いつも通りの放課後?[2/3]


 亀池南高校には西門と東門、そして正門があります。西門は特徴のないただの門であり、東門は坂が急であることと、体育館から声が聞こえること以外特筆することがなく、正門はそれに比べるといくつかの特徴があります。

 まずその広さ。正門というからには、それなりの交通量に耐える能力が求められるらしく、幅がかなり広くなっています。横には車椅子でも通れるようにスロープがついており、高校のバリアフリー化にも一役買っているようです。

 そしてその見た目。正門を通して見ると、亀池南高校の校舎は古さを感じさせず、比較的新しく見えます。その角度からはオンボロな渡り廊下や、何度も改修され、その度に不気味なオブジェクトのようになっている北校舎が見えないのです。そのような理由で、亀池南高校のパンフレットはここから写真が撮られていて、毎年のように受験生を騙し続けているのです。綺麗な校舎だと思ったのに! と。

 実際に足を運んで調べることの重要性を、正門は身をもって訴えているのです。

 私たちがよく使う亀池図書館はそんな正門を抜けた先の、歩いて十分くらいのところにあります。ちなみにみゆきちゃんの家はそのまた先で、ここからは歩いて十五分くらいです。電車通学の私からすると、徒歩十五分で登校できるなんて羨ましい限りです。  

 正門を出ると目の前に信号があり、それを渡ると県内有数の公園である亀池公園が見えます。ここは桜の名所としても知られ、春には多くの花見客で賑わいます。日本庭園のようなところもあれば、西洋風の花壇もあったり、池があったり大きな遊具があったりするので、小さな子からお年寄りの方まで多くの人に人気のある公園です。この公園に隣接する形で、亀池図書館があるのです。

 夕暮れ時、と言うにはいささか早い時間です。あたりには学生の他に散歩中の老夫婦や、幼稚園帰りの園児とそのお母さんがいます。作業服を着た市役所の職員さんは、設備の点検でもしているのでしょう。時々自転車に乗ったおじさんにもすれ違います。皆それぞれ様々なことを考えたり、考えなかったりしながら歩いているのでしょう。この時間に、この公園で。私たちは偶然居合わせているのですが、意識して考えないとそのことにすら気がつきません。わざわざ気に留めることではないのかもしれませんし、気がついたところで何かがあるわけではないですが、私たちと同じように、他の人の人生も同時進行的に進んでいることを忘れてはいけないと思いました。

 我ながら深いですねえ。ではなぜこんなことを考えているかと言うと。

 今私の隣にいるみゆきちゃんが考えるモードに入っているのです。私と一緒に帰るときでも、みゆきちゃんは時々難しそうな顔で難しいことを考えます。どんなことなのか私にも想像がつくこともあれば、全く予想できないこともあります。考えたことをすぐ話してくれるときもあれば、話してくれないときもあります。私は彼女が考えるモードに入った時は邪魔をしないように、静かに隣を歩くことにしています。さすがに足音までは消せませんが。

 今日の風は優しく髪を揺らします。陽の光は少し傾いていますが、暖かさを変わらず届けてくれます。見上げれば目に優しい色をした木の葉があり、綺麗な空の色も見えます。鳥のさえずり、子供達の遊び声が聞こえます。遠くには時計と噴水が見え、近くには大好きなみゆきちゃんがいます。

 私は今、とても幸せなのだと思います。何気ない日常にみゆきちゃんがいて、隣を一緒に歩いてくれることが、私の何よりの幸せなのです。私はその感情を口の中で飴玉を転がすみたいに、じっくりと味わいます。いつまでも続くよう、願いながら。

 そのとき、彼女と目が合いました。みゆきちゃんも目が合うとは思わなかったらしく、一瞬驚いた顔をして前を向きました。考え事はもう終わったのでしょうか。

「こだま、歩くペースは大丈夫?」

 前を向いたまま、ぽつりと彼女は言いました。

「うん、大丈夫だけど」

「そう」

 よくわからない質問です。気を使ってくれるのはありがたいのですが、ここまでずっと隣で歩いてきたのに、ここにきてそれを聞くのはよくわかりません。みゆきちゃんは難しいことを考えすぎて、疲れてしまったのかもしれません。

「人、あまりいないわね」

 私たちの目指すベンチは、入り組んだところにあるので、途中から人通りの少ない道を通ることになります。私は「そうだね」と答えました。これもまた意図がつかめない発言でした。よく見るとみゆきちゃんの顔は少し赤くなっています。

