第18話・スキエンティアの実力
1時間程休憩を取った後、プリームス達は更に15km南下した。
時間にして3時間・・・足場の悪い森をかなりの速度で歩いた事になる。
プリームスは相変わらず抱えられていたので、強行軍だったのはクシフォスだと言えた。
しかし午前中と同様、全く堪えていない様子。
プリームスからすれば羨ましい限りであった。
そして目の前には、強力な魔物が徘徊するエリアが広がっている。
ここからが問題だとクシフォスは言う。
クシフォスが言う魔物との戦闘を前提とするなら、確かに問題はある。
体調が悪く、物理的また魔法的な戦闘にはプリームスの身体が耐えられるか微妙なところなのだ。
また万全な状態であっても今のプリームスの肉体では、全力での戦闘が5分持つかどうか。
魔法に至っては制御に問題があり、瞬間的な魔法は良いとして持続的な魔法に関しては危険を伴う程だ。
故に徒歩での前進ならば、クシフォスとスキエンティアの力で対応するしかなかった。
だがプリームスはクシフォスに出来るだけ収納アイテムに装備を仕舞い込み、身軽にするように言った。
しかも戦闘は1回試すのみで、後は魔法で一気に森を抜けると言い放ったのだ。
クシフォスは興味津々でプリームスに問うた。
「何をするのか非常に気になる・・・教えてくれないのか?」
クシフォスの腕から降りたプリームスは頷いた。
「勿論説明はする。その前に魔物の生態をある程度見ておきたい。それによって死熱病の関連性も確かめられる」
感心した様子で相槌を打つクシフォス。
「ほほう、色々考えているのだな」
プリームスは既にアナライズを発動させて歩き出していた。
その後ろを追随するスキエンティアも、索敵魔法を使用し魔物を警戒する。
暫く進むとスキエンティアが静かに報告した。
「50m先にかなり大きいのが居ますね。どう致しますか?」
歩みを止めてその場に屈み込むプリームス。
「消音魔法を使う。出来るだけ近寄って観察したい」
クシフォスとスキエンティアもその場に屈み込む。
すると皆、腰の辺りまで生い茂った
この辺りの森は突然様相を変化させていた。
ここまでの途上はそれ程大きくない草木が生い茂り、亜熱帯に近い森の様相だった。
しかし魔物が生息し徘徊するこの危険な地域は、一定の間隔で生える巨木が森を形成している。
巨木はかなりの大きさで幹周は30mはゆうに超えており、幹高は恐らく100m近くはあるだろう。
この手の巨木はセコイア種と呼ばれ樹齢は1000年を超える。
つまりこの混沌の森外周地域は、1000年を超える森なのだ。
その巨木同士の間を悠々と歩む魔物の姿が見えた。
プリームス達から50mは離れているが、その巨体のせいで魔物の姿をハッキリと捉える事が出来る。
それは巨大なトカゲと言ったら分かり易いだろう。
長い首に大きな目、そして鋭い牙を備えていた。
そして長い尻尾に、頑丈そうな前足と後ろ足の四足歩行だ。
クシフォスが嫌そうな表情で言った。
「あれは地竜だな・・・面倒な奴だよ」
プリームスは意外そうに相槌を打つ。
「ほほう、"ここでは"地竜と呼ぶのか・・・」
プリームスの微妙な語調を感じ取ったクシフォスが、
「見知ったような口振りだな。プリームス殿の居た地では何と呼ばれているんだ?」
と問うて来た。
目を細めて地竜を見つめるプリームスは、確かめるように観察したあと徐に答える。
「あれは土竜と呼ばれていてな、巨体の割に俊敏だ。それと穴を掘る習性もある。見たところ10m級だが、まだ成体ではないな」
それを聞いたクシフォスが驚愕する。
「な?! あれで成体では無いのか?!」
プリームスは然も当たり前だという顔をする。
「無論だ。生殖が可能な成体なら、あれのふた回りは大きい。私の知る限りでは、全長20mは下らない」
驚愕したままのクシフォスを他所に、プリームスは消音魔法を自分達3人にかけた。
