18. 

 


 カイルは箱を開けながらシュナイダーとドラゴンの戦いから目を離さない。幸い火を吐く邪魔をしたシュナイダーに怒りを向けたことにより、カイル達は思うように行動ができていた。

 賢くて逆に助かったと思いながらカイルは、箱の中にあったモノを組み立てる。


 「もう少し耐えろよシュナイダー! 三番と四番を解放、人間相手じゃないから全力で行く……!」


 ガシャン、と両手で抱えてでしか持つことができないであろう火器を持ちトリガーを引くカイル。直後、銃口からシュルルル……という白煙を巻き上げ、弾丸がドラゴンへ向かう。狙いは胴体。

 シュナイダーに気を取られていたドラゴンに回避できるはずもなく、弾丸は吸い込まれるように着弾する。

 

 ドゴォォォォ!


 「ギャェェェェェ!?」


 「アオオオオオン!」


 直後、弾丸を中心に大爆発を起こし弾丸を中心に燃え広がる。ギリギリまで引き付けていたシュナイダーにも燃え移るが、ゴロゴロと転がり火を消すと再びドラゴンへと飛び掛かる。


 「一発じゃ無理か食らえ!」


 ボゴォォン!


 「グォォォォ……!」


 さらに弾丸を発射するカイルを捉えるドラゴンがカイルに向かって飛び掛かるため空中へと浮かぶ。シュナイダーの攻撃と、弾丸を避けるため空中の方が良いと考えたのだ。


 そんなカイルを横目に、フルーレは近くに居たドグルの回復を行っていた。カイルの撃つ銃にふたりはゴクリと喉を鳴らす。


 「な、なんだありゃ……あんな火器、みたことねぇぞ……あれだけ撃って少ししか傷つかなかったドラゴンの鱗と皮があっさり……」

 

 「それにあの武器、帝国の刻印もありませんよアレ。一体カイルさん、何者なんですか……」


 フルーレが呟くと、カイルがこちらをチラリと見ながら弾丸を撃つ。ドラゴンはひらりと回避し、カイルを爪で引き裂こうと急降下してくる。


 「チッ、シュナイダー!」


 「ガルゥゥッゥ!」


 シュナイダーのジャンプが届く範囲に入った瞬間、ドラゴンに体当たりでぶつかり邪魔をする。またこいつか、とドラゴンは怒り、前足でシュナイダーを殴り飛ばす。


 「ギャン!? ……グルゥゥゥ……!」



 「シューちゃん!」


 「気にするな、あれくらいじゃあいつは死なない! 回復できたかドグル大尉? こいつを頼む! 一番と二番、解放する!」


 カイルは長い箱から取り出した『一』と『二』と書かれた木箱を二人の前に蹴り飛ばし、それぞれパキンという音ともに蓋が勝手に開く。


 その中には――


 「こいつはアサルトライフル!? でもこんな型しらねぇぞ……色も真っ赤だし……」


 「こっちもさっぱり……知ってますか?」


 「いや……新作、か? そういや、セボック技術開発局長から預かってたな……」


 ドグルの手には本体が深紅、装丁が黒という異質なアサルトライフルを手にし、フルーレも同じ色をしたハンドガンのような銃で、六発の弾倉がむき出しになっている銃を見て呟く。


 「フルーレちゃんはダムネ中尉の治療に向かってくれ! ドグル大尉はシュナイダーとこいつを足止めだ。できれば倒してくれ」


 「おめぇはどうすんだよ!」


 「残りを開放する。頼む!」


 そう言って近づいてきたカイルは先ほどまで使っていた火器をドグルへ渡す。


 「うわっと!? こいつも使えってか!?」


 「あんたなら片手で撃てるだろ? ダムネ中尉なら……六番でいくか……大佐!」


 「もう来ている。もらっていくぞ。ふん、用意周到なことだ」


 「できれば使わないで起きたかったですがね。セボックに演技をしてもらってまで頼んでいた甲斐がありました。シュナイダーは予想外でしたけど。……フルーレちゃん早く!」


 やはり箱に入っていた剣を拾いドラゴンへと向かっていくブロウエル。これでしばらくは持つかとカイルはフルーレに声をかけた。


 「あ、は、はい!」


 ダムネへと駆け出すフルーレにドラゴンが気づき、獲物を取られまいと今度はフルーレに標的を合わせる。しかし、そこでドグルが両手に持ったアサルトライフルと火器放つ。


 「トカゲ野郎! こっち向けってんだよ!」


 バシュ!


