第14話・自身を語るは恥か?誇りか?
クシフォスは、プリームス達を同等の友人として扱うと言った。
そう言ってくれた相手に、自身の事を全く話さないのは信義にもとると言うものだ。
しかしプリームスは、ここに来るまでは魔王であり魔界の実質的統治者であったのだ。
そんな事をクシフォスに話しても仕方ない事で、話した所で信じてもらえないだろう。
しかも次元を超えてこの世界にやって来たのだ。
そこからして説明し難い。
嘘をつかずに真実を語るには、プリームスの存在は特殊過ぎた。
ならどうするか・・・?
自身の二日ほど前に起こった現実を話すしかないだろう。
プリームスは統治者であった。
そして戦に負け、敗残の身となった。
戦犯として扱われる立場にあったが、敵国の将により温情を受けて逃がされた・・・。
全て過去形だが、嘘では無く真実だ。
意を決し、それらをクシフォスに話してみた。
勿論、自分が魔王であった事は伏せておく・・・すると神妙な面持ちになるクシフォス。
「う~む・・・」と唸りだす始末だ。
プリームスは歩を進めながら、クシフォスに振り返らず問うた。
「嘘だと思うかね?」
クシフォスは小さく首を横に振ると言った。
「いや、、、貴殿のその佇まい、そしてその雰囲気からは気高さと高貴さを感じていた。一国の王であったとしても全く違和感が無い。それに嘘をつくなら、もっとましな嘘をつくだろう? わざわざ敗残の王と名乗る馬鹿など居ないよ」
プリームスは苦笑する。
「それは私が馬鹿だと言われているように思えるが」
慌てて否定する声が背後から聞こえた。
「いやいやいや・・・違う違う。それだけプリームス殿が俺を信用して話してくれたと言うことだ。俺はそう受け止めている」
「フフ」と小さく笑いクシフォスを一瞥するプリームス。
「貴方は人が良いな・・・」
少し納得がいかない様子のクシフォス。
「それこそ俺が馬鹿にされているように思えるが?」
「真っ直ぐな誠実さと愚直は紙一重と古来より言うではないか? それと天才と馬鹿者も紙一重と言う言葉もあったな」
とプリームスは、澄ました顔で前を向いたまま言い放つ。
それを聞いたクシフォスは、笑いながら怒る様子を見せた。
「こら~! いくら俺でもそこまで言われたら、馬鹿と言われていると分かるぞ~!」
ハハハッ、と明るい声で笑いながらか駆け出すプリームス。
まるで年相応の少女のようだ。
それを目にしたスキエンティアは、少しホッとした。
戦に敗れ、この世界に流され、その上2度も命の危機に陥ったのだ。
プリームスの心が疲れ切っているのは明白だった。
そんな主が少しでもその心に元気が戻れば、スキエンティアとしては嬉しいのだ。
プリームスにしては珍しく、足がもつれて倒れかかった。
慌てるスキエンティア。
それを咄嗟にクシフォスが背後から抱きとめる。
手と腕にプリームスの身体の感触が伝わり、クシフォスは驚いた。
プリームスが余りにも華奢で、軽かったからだ。
こんな小さな身体で、この混沌の森を何十キロも進むのは無理が有るようにクシフォスは思えた。
そしてクシフォスの掌が、プリームスの胸に重なっている事に気付く。
「おわぁっ、すまない!」
と慌ててクシフォスはプリームスから離れた。
再びクシフォスは驚愕して顔が赤くなる・・・想像以上にプリームスが巨乳だったからだ。
気高く高貴な佇まいに、美しくもあどけない顔。
そして華奢な上に巨乳。
更に髪の毛から肌に至るまで真っ白な様相。
美を凝縮したようなプリームスに、クシフォスは色んな意味で圧倒されてしまった。
そんな呆然としてしまったクシフォスの前で、再びプリームスがよろけてしまう。
様子がおかしい。
直ぐに我に返ったクシフォスは、今度は優しくプリームスを背後から抱きとめる。
スキエンティアも心配してプリームスの傍に駆け寄って来た。
「陛下!」
プリームスは少し気怠そうに弱々しくスキエンティアを叱責した。
「その呼び方はやめろ・・・」
慌てつつも畏まって頭を下げるスキエンティア。
「も、申し訳ありません・・・」
「プリームス殿失礼するぞ」
そう言うとクシフォスはプリームスを抱き上げた。
お姫様抱っこ状態だ。
そしてスキエンティアがプリームスの額に手をあてる。
「熱がありますな・・・まさか死熱病では?!」
プリームスは小さく首を横に振った。
「それは無い。私とお前は特効薬を以前飲んでいるからな。免疫抗体が完成しているゆえ、発病はしない」
少し狼狽えた様子のスキエンティア。
「では、一体!?」
瞳を伏せるとプリームスは呟いた。
「只の風邪だ・・・恐らく疲労で免疫力が落ちていたのだろう。少し休めば回復する」
スキエンティアとクシフォスは胸を撫でおろした。
「左様で・・・」
「そうか・・・」
目を閉じたまま申し訳なさそうにプリームスは言った。
「すまないが私を抱えたまま進んでくれないか? 先を急がねばならない時に、申し訳ない・・・」
死熱病に侵された村を救いに行くのが目的である。
故に急がねば助かる命も救え無い可能性があり、こんな所で足止めを食う訳にはいかなかった。
「分かった.、俺に任せろ」
そう言うとクシフォスは片手でプリームスを抱えたまま歩み始めた。
巨躯の為にプリームスが片手ですっぽり収まってしまうのだ。
流石のスキエンティアでもこんな事は出来ない。
羨ましそうにスキエンティアは、クシフォスを見つめるだけであった。
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