第11話 エルゼの母
「タケルさん、初めまして。エルゼの母、エレーヌ・マグノーリヤ・インナ・ウートロです。
エルゼを救ってくださってお礼申し上げます」
エレーヌは改まった表情でタケルを見やった。
「こちらこそ、ありがとうございます。いろいろお世話になり…」
タケルは上半身を起こしていた態勢から立ち上がろうとしたが、下半身を起こそうとすると右太腿がやや痛い。
「まだ無理はされずに」
近寄ったミレーヌが膝をついて座るのであった。
ほんのりと甘い香りがした。
ワンピース的な服からは彼女の胸元が存在感を持って迫るようだった。
彼女はつま先まで白いタイツのようなものを履いている。
いま気づいたが、エルフの生活は室内では靴を脱ぐスタイルらしい。
タケルが寝ている夜具も床に敷かれているし、エルゼも円座のようなものに腰を下ろしている。
靴+ベッドの暮らしでないのは、日本と同じようだ。
タケルは立ち上がらず、上半身を起こした姿勢のままで、距離が短くなった彼女の双眸を見つめた。
その奥の瞳にはエメラルドカラーを薄めたような色合いが宿っている。
エルゼの紫色の瞳とは、また違った落ち着きを感じる。
目元も綺麗な人だなぁとタケルは思う。
先程、彼女の豊かな膨らみのことを強く意識したことが少し気恥ずかしく感じたが、
「僕は一乗タケルと申します。
エルゼさんからお聞きと思いますが、この世界に来たばかりでよく分からないことも多いです。
よろしくお願い致します」
と明るく言葉を継ぎ足した。
「タケルさんも当分何かと大変だと思いますが、何かお役に立てることがあればおしゃってくださいね。
こちらこそよろしくお願いします」
こういう感情は、エルゼと会った時には余り感じなかった。
もっともエルゼには違う形の好印象を持ったが…。
タケルのいた世界の基準だと、エレーヌは30〜40代に見える。
そんな感じの人に官能が揺れる自分は一種のマザーコンプレックスなのだろうか?
思えば、二次元キャラクターに関する限り、自分は妹系タイプの異性には余り興味がわかなかったかもしれない。
どことなく、母性を感じさせてくれるキャラクターが好きだった。
例えば高校を舞台にしたスクールアイドルが活躍するアニメでは、チームメンバー9人の中で最も惹かれたのは、高3設定で長い黒髪と関西弁が特徴のキャラクターだった。彼女はやや豊満なプロポーションを持ち、人柄も母なるものを感じさせた。
友人は高1の妹系キャラクターのメンバーを推していたけれども、タケルは2次元についてはそういう気になれなかった。
やはりマザーコンプレックスの傾向が自分にはあるのか?
ただし、冷静に考えてみると、異世界もののエルフの記述が正しいとすると、長寿の種族だから、エレーヌは100歳はゆうに超えているにちがいない。
異世界では、種族が違えば、歳は余り気にする必要はなさそうだが、祖母より生きている経験があるというのは…。
しかしながら、エレーヌの容姿は老婆ではないし、人類の基準で考える方がおかしいのかもしれない。
「タケルさん、どうしたんですか?」
というエルゼの声は、銀の鈴のように響いた。
「あっ」
考え事に没しそうだったタケルは、エレーヌに向かって
「はい、よろしくお願いします」
と軽くお辞儀をすると、エルゼに視線を移して、
「ちょっとぼーとしてしまって」
と言い訳した。
エルゼの表情がちょっぴり不満げに見える。
母親に見惚れていたと感じ取ったのだろうか。
それはそれで、少し可愛らしくも感じる。
「タケルさん、体の具合はいかがですか?」
エレーヌが訊くと
「おかげさまで、だいぶ元気になりました」
「それは何よりですね。右脚はどうかしら?」
タケルは一瞬迷ったが、
「太腿に力が入ると少し痛むようです」
と正直に応答する。
「槍の傷だったみたいですね。
と心配そうな顔つきで
「ちょっと傷口を診てみましょう」
と言い添えた。
エレーヌはエルゼに目配せした。
「お母さんは、治癒魔法も使えるんですよ〜」
そう言って、エルゼは立ち上がり部屋から退出しようとする。
「タケルさん、いったん横になってください」
「分かりました」
タケルが仰向けに寝る姿勢を取る頃には、エルゼは部屋の外に消えていた。
エレーヌは毛布を除けてタケルのパジャマのズボンに手をかける。
「えっ!!!」
手際よくタケルのズボンは下ろされることとなった。
タケルの太刀~宝麗島英雄伝 19歳男子が神剣で王道楽土を目指す~ Mikan Tomo @Mikantomo
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