第5話 危機の中で
たくさんの
全部合わせて50体以上はくだらないだろう。
「エルゼさん、どの方向に逃げたら安全ですか?」
「あっちです。エルフの森の結界があります。ゴブリンは結界の中に入れません」
青ざめたエルゼは、操る光球が照らす前方を指差した。
そうしてる間にも
「分かりました。僕が突破口を開きます。一緒について来てください」
タケルは太刀を
右手に太刀を握りしめて
「では、走りますよ!」
タケルは駆け出し、エルゼも背後に続く。
十数秒後に斜め前から来た斧や槍を持つゴブリンたちと衝突、戦いの口火が切られた。
「うりゃー!」
タケルは刀を手にして吼える。
峰打ちではない、相手を
暗緑色の小鬼たちの腕が、首が、骨も断ち切られ、次々飛んでいく。
生きとし生けるものの命は大切だ。
しかし、あくまでも自分の命を保っての上で言えることだ。
切り捨てなければ、災いをもたらす命も時にはある。
ここで自分がゴブリンにやられれば、今日で会った少女に大なる災いが降りかかる。
もはや躊躇いはない。
ズバッ、ズバッ、ズバッ
縦に斬り伏せられた者、胴を切断された者、斜めに裂かれた者、全て致命傷だった。
太刀を振るう度にタケルの衣服にゴブリンの青い血が飛び跳ねた。
「光を授け給えかし」
エルゼは戦闘は得意ではないようだが、折々光の玉を出現させ、襲い来るゴブリンたちに目くらましを見舞い、タケルを助ける。
大木の木陰から不意にゴブリンたちが現れる。槍を突いてきたり、斧を振り回したり。
その度にタケルは防いでみせる。太刀が自分で意思を持つかのようにタケルを導くのである。
そして、不思議なくらい切れ味が良い。
聖剣とは、このような刀を言うのだろう。
タケルは切り進んでいくが、疲れがたまり、速度が落ちてつつあったので、後ろから追ってきた小鬼たちに追いつかれそうだった。
しかし、八面六臂の刀技で、ゴブリンの体の一部が次々と切り飛ばし続けた。
服もズボンも小鬼たちの血でいっそう青く染まっていく。
生臭い独特のにおいが鼻を衝く。
エルゼの白いタイツも青に色合いを変じつつあった。
森が薄くなり、前方の視界が開け始めるとエルゼが告げる。
「タケルさん、もうすぐです。もうすぐ結界が見えます。あの石柱の向こうです」
木がまばらになった空間を出ると、二つの月が輝く夜空。地球の月夜よりも明るい。
大きな石柱のようなものが日本の電信柱三つ分ぐらいの幅の先に立っている。
100メートルほどか。
前方にはゴブリンが絶えている。
しかし、タケルの足腰は限界を迎えつつあった。切り伏せながらの早駆けは体力を削っていたのだった。
エルゼの足取りにも疲れが見える。
そう思った瞬間、タケルは右太腿の後部に強い痛みを覚え立ち止まる。
ゴブリンが投げはなった槍が腿をかすめたのである。刺さりはしなかったが、少なくない血が流れ出ていく。
(このままでは追いつかれる)
「エルゼさん、全力で結界まで走って! 僕がここで食い止めます!」
「そんな、わたしだけ。タケルさんも一緒に」
エルザが肩を貸して歩きづらくなったタケルを連れて行こうとするが、タケルは彼女を押し返し、こう告げた。
「このままじゃ2人ともやられてしまう。僕は大丈夫だから、エルゼさん、結界に入って欲しい」
「でも…」
「早く結界へ入って助けを呼んできてほしい、お願いだ、エルゼさん!」
これは自分を逃がすための方便だとエルゼには分かっていた。
タケルを見捨てるわけにはいかない。
「エルゼさん、僕は必ず生きてまた会うよ。約束する。だから結界へ走って! そして、助かを」
瞳を見据えるタケルにエルゼは頷き、
「約束ですよ」
「うん、必ず。さあ、行って!」
タケルの眼には強い決意が映っていた。
エルゼは未練を断って駆け出した、石柱を目指して。
タケルは追いついたゴブリンたちを睨んだ。
もはや数えきれない。
どんどん集まっているのだろう。
森の中と違って見晴らしが良いのは好材料だった。
月光の下、複数の槍が飛んで来る。
ガシャーン、ガシャーン、ガシャーン
太刀で槍を叩き落とす。
足の負傷で動きづらくはなっていたが、腕はまだまだ動く。
悲壮感は不思議と覚えない。
タケルは幼少から本邦最強ともひそかに言われてきた剣術一乗流の修行を積んできた。
祖父と父による厳しい稽古、自然の中での荒行に耐えてきた。
困難に屈しない精神的な強さがある。
ついにゴブリンの群れに囲まれが、エルゼはもう結界に入ったことだろう。
タケルは両手で刀の
すると剣術の道場で祭っている武神たちの
「
こう言葉が出るやいなや太刀が突如輝きを放つ。
ゴブリンたちが一一斉にたじろぐ。
「そりゃー!」
タケルは猛き心を抱いて、ゴブリンの群れに切り込んだ。
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