第33話・お怒りのスキエンティアとその提案

ちょっかいを出して来た道化師を追い払った後、プリームスは夜空を見上げる様に屋根の上に寝そべっていた。

正確に言えば夜空を見てはいない。

気絶しそうなので仮眠をしていたのだった。



すると暫くしてスキエンティアが戻って来た。

殆ど音もたてずにプリームスが寝そべる屋根の上に降り立つスキエンティア。

恐らく飛行魔法ウォラートゥスを使用したのだろう。



「陛下・・・随分お疲れのご様子ですが、何かございましたか?」

と心配そうにスキエンティアはプリームスの傍に屈み込んだ。


プリームスは目を開けると千里眼(アルゴス)の使い過ぎで気絶しかけた事と、丁度その時に変態紳士襲われた事を伝える。

誤魔化すと後で面倒になりそうなので正直に話した。



スキエンティアはそれを聞いた瞬間、険しい表情になる。

そしてプリームスを抱き寄せ懇願する様に言う。

「私が傍に居ない時は、絶対にご無理をしてはいけません! お願いですから心配させないで下さいませ」



そのままプリームスをお姫様抱っこすると、飛行魔法を使ってスキエンティアは屋根から地面へ降りた。

降ろしてくれるのかと思いきや、プリームスを抱っこしたまま屋敷の玄関へと向かう。



玄関まで到着すると扉を開けたナヴァルと鉢合わせてしまった。

「おお~こんな夜中に出かけると言われましたから心配しておりましたぞ。遅いお戻りでしたな・・・」

ナヴァルは心配そうに様子がおかしいプリームスへ言った。



プリームスは愛想笑いをナヴァルに向ける。

「すまない、心配させたか。少し気になった事があってな、私とスキエンティアで町を見回っていたのだ」


スキエンティアが苦笑して続けた。

「そしてこの有様です。魔法の使い過ぎで気絶しかけるとは・・・それに私と別行動していた時に、何者かに襲われたようで」



それを聞いたナヴァルは血相を変えた。

「な、なんですと?! 見たところはお怪我は無いようですが・・・してどうなったのですかな?」



「万全であれば捕らえる事も出来たのだが、逃がしてしまった」

と申し訳なさそうにプリームスは答えた。



そんなプリームスへ、スキアンティアは咎める語調で告げる。

「万全であっても、今のプリームス様は以前のような力は振るえますまい。しかも相手はかなりの実力者であったようで・・・今こうして無事な事が奇跡ですよ」



唸るような様子でスキエンティアを見つめるナヴァル。

「プリームス様を襲った者の正体は全く分かりませんか?」



「剣の実力だけなら私と近い実力と伺いましたが。プリームス様・・・どのような様相でしたか?」

とスキエンティアは心配した顔でプリームスに問いかけた。



思い出すのも鬱陶しそうにプリームスは話し出す。

「執事のような恰好をしていたな。仮面を着けていたゆえ顔は分からないが・・・名前はアポラウシウスと名乗った」



飛び出すかと言わんばかりに目を見開いたナヴァル。

「な、な、な!? 何と! あの死神アポラウシウスとな!?」



首を傾げるプリームスとスキエンティア。

「死神?」とプリームスの声が漏れた。


「死神ですか? ナヴァル殿のお知り合いですか?」

と、素っ頓狂な事をスキエンティアは問い返す。



ナヴァルな慌てた様子で語り出す。

「んな訳有りませぬ! 死神アポラウシウス・・・南方諸国で名を馳せる恐ろしい人物です。盗賊ギルドの長と言われておりまして詳しくは不明ですが、1対1の戦いにおいてこの人物に勝てる者は居ないと言われております」


そして自身を落ち着かせる為か、深呼吸をした後に話を続けた。

「それに金さえ積めばどのような難事も引き受け、その依頼を必ず完遂すると言われています。不確かですが、南方諸国の要人が幾人か暗殺されたとも・・・」



「おおぉ」と特に驚いたようすも無く、相槌を打つプリームスとスキエンティア。



その2人を見てナヴァルは頭を抱える。

「何を呑気に『おおぉ』ですか・・・その死神と相対して無事で居られるとは、プリームス様は一体何者なのですか?! それに死神がスキエンティア殿に近い剣の実力とは・・・スキエンティア殿も一体どれほどお強いのやら」



ナヴァルを落ち着かせるように、スキアンティアは愛想笑いを浮かべて尋ねた。

「まあまあナヴァル殿、そんな事より私より提案したい事がありまして。クシフォス殿はまだ起きてらっしゃいますか?」



「はい・・・今頃お酒を召し上がって酔っぱらっておられるかと」

と首を傾げて答えるナヴァル。


同じくプリームスも首を傾げた。

『こいつ、何を考えてるのだ? 嫌な予感がする・・・』



するとスキエンティアはプリームスを抱え玄関を抜け、

「プリームス様の安全対策、それから協力をお願いしようかと思いまして」

と言い放った。

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