 ダラララララララララ!


 左手の火器から飛ぶ弾丸の反動に体を揺らしつつ、右手のアサルトライフルを乱射するドグル。


 「(おいおい、ほとんどブレねぇぞこれ!? マジでなんなんだあいつは!?)」


 アサルトライフルのような連射タイプの銃は反動で上下にブレるもので、新作だと渡された”ウッドペッカー”でも反動はかなりあった。だが、この銃はブレも音も最小限で、持っている手も撃っている感覚が少なく、使いやすさと同時に気持ち悪さも感じていた。


 ボッ! ボッ! ボッ! ドゴォォン!


 「グギャァァ!?」


 「っしゃ! さっきのお返しだぜ!」


  舞い上がろうとしたドラゴンの羽を綺麗に撃ちぬきドグルは歓喜する。燃え上がるドラゴンにやったかと思ったが、ドラゴンはドグルへ首を向けて火球を吐き出してきた。


 「うおお!? こいつ吐く火の強弱をつけられんのか!?」


 「油断するな。こいつが伝説級レジェンドだということを忘れるな? ……来るぞ!」


 「チッ、大佐いいんですかい!?」


 「構わん。私は銃が苦手でね、切り刻むことしかできんロートルだよ」


 そう言って落ちてきてバランスを崩したドラゴンの眉間を切り裂くブロウエル。


 「よくあんなに近づけるな……なら、大佐殿の援護で畳みかけるとすっか!」



 ◆ ◇ ◆



 「少尉、お前は一体……」


 「ちっと黙っててくれ、こいつは単純だがちゃんと組まないと暴発するんでな」


 「すげ……なにこれ……」


 ビットが長い銃身を見て息をのむ。おおよそ人間を撃つためのものじゃない銃だと、カイルに近づいてきたオートス、チカが思っていた。オートスはしゃべるなと言われたが、


 「か、勝手なことだとはわかっている、だが、俺はこいつらを死なせたくない……俺にもなにか武器はないか!」


 「……」


 「う、後ろから撃つような真似はしないと誓う! 頼む!」


 カイルは無言でカチャカチャと、重火器を組み立てる。オートスはダメかと項垂れるが、カイルは最後のパーツをカチャリとはめ込んだ後、口を開く。


 「隊長さん、どうしてこいつらを巻き込んだ? さっき『兄ちゃん』とふたりが叫んだのは聞いている。理由を聞かせてくれるかい?」


 「……っ」


 オートスは顔を引きつらせて口を噤むが、チカがオートスの肩をゆすり首を振る。オートスはそこで息を吐き、口を開けた。


 「……少尉の言う通り、こいつらは俺の妹と弟だ。村でこいつらの両親が捕まっているとお前は推測したが、それもフェイク。本物の俺達の両親はウィスティリア国の現政権の人間に捕らえられている」


 「どうしてまた」


 「恥ずかしい話だ……両親は商人でな、交易で友好国の隣へは行くのだ。俺が帝国兵になったことを仲間に話したんだろう、向こうで拉致され――」


 オートスはそこで言葉を切る。


 「なるほどな。恐らく、帝国に関する何か情報を手に入れろってところか? もしくはクーデター派の連中を黙らせる武器でも流せ、とかだな」


 「……ああ。だから今回の『遺跡』で『遺物』があれば助けられると、思ったのだ……」


 「それを上層部は見越してたってわけか。もう武器もいくつか流したんだろ? マークされてたんだ、恐らくな。これで両親はもう助からない、そういうことか」


 「……」


 オートスは俯いて黙り込むと、フルーレとダムネがこちらへ来るのが見えた。カイルは『六』と書かれた箱を開けて、オートスに手渡す。やはり深紅の色をした……スナイパーライフルだった。


 「下手なことをしたら撃たれる。お前がじゃなく、このふたりが、だ。いいな?」


 「……! わ、わかった……感謝する」


 オートスが銃の仕様を確認する中、


 「(さて……手持ちはこれで全部出し切った。ダメージはある。だが、これで倒せるといいけどな……)」


 恐ろしい重火器をすべて出し終えたカイルは目を細め、ボロボロになりつつあるドラゴンを見ながら胸中で呟く。 相手は伝説級レジェンド。このまま終わるとは思えないと――

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