第10話 目が覚めてみると
勇者、
暫時ノ
『宝麗島英雄伝 ビザニウム帝国編纂版』
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「わたしのこと、分かりますか?」
耳に心地よい澄んだ声。
美しい顔立ちの少女が心配げに話しかける。
出会った時と同じくツインテールの紫色の髪が揺れている。
2筋ある赤いリボンも同様だ。
「エルゼさん…、ここは?」
返事が返って来たことに表情を和らげて少女は答える。
「ああ、よかった! 」
明るく響く声。
「気がついたんですね、タケルさん。ここはわたしの家ですよ」
真上に視線を凝らすと薄板を組み合わせたような天井が見える。
我が家とは違う。
異世界への転移やゴブリンとの死闘は、やはり夢ではなかったらしい。
「あれから…、そうゴブリンを倒してから、どうなったのでしょうか?」
タケルが首だけエルゼの方を向いて訊く。
「タケルさんはあそこで倒れたんです。それで、ガルフさんの馬で集落まで運びました。
一応、
「そうだったのですね。ありがとうございました」
タケルは毛布のようなものを掴んで、上半身を起こしてみた。
力を入れる際に右の太腿に、ゴブリンの槍で傷ついた箇所だが、少しだけ痛みを覚えたぐらいで、それ以外は調子は悪くない。
「タケルさんは、まる3日間、ずっと寝ていたんですよ。
治癒師は、
『大丈夫眠っているのは身体を回復させるためだから心配ないっ』
て言ってくれてはいたんですが、でも…心配で。
目が覚めて本当によかった!」
「エルゼさんには、心配をかけてしまいましたね」
タケルは上半身を起こしたまま頭を下げた。
その時、ふと自分が薄緑色の寝間着のようなものを着ていることに気づいた。触れてみるとサテン生地のようなすべすべした肌触りだ。
「服を取り替えてくれたのですね」
「はい、寝るための服に。タケルさんの服は、ちゃんと洗って置いてありますよ」
そして、タケルはトランクつまり男の下着を履いていないことにも気づく。
下半身はパジャマのズボンのようなものを一枚履いてるだけなのだ。
「全部、着替えさせてくれた?」
「え、あっ、そうです。
わたしが、したわけじゃなくて、あの、その、お母さんが…」
ちょっと赤面するエルゼ。
タケルもつられて頬に赤みがさした。
とは言え、看病なのだから着替えぐらい当たり前だろう。
エルゼに生まれたままの姿を見られなかっただけでも
こう思い直すタケルの耳に
「タケルさん、目が覚めたようで良かったわ。心配でしたが、これで少し安心ですね」
エルゼとは異なる、潤いのありそうな優しげな声が入ってきた。
部屋に現れたのは、緑色のロングヘアーをそのまま下ろした、とんがった長い耳を有する、美しい女性だった。
タケルの思い描く、大人のエルフの女性そのものだ。
「あっ、お母さん!」
そう呼ばれたエルフの女性は、スラリとした肢体で、肌は雪のように白く、容貌には品格があった。
切れ長の目に高めの鼻。
額に見える宝玉を散らした細い鎖のアクセサリーがとてもよく似合う。
また、タケルの目を引いてしまうのは、白地の布に包まれている存在感のある胸の膨らみだった。
タケルがいた現代日本でもここまで大きい人はあまり見掛けないのではないか。
タケルは女性の胸元はあまり見ないようにしてきた方だ。
友人がその手の話をしていても加わらずに話半分で聞き流してきた。
一乗流の道場の女性剣士とも手を合わす機会があり、そんな視線を向けようものなら祖父や父にきっとどやされる。
女性の胸へも執着は剣術の妨げになる、そんな思いもあったと思う。
また、マンガやライトノベルでやけに胸元を強調する描写や会話があるたびに
そんなに大事なことなのか、女子は嫌がるだろうに
と少し閉口していた。
だから、自分はバストに執着してこなかったと言えるのだが、この場でつい意識してしまい、しかも動揺を覚えているのは何故だろう。
異世界もののマンガやアニメを通じて、エルフの女性の胸の双丘は大きめというイメージを持っていたけれども、こう目の当たりにすると、やはり事実を反映していたのかと、タケルは心乱れれている己の未熟を恥じながらも、感動に似た気持ちも覚えるのであった。
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