54.
「っそたれ! 倒れやしねぇ、こいつらあの島の村人と同じか!?」
「ぼやくなドグル。信号弾が上がった、撤退の合図だ」
「ダムネ達はどうすんだよ!」
第二、第三大隊はゾンビ―兵が出て来た時点でドグル、オートスの両名が進言し早々に合流を果たしていた。しかし、シュトレーンの兵がゾンビ―かしたため頭を撃ち抜く以外倒す方法が無いので、伝達が回りきるまでに大半がやられた。
「……味方が敵になるのは流石にやめてほしかったな。ダムネ達の第四ももう駄目だろう」
「まだそうと決まったわけじゃねぇだろ! くそ……しつこいんだよ……!」
「第四大隊は数人が下がってきた……隊長はやられたらしい。国境まで戻って頭を狙い撃って数を減らすしか方法はない」
「クソッタレがぁぁぁ!」
ドグルは雄たけびを上げてアサルトライフルを乱射しゾンビ―兵を葬っていく。そこで、第二大隊の隊長アンドレイがドグルに声をかけた。
「ドグル、お前達は下がれ! しんがりは俺が務める」
「隊長!? いやいや、あんたが逃げてくださいよ! 第三の隊長と一緒に!」
「気にすんな、若い奴が下がれってんだよ!」
的確に敵兵の頭を撃ち抜きながらアンドレイが言う。
味方の帝国兵には膝を撃って行動不能にする荒業をやってのけているのだが、それが大きな負担となっていた。
――今は戦争。そんなことを気にかけている余裕は本来なら、ない。
だが、アンドレイはこんなバカげたことで兵士を死なすのはクソくらえだと、なるべく目に付いた帝国兵は行動不能にしていく。
「突破口は開く、行け!」
そこへ第三大隊の隊長、ヴィザージュが”ホーネット”を片手に駆けてくる。
「隊長!? 下がったのではなかったのですか! 他の連中はどうです!」
「変異していないものはもう撤退を始めている、直接襲い掛かってくるだけだから国境の壁までは入れないだろう。伝令兵がやられたのは痛かった……後は第四だが前線はもう駄目だろう、我等だけでも――」
「くっ……」
ドグルが煙草を噛み砕いて呻く。
しかし、シュトレーンの兵に加えて帝国兵が敵に回る状況で助けに行くのは不可能だと、全員ヴィザージュがやってきた方向から逃げるため撤退を始める。
しかし急に攻撃が止み、静かになる。オートスやドグルが訝しんでいると、兵達をかき分けて一人の男が現れた。
「そのエンブレムは隊長だな? 二人いるとは都合がいい。ここで死ぬか、仲間になるかどちらかを選んでいいぜ? あ、お土産だ受け取ってくんな」
オートスは声をかけてきた男の顔を見た瞬間、冷や汗が吹き出した。茶髪の軽薄そうな表情を見せているが、『遺跡』で出会ったドラゴンよりも恐ろしい存在だと認識していた。ドグルを見ると同じく冷や汗を流して歯を食いしばっている。恐怖に飲まれないようにと。
そこへ、どさりと、担いでいたモノをオートス達の前に投げ捨てる。それを見た二人は揃って大声を上げた。
「「ダムネ!?」」
「おお、知り合いかい? なかなかタフなやつだったが俺と戦うにはちっと……いや、全然実力が足りねぇ。おっと、自己紹介がまだだったか。俺はニック。シュトーレン国に雇われた傭兵隊長ってところだ」
ニックがにやにやと笑いながらそう言うが、オートス達はダムネに近づき容態を確かめる。
「おい! しっかりしろ!」
「強化鎧が紙みたいに斬られている……だが、こいつのおかげで何とか息はあるか……」
「おいおい、人が自己紹介をしているってのに無視かい? そいつはいい素材になりそうだったからギリ生きているだけだ。死体なら確実にこちらのものになるが、生きている方が強いゾンビ―になるんでな」
ニックが黄色の珠をいじりながら笑う。
「ゾンビ―だと……? いや、先ほどの問いはどちらもノーだ、貴様が大将ならちょうどいい、ここで倒して終わらせる! 隊長二人相手に勝てると思うな!」
「ドグル! そいつは置いて行け!」
ヴィザージュが吠え、アンドレイが叫ぶ。だが、ドグルとオートスは銃を握りしめて言う。
「倒せば終わるなら俺達もやりますわ、ダチを残してのこのこ逃げ帰るなら死んだ方がマシですって!」
「生き残っている者は撤退だ! ここは左官クラスで食い止める! 町にいる補給部隊に現状を伝えてくれ」
「……わかりました、力及ばず申し訳ありません……行くぞ皆の者……!」
オートスの第三大隊の少尉が合図をすると撤退を始める。手薄な場所を馬で突っ切り、徒歩の者たちが続いていく。
「おっと、逃がさないって――」
ガッ……!
ニックが赤い珠を掲げて何かをしようとしたところ、ものすごい勢いで飛んできたダガーに赤い珠を粉々に破壊された。すぐに手を引いたのでニックの手は無傷。
「な!? スローイング・ダガーだと! くそ、赤い珠を……これじゃ制御が……」
「できんだろう? 顔を出してくれて助かるぞニック」
「なんと、あなたは……!?」
撤退する兵達の間を駆け抜けて走ってくるのはガイラル皇帝だった。ヴィザージュが驚きの声をあげるが、ガイラルは構わず馬に乗ったままニックに近づき剣を叩きつけた。白い剣で受け止め、ニックは目を見開いて高笑いを始めた。
「ガイラル皇帝じゃないですか! はははははは! 俺に気づいていたってことか!」
「フィリュード島での騒ぎ、あれはお前の仕業だろう? お前らしい汚いやり方だと思って……な!」
「どわ!?」
ガキィンと振り払うとニックが力負けをして兵の中へ突っ込んでいく。その間にガイラルは馬から降りてその場に残っていた者へ指示を出す。
「まさかここまでやられているとは私も読み違えたか。もうすぐ飛空船が国境付近に来る。そこで装備を受け取って反撃だ。ここは、というかあのニックという男は私がやる」
「陛下、我々も……!」
「いい、赤い珠を破壊したから今は兵を動かせん。実質一対一、今のうちに下がれ!」
「……っ!」
ガイラルがそう言い切ってニックへ追撃を仕掛ける。皇帝自ら行く強引な攻めに驚くアンドレイだが、確かに好機かと思った瞬間、ドグルが声を上げる。
「陛下が来たってことはあいつも来るだろ! 俺は残るぜ隊長」
「俺も残ります……フフ、噂をすれば、だな」
「なに……?」
ヴィザージュがオートスの見ている方向へ目を向けると――
「皇帝! 勝手に突っ込むんじゃない! お、ドグルにオートスか! 良かった、まだ生きてたか!」
「勝手に殺すな馬鹿野郎!」
カイルが御者をしている馬車が突っ込んできていた。そこへドグルが罵声を浴びせながら笑う。反撃開始だ、と。
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