘は真っ直ぐで正直過ぎる』
スキエンティアは苦笑する。
クシフォスはと言うと、へこみ過ぎて言い返す気力も無いようだ。
フィエルテはクシフォスなど気にする風も無く話を続ける。
「師匠、心配でしたでしょう? 私ではまだ力不足ですし・・・。それでもプリームス様の元を少しとは言え離れる気になりましたね」
するとスキエンティアはニヤリと笑みを浮かべた。
「実はですね、プリームス様には物理的な攻撃は基本的に通じないのですよ。ですので肉体的に傷付けられることには余り心配していません」
「なぬ?!」
「え!?」
と驚くフィエルテとクシフォス。
話を続けるスキエンティアの表情が曇った。
「ですが、万能ではないのです。飽く迄”基本的”ですので気付かれてしまえば対応は可能です。特に寝込みを襲われては、どうしようもないですね」
クシフォスは今一理解出来ていないようだ。
フィエルテも難しい表情をして首を傾げてしまう。
どう説明するべきか、根本的な弱点を説明すべきなのか悩んでしまうスキエンティア。
「こればかりは私の口から説明するのは憚られますね。プリームス様がお目覚めになられたら尋ねてみてください。問題無ければ答えていただけるでしょうし」
プリームスは一見して、とても華奢でか弱そうに見える。
しかも美し過ぎて触れれば壊れそうな儚い雰囲気も放っているので、周囲の者に守ってあげたいと言う気持ちを持たせてしまう。
故にフィエルテとしては、プリームスに悪い虫が寄って来ないか心配でならない。
だがここに来てプリームスには物理的な攻撃が通じない?、という真実を聞かされる。
嬉しいやら悲しいやら。
自分の存在意義とは何なのか・・・そうフィエルテは考えてしまった。
そんなフィエルテを見てスキエンティア言った。
「フィエルテ・・・貴女はプリームス様に”気に入られた”のですから、今は自分の有り方を気にする事はありませんよ。プリームス様も私も、直ぐに貴女が色々こなす事を求めていませんからね」
そう言われて頭で理解できても心が受け入れられない。
自分の未熟さに甘えきる事も出来ず、かと言って主や師の寛容さも完全に受け入れる事が出来ない。
フィエルテは中途半端な自分に歯がゆくて仕方が無かった。
スキエンティアはフィエルテに昔の自分を見ているようで少し笑いがこみ上げてしまった。
『時間が解決するでしょうが・・・”只の人間”であるフィエルテには長く感じてしまうかもしれませんね』
そして何かクシフォスから聞き忘れているような気がしてならないスキエンティアであった。
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