「手とか、寒くない?」

 ……なるほど。私はそれでわかりました。彼女はなかなか回りくどいことをしようとしているようです。さて、どうしたものでしょうか。

「まだ九月だし、手袋をするほど寒くはないよ。でも、そうだなあ。右手か左手に、丁度いい温かさがあればいいかもね。ちょっとした温もり、みたいな」

「そうなの。じゃあ丁度いい方法があるわ」

 みゆきちゃんは嬉しそうに左手を差し出します。

「手、繋ぐのとかどう?」

「いいね」

「……こだま、ほんとは嫌じゃない?」

「嫌じゃない。全然、全く、これっぽっちも嫌じゃない。今とっても繋ぎたい気分だった。どうせなら教室出たところから繋いでいたかったくらい。今まで繋がなかった時間が勿体無いよ」

 私が早口でそう言うと「ふふ、ありがとう」と言ってみゆきちゃんはそっと私の右手を取りました。ちょっとした温もりが身体中に広がります。公園の景色が違って見えます。

「みゆきちゃんの手、細くて綺麗だよね。ピアノとかやってた?」

 私はそう言いながら繋がれた手を見ました。彼女の手は細く白く、少しひんやりとしていました。その後、私は彼女の方を見ました。

「ええ。中学に上がるまでやってたわ。今でもたまに弾く。ピアノを弾いてる時は悩みとか、そういう余計なことは考えなくていいから、気晴らしになるの」

 みゆきちゃんは前を向いたまま、いつもの凛々しい横顔で言いました。私は彼女ほど頭が良くなると悩むことも増えるのだろうかと思いました。嫌なことが目につきやすくなるのだろうかと思いました。でも私には私のことしかわかりません。

「今度、聴かせてね。みゆきちゃんがピアノ弾くの」

「もちろんよ。でも期待しすぎないでね。なんとなく弾けるってだけだから」

「うん。それでもいい。みゆきちゃんが弾いてるのが聴きたい」

 それから彼女は黙って頷いて、また何か考え事を始めました。さっきより少しだけ歩くペースが早くなって、私は軽く引っ張られる形になって、歩幅を調節して彼女に合わせます。

 細い道を抜けると、いつもの広場に着きました。広場といってもそれほど広いわけではなく、紺色のベンチが一つあるだけです。ベンチの上にはその下を包み込むかのように木の枝が伸びていて、夏の暑い日でも日陰を作ってくれます。ここに来るのは結構大変で、途中にひねった道があるので、一度来ただけでは場所を覚えられません。私も何度かみゆきちゃんに連れられて、やっと覚えることができたのでした。

 だから私たち以外にこの場所に来る人は滅多にいません。知る人ぞ知る、という感じでしょうか。みゆきちゃんは小学生の時、図書館で勉強しているときに静かに休憩できる場所を探して、この場所を見つけたのだそうです。

「こだまとここに来るのは、『あの日』以来初めてかしら」

 みゆきちゃんは振り向いて言いました。

「そう、だね。記念すべき場所だね」

 少し緊張します。

 ここは私がみゆきちゃんに告白された場所でもあるのです。その日のことを思い出したら私はいつでもドキドキすることができます。ドキドキしたくなったときに便利です。でも今はどちらかと言うと、ドキドキしなくなる方法を知りたいものです。

 みゆきちゃんは手を離し鞄をベンチの脇に置き、腰を下ろしました。私もリュックサックを下ろし、彼女の隣に座ります。

「こだま、喉乾いてない?」

 みゆきちゃんが鞄から水筒を取り出して言いました。

「うん。あ、でも自分のあるからいいや、ありがと」

 みゆきちゃんはそう、と言ってお茶を一口飲みました。私もお茶を飲んで一息つきます。

 静かな時間です。まだ暖かいですが、冬の日の朝のような静けさがあります。

 そしてその静けさは、今まで彼女と一緒にいた時の静けさとは、また違うものでした。

 まだ私にとって新しい、今まで感じたことのなかった静けさ。

 私は一方では落ち着いてこの静けさを受け入れることができていますが、他方ではこの静けさに、正直言って少し、困惑しています。彼女のことは大好きですが、恋人同士になることは、考えたこともなかったのです。

 また風が吹いています。その風が静まった時、みゆきちゃんが話し始めました。

「由美さんと佳菜子さんの話なんだけど」

 落ち着いた、聞いているだけでうっとりする声です。「うん」と私は返事をしました。

「さっきからずっとね、私たちのことを二人に話すかどうか、私なりに考えていたの。でもこれはとても難しい問題で、一人で考えて答えが出るものではない、二人でちゃんと話し合って、お互いが納得する必要がある。そう思ったの。だからひとまず今の私の意見を聞いてほしいのだけど、いいかしら」

「うん。私もみゆきちゃんの意見を聞きたい」と私は答えます。

 ありがとう、とみゆきちゃんは言い、真剣な表情で私を見つめました。

「確かに、こだまの言う通り私たちがこうしてお付き合いができているのは、二人のおかげであるところが多いと思う。それに、もしこのことを話したとしても、彼女たちは誠実に対応してくれるとも思う。私も二人のことを信頼しているし、その点に異論はないの」

