第35話・二人目の従者探し(2)

翌日の朝、朝食を済ませて直ぐにクシフォスの案内で奴隷商に向かう事となった。



馬車の中でプリームスは、この世界の奴隷がどういうモノなのか気になってクシフォスに問うた。

「ここでは奴隷の売買が普通にまかり通っているのだな?」



意外そうな顔をするクシフォス。

「プリームス殿の居た地では、奴隷は違法なのかね?」

と逆に訊き返された。



「いや、違法と言うか・・・商業的な売買は無いな。そもそもが戦続きで奴隷は奪って戦力にするか、食扶持くいぶちが増えるゆえ、抱える以上の利益が無ければ処分される」

と然も当然かのようにプリームスは答えた。



顔をしかめるクシフォス。

「何と言うか、大変な所だったのだな。すまんな変な事を訊いてしまって・・・」



特に気にした様子も無くプリームスは小さく首を横に振った。

「構わん、それより奴隷の事を詳しく教えてくれ」



促されて少し苦笑するクシフォス。

「あ~そうだったな。奴隷は基本的に売買される。そして罪の贖罪の為に、法に則って落とされた犯罪奴隷が半数近くを占めると言われているな。残りの半数は生活に困って自ら身売りした者や、後は借金の形に奴隷に落ちた者だ。それと極わずかに出所不明の奴隷もいる・・・これはまぁ察してくれ」



「ふ~む・・・」と考え込むプリームス。

そして隣に座るスキエンティアを見て尋ねた。

「お前はどの辺を狙っているのだ?」



スキエンティアはプリームスに笑顔を向けると、

「才能があればどこからでも。ですが信用に足るものでなければなりません。私はいいとして、プリームス様が居ないと生きていけない程にドップリ依存してくれる人材が良いかと」

などと、然も当然の必須条件の様に言い放った。



『うわ~、こいつ怖いわ~、無いわ・・・』

と結構引いてしまうプリームス。


正直スキエンティアみたいなのが、もう一人増えるのは御免こうむりたい所では有る。

しかしその言は正しくも有った。



『まぁ、奴隷商に着いて品定めせねば始まらないか』

とプリームスは半ば諦め状態になってしまう。

この件はスキエンティアの提案なので、提案した本人に任せるつもりなのだ。

それが一人で抱え込まない出来る支配者の振る舞いという物。


と自画自賛しつつプリームスは自嘲してしまう。

『もう魔王でも何でも無いと言うのにな・・・』



そうこうしている内に馬車が停まる。

奴隷商の建物の前に到着したようだ。

馬車の窓からその建物を観察すると、無骨だがかなりの大きさだった。

建物の規模だけならクシフォスの屋敷より広そうだ。



クシフォスに連れられて奴隷商の建物に入るプリームスとスキエンティア。

中は表の無骨さとは違い、綺麗に手入れ維持された屋敷のような雰囲気に感じる。



中に入って直ぐ初老で執事風の男性が迎えてくれた。

「ようこそおいで下さいました、レクスデクシア大公閣下。本日はどう言った御用件でしょうか?」



クシフォスは大公らしい振る舞いで答えた。

「今日は武芸の才能がありそうな若い奴隷を探しに参った。一通り見せて貰おうか」



今日は王族らしい服装のクシフォス。

いつもは旅人か傭兵のような出で立ちだが、こうして"らしい"格好をすると不思議な物で大公に見える。


そんな事を考えてプリームスは笑いそうになり慌てて堪える。



一方プリームスの格好はというと、薄い水色のオープンバックドレスだ。

マキシロングなのでくるぶし辺りまで裾があり、両方に腰まで深く切れ目が入っていた。


後は白い踵の高いヒールに、プリームスとしては仕方なく純白のストールを肩からゆるくかける。

ドレスのままだと扇情的過ぎて、クシフォスから目のやり場に困ると言われたからだ。



スキエンティアはいつも通りの格好でフードを被ったままだ。



クシフォスが"らしい"格好をするのは当たり前だとして、プリームスまで権威を示すような格好をするのには理由があった。


それはレクスデクシア大公が連れるに相応しい友人である事を、見た目だけで他人に分かり易く判断させる為だった。



それが功を奏したか、出迎えた執事然とした初老の男性は、恭しくプリームスに頭を下げた。

「これはこれは、何と美しいお方でしょうか。閣下のご友人であられますか?」



プリームスは初老の男性に片手を差し出す。

「うむ、プリームスだ。ゆくゆく私の護衛として使いたい、才のある奴隷が欲しくてな。クシフォス殿にお願いした訳だ」



初老の男性は、プリームスの手を取ると片膝をつきソッとその手に口付けをした。

「左様ですか。私はこの奴隷商の支配人をしておりますタクサと申します・・・お見知りおきを」



「支配人自ら出迎えとは、ご苦労だな。それとも人手不足なのかね?」

とタクサに笑顔を向けるプリームス。



苦笑するタクサは先を案内する様に、奥の扉へ手を差し出した。

「いえ、通常時では奥に控えておりますが、閣下から事前に連絡を頂いておりましたので、玄関でお待ちしていたのです」



そうしてプリームス達は、支配人のタクサに連れられて幾つも厳重な扉を抜ける。

そして大きなフロアーに出た。


タクサがプリームス達へ小さく頭を下げて告げた。

「こちらが展示室になっております。一般的な良品となりますので、まずはこちらを基準にしてはいかがかと」



その案内されたフロアーは、左右に大きく鉄格子で区切られていた。

またフロアーの中央から左右の鉄格子部屋を眺める事が出来、その鉄格子の向こうには幾人もの奴隷がそれぞれ椅子に座らされている。



右側が女性の奴隷で、左側が男性奴隷と完全に別けられていた。


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