第9話・周辺調査へ

一息つき、プリームスは周辺を調べる事にした。



一度、飛行魔法で上空に上がった時に見た風景は、一面森だらけだった。

全て見渡せた訳では無いので何とも言えないが、かなり僻地の可能性が高い。



先ずは見渡せる高地か、山頂に行く必要が有る。

そういう訳で、プリームスとスキエンティアは山が見える方へ歩き出す。



ある程度調べながら進み、収穫が無ければスキエンティアの飛行魔法で山頂まで飛べばいいのだ。

またドラゴンなどの強力な生物も飛行している可能性も考慮し、取り敢えず徒歩と言う訳だ。



進みながら周囲を調べて行く事にした。

いちいち立ち止まって調べるのでは無く、魔法によってある程度の範囲を調べつつ進のだ。



プリームスは片手に魔力を込めて呟いた。

「我が意思の元に精査し調査し、そして解析せよ・・・アナライズ」



するとプリームスを中心に半径5m程の不可視の魔法陣が地面に形成された。

スキエンティアなどには勿論見えない。

しかし保持する魔力が強い者は、それを感じ取る事が出来るだろう。

加えて探知魔法などを発動させていれば、解析型の魔法を使ったと看破される可能性もあった。



因みに解析魔法であるアナライズは、範囲にある物を術者が視認し指定する事で解析することが出来る。


例えば見知らぬ薬草が有れば、それを視認して意識するとどういった薬草なのか構成が分かる。

その植物の名前が分かったりする訳ではない。


ただ、知識として術者が把握している物であれば、脳内の記憶野から引き出され名前が視覚情報として網膜に映し出される。

類似の物を見分ける場合にも使えた。




この雑用的魔法をプリームスが使うのでは無く、本来はスキエンティアにさせればいいのだが、そうしないのは理由があった。



それはプリームスの依代である肉体の魔法練度を上げる為である。

飛行魔法の様に制御に失敗して、自身に危険が迫る事も無い。


またスキエンティアには索敵魔法を使わせて、危険な魔物や敵対する可能性がある人間等をいち早く見つける役目を負って貰っている。

故にアナライズを使わせることは出来なかった。



そうして遅くもなく速くも無い速度で山頂を目指す2人。



暫くして先頭を歩くスキエンティアが突如立ち止まった。

「陛下、人の気配が・・・1人のようです」



プリームスは頷くと、アナライズを使用したまま違う魔法をもう1つ使用した。

普通なら不可能な事だ。

何故なら魔法の発動と維持は、1つの意識に対して1つが限度だからだ。



だがプリームスが100年かけて研磨した魔術と魔力、そして研究し尽くした魔道。

それらに裏打ちされた魔術の技術は、それを可能とした。

意識を分割し、まるでそれを切り替えるように、個別の魔法を発動させる枠を作ってしまうのだ。



そして並列に発動させた別の魔法とは、消音魔法ムータだ。

指定した対象の音を消し去ってしまう魔法である。


この魔法は対象が出した音を魔力によって相殺し、周囲に音が伝播しないようにする物である。

よって魔力で音を相殺する僅かな空間が必要で、そこに敵が接触していると音を聞き取られてしまう可能性があった。


しかしその場合は至近であり、ほぼ密着に近いので暗殺や隠密行動で使用するなら問題無いと言えた。



音を消した状態で、目標に忍び寄るプリームスとスキエンティア。

そうして目標を視認出来る位置まで来た。



”人の気配”を発していたものは、正に人であった。

そしてこの世界に来て初めて会う人間でもあった。



だがその人物は地面に倒れ伏していて、今にも死にそうな様子だ。

うつ伏せに倒れ込み、大きくゆっくりと背中が上下している。

息が荒い・・・病気か、毒か、もしくは魔法によるものか?



どちらにしろ放っておけば死んでしまうに違いない。



プリームスはスキエンティアに周囲を警戒させたまま、消音魔法を消し去った。

そのまま地に倒れ伏した人物の元に駆け寄るプリームス。

そうしてその人物を抱き上げ仰向けに地面へ寝かせた。



歳は40歳程の人間の男性だった。

どちらかと言うと男前と言える顔つきで、体もガッチリとしている。

身長は200cmは有りそうな巨躯で、腰に短めの剣と、背中にバスタードソード級の大きい剣を担いでいる。



旅の剣士・・・或いは冒険者だろうか?

傍には大きめのリュックが無造作に落ちていた。



アナライズをこの男性に指定し意識を集中させる。

すると直ぐに倒れていた原因が判明する。

一つ一つ原因を洗っていっては時間がかかるので、山勘で体内の血流を調べたのが功を奏した。



この男性は、超極小寄生虫による熱病を発病して倒れていたのである。

蚊を媒介して感染し、目に見えない程の寄生虫が血中で増殖する。

そして最後には肉体の免疫能力を超え、死に至らしめる恐ろしい病だ。



アナライズで血中に漂う寄生虫を看破出来なければ、判明しなかった病である。

そしてこれを看破出来たのは、長年に渡り戦場に身を置き数多くの風土病を見て来たプリームスだからこそと言えた。



プリームスは収納機能が付加してある指輪から、迷いなく掌に収まる小瓶を取り出す。

その小瓶はガラスで出来ていて、中に濃い青色の液体が見て取れた。



スキエンティアは、その小瓶をみて感心した。

「死熱病でしたか・・・良く分かりましたね」

そう言ったのは、この小瓶の液体が死熱病の特効薬だからだ。



プリームスは、仰向けに寝かせた男性の口に、その小瓶の液体を注ぎ始めた。

「まあ、症状をみて直ぐに分かった。アナライズで確かめたのは、確証が欲しかったからだ。何せここは我々のいた世界とは違う次元かも知れないからな」



頷くスキエンティア。

「左様ですな」



そしてプリームスは腰を据える様に、その場に座り込んだ。

薬の効果が出るまで多少時間がかかるからだ。



それを見たスキエンティアは、溜息をつく。

「今日はここから動けそうにありませんな・・・」

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