そしてプリームスは単身で地竜に近づき、ジッと観察し始める。
クシフォスが心配して慌てそうになるが、スキエンティアが脇腹に拳骨を入れてクシフォスを落ち着かせた。
その間もプリームスは地竜を観察し続けていると、その地竜が周りに有る葦をついばみ始めた。
それを見たプリームスがほくそ笑む。
『やはりか・・・』
そしてプリームスは踵を返して、葦に身を潜めたままクシフォスとスキエンティアの元に戻って来た。
プリームスは消音魔法を解除して言った。
「スキエンティア、確認したい事は済んだ。あれを掃除してくれて構わんぞ」
スキエンティアは恭しく頷き、確認を口にする。
「承知しました。では魔法も併用してよろしいでしょうか? ちまちま時間をかけては、他の魔物を呼び寄せてしまう可能性が有りますゆえ」
するとプリームスは腰のレイピアを抜き、周りの葦を刈り始めた。
「構わん、好きにしろ。それと物理的な戦闘能力で、試せるものは出来るだけ試しておきなさい」
それを聞いたスキエンティアはロングソードを抜き放ち、颯爽と葦をかき分けて地竜に向かって行く。
その背中を見送ったクシフォスが心配そうにプリームスへ言った。
「本当に大丈夫なのか? あの大きさの魔物は、俺でも一人で倒すのがやっとだぞ・・・」
葦刈りを止めて感心するプリームス。
「ほほう! 凄いじゃないか、人であれを単身撃破するのは並大抵の実力では不可能だ。クシフォス殿は強いのだな」
プリームスに褒められて嬉しかったのか、クシフォスは胸を張り、
「まぁ、これでも南方諸国では武神と呼ばれてるからな」
と言いドヤ顔をした。
「フフッ」と小さく笑うとプリームスは、再び葦を刈り始めた。
ドンッと地響きを伴った重い音が響き渡る。
地竜がスキエンティアを認識し、前足で踏みつけたのだ。
しかしスキエンティアはそれをギリギリに、しかも余裕そうに回避したのだ。
常人ならば身が竦んで動けないに違いない。
魔物と戦い慣れた者でも、万が一を考慮してギリギリに回避する無茶などしないだろう。
だがスキエンティアはギリギリで立ち回る。
まるで自身の体捌きを確認するが如く。
そして地竜の10撃目の攻撃を躱した時、スキエンティアが反撃に転じた。
するとスキエンティアの右手に握るロングソードが、地竜の右前足を一瞬の間で斬り落としてしまった。
それ程力をこめた様には見えなかったにも拘らずだ。
地竜は右前足を失い、体勢をを崩して前のめりに倒れ込んでしまう。
の様子を離れた位置から見ていたクシフォスが驚愕する。
「おいおい、嘘だろ?! あんな細い腕で、しかもロングソードで地竜の足を斬り飛ばすなんぞあり得ん! それに何だあの体捌きは・・・あの糞早い地竜が子供扱いではないか!」
身体能力面のみでの戦いが、この世界の主流なのだろう。
ならばクシフォスが驚くのも無理が無いとプリームスは思った。
プリームスは刈り散らかした葦を、収納機能がある指輪に収めながら説明する。
「スキエンティアは魔法を併用して戦っているのだ。派手さは無いが、異様な攻撃力はそのせいだな。体捌きに関しては、スキエンティア自身の純粋な技術だよ」
顎に手を置いて唸るクシフォス。
「最初、スキエンティア殿単身で魔物が出た場合処理すると言っていたが、正直信用していなかった・・・だがこれ程の実力ならば合点が行く」
そう話している内に、スキエンティアが地竜の首をアッサリと切断して戦闘は終わってしまった。
やろうと思えば1分もかからず地竜を処理できた筈だ。
しかしそうしなかったのは、やはり地竜を使ってスキエンティア自身の何かを試していたのだろう。
汗ひとつかかずに戻って来るスキエンティアを見て、クシフォスはそう思うしか出来なかった。
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