 みゆきちゃんはここで少し間を取りました。

「でもね、なんと言えばいいのかしら。ただ伝えればいいというわけではないと思うの。あえて隠しておいた方が円滑に進むことがある、というか。例えばね、今日の朝の話だと、こだまは私の料理の味をどこで知ったのかについて聞かれたときに、その経緯を話そうとしたわよね」

 私は朝の会話を思い出しました。確かその時はみゆきちゃんが二人に好きな料理を聞いて、話をそらしたのでした。

「うん、したね」

「それ自体にはもちろん問題はないわ。雨が降って、電車が止まって、『友達』である私の家に泊まったときに、料理を食べたと言えばいいのだから。でもね、こだま、それが後になって私が単にあなたの『友達』ではなくて、『恋人』であるとわかったとしたら、話がまったく変わってしまうのよ。『恋人の家に泊まった』。たったそれだけの情報で、決してそういう事実がなかったとしても、今までなかったはずの疑念が生まれることになってしまう。……言ってることはわかる?」

「うん……なんとなく」

 私は一応自分の言葉で整理しようと思いました。

「つまり『恋人』という情報が加わることで、何気ない会話が、本来関係ないはずのデリケートな部分に通じてしまう危険性があるってこと?」

「そうね、こだまは話が早くて助かるわ。たまにトンチンカンなことを言うけれど」

「みゆきちゃんもたまに一言余計なことを言うよね」

 彼女はクスクス笑いました。

「話を戻すと、私はそうした疑念は私たちにとってはもちろん、二人との関係にもあまり好ましくない影響を与えると思うの。こだま風に言うと悪いエフェクトが私たちにアフェクトする、という感じかしら。まあそれはいいわ、とにかくそうなると、私たちは何気ない会話にも神経質にならないといけないし、二人も変に私たちに気を使うようになって、今まで通りに気軽に話せなくなってしまうかもしれない。そして四人の関係はとてもギクシャクとしたものになってしまうかもしれない。それだったら最初から私たちはただの友達ということにしておいた方が、お互いのためにもいいんじゃないかと思うの」

 お互いのため。

 みゆきちゃんの言っていることはわかります。ですが、私には考える時間が必要でした。どこか、引っかかるところがあるのです。みゆきちゃんは私の様子を窺ってから、遠くの空を見つめます。私はちょっとずつ、糸のほつれをほどくように、引っ掛かりをなくすために言葉を探します。

「なんて言うんだろう。でもさ、それだったら、もし二人が何らかの形で私たちのことを知ったときに、私たちには話してくれなかった、あの二人には信頼されてないのかもしれないって思わないかな。それはちょっと悲しいよね」

「私たちが付き合っていることを、二人が知った時の話?」

「うん」

 みゆきちゃんは少し考えてから言いました。

「ええ、その可能性は否定できないわ。確かに、悲しいことかもしれない。でもね、こだま。由美さんと佳菜子さんならきっと、事情を話せばわかってくれると思うわ」

「それは、そうかもしれないけど……」

 彼女としては秘密主義を貫きたいようです。私はまだ、なんとなく、飲み込めません。

「でも、二人が知っていたら、私たちがまたこの前みたいにすれ違ったときに、気づいてもらえるかもしれないよ」

 みゆきちゃんは唇を噛んでから言いました。

「こだまは二人を利用しようとしているの?」

「ちっ、違うよ。そんなつもりじゃない。私はただ……」

「そんなに『二人だけ』は脆いものだと思うの?」

 彼女は顔を少し赤くして言いました。

「確かに私たちはすれ違った。それはこだまにとってとてもつらい時間だった。私にとってもある程度苦しい時間だったかもしれない。それでも、最終的には、私たちは元に戻ったし、それ以上の存在にもなれたじゃない。またすれ違ってしまうのが怖いのはわかる。痛いほどわかるわ。でも私は同時に、私たちならすれ違ってもまた元に戻れると思う。ちゃんと話し合えば分かり合えると思う。時間をかければ、絶対に」

 私はみゆきちゃんの顔を見て言葉を失いました。言おうとしたことが空中で溶けてしまったような感じがします。

「みゆきちゃんは、すごいね」

 頬の力が抜けました。

「みゆきちゃんは一人でもちゃんと考えられるんだね。一人で悩むことがあっても、それを悩み通せるんだね。……私にはそれができないかもしれない」

「……そんなことないわよ」

「私ね、本当はみゆきちゃんは悩みを聞いてくれる人を待ってるんじゃないかって思ってたの。私みたいに、一人で抱えきれなかったら相談できる人を求めているんじゃないかって思ってた。でもそれは余計なお世話だったのかもね。みゆきちゃんは一人でも考えられる人だから。私とは違って、最後まで悩むことができる人だから」

「こだま」

 唇が震えました。でも私は泣いてはいけません。泣くことは解決にはならないのです。

 みゆきちゃんは私をぎゅっと抱きしめました。

「違うわ、こだま。……このことはじっくり考えましょう。すぐに答えを出す必要はないし、焦る必要もないのよ。二人で納得できるまで、じっくり話し合えばいい。……確かに私たちは悩む時は内にこもるというか、一人で抱え込む傾向があるから、外に相談できる人がいる方がいいのかもしれないわ。その方が余計なことで悩む必要がなくなるかもしれない。そのことは今日こだまに言われて初めて気づいたのよ。だからこだまはちゃんと考えられる。私が思いもよらなかったことを教えてくれる。いつだってね」

 みゆきちゃんの体温が身体中に染み渡ります。彼女の確かな温もりが身体中に広がります。それは何よりも暖かいのです。そしてみゆきちゃんは私の髪を優しく撫でて、顔をゆっくり近づけました。

「……私もね、本当は繰り返すことが怖いのよ。こんなに慎重に考えているのも、また『噂』が広がってあなたを傷つけることが怖いからなの。これも余計なお世話かもしれないわね。……でもそうせざるを得なかった」

「みゆきちゃん、そんなことまで考えて……」

 彼女は微笑みました。

「好きよ、こだま。愛してる」

 

 私の中学時代はあまり人に話せるものではありません。高校でそれを知っているのはみゆきちゃんしかいません。私は亀池駅から四つ目の金川駅から学校に通っているので、中学からの知り合いはいないのです。

 きっかけは中学二年生の時の体育大会の後のことでした。私はクラスの男の子の一人に呼び出されて、人生で初めての告白を受けたのです。初めてのことで、どうすればいいのかわからなかったので、私は返事を後回しにしてもらって友達に相談しました。その子は中学になってからできた友達で、内気で友達の少なかった私にとっては大切な存在でした。私が相談したいことがあると言ったら彼女ははじめは真剣に聞いてくれたのですが、その内容が恋愛相談だとわかると途端に面白がって、熱心に状況についての説明を求めたり、大げさなリアクションをとったりしました。

 私はこの時嫌な予感がする、と漠然と思ったのをよく覚えています。

 実際それは正解でした。彼女は私が告白を受けたことを友達に話し、その『噂』は尾ひれをつけてクラスの女子全員に広がっていきました。さらに悪いことに、その中に私に告白をした男の子のことが好きだった人がいました。彼女はクラスの中心人物であり、発言権がある人でした。素行不良で先生に叱られても悪びれることなく笑っていられるような人でした。私は彼女の名前を一生忘れられないでしょう。忘れたくても忘れられないのでしょう。

 はじめは些細ないたずらから始まりました。私と普段話さなかった彼女とその友達は私の近くにいることが多くなりました。そしてちょっとした嫌がらせをするようになりました。他の女子には話しかけても無視されるようになりました。私の友達は「こんなことになるとは思わなかった。ごめん」とだけ言って私から離れていきました。私はクラスの中で完全に孤立し、嫌がらせはエスカレートしていきました。

 今でも時々、ふとした時にその様子がありありと頭の中に浮かび上がります。

 まるで呪いのように。

 私は結局中学二年生の三学期は、ほとんど学校に行けませんでした。

 

 泣いてはいけないと思いながらも私は泣いてしまいました。私はみゆきちゃんに抱きしめられると弱くなってしまうようです。彼女は時々髪を撫で、肩をさすり、私が泣き止むまで抱きしめてくれました。

 泣きながら、私は不思議と冷静に物事を考えていました。以前の私はみゆきちゃんのようになろうと努力していたことを思い出しました。彼女のようにはっきりと自分の意見を持ち、堂々としていて、孤独を恐れない精神力があれば、中学の時のようなことは起こらなかったのではないかと考えていました。でも、私はみゆきちゃんのようにはなれませんでした。結局自分は自分でしかいられないとなんとなく気づいたとき、静かな絶望がありました。私という人間の中身の軽薄さ、未熟さ、幼稚さ。それは孤独と向き合っていた時期に嫌というほど気づかされたことでした。そして今は、恋人となり距離が近くなったみゆきちゃんに、それを看破されることを恐れています。聡明な彼女に呆れられ、捨てられることに怯えています。



 私は彼女という精神的支えがなければ、生きられない。なのに、付き合ってしまった。恋にはいつか終わりが来ることを知りながら。



「ごめんね、私すぐ泣いちゃって」

 みゆきちゃんは手を緩めて微笑みました。

「いいのよ。泣いてるこだまも可愛いし」

「なっ。……それ今言う?」

「いつだって言うわよ」

 みゆきちゃんはそう言って笑って立ち上がりました。

「じゃあ私はそろそろ図書館に行くから。こだまもこっちから帰りましょう」

「ま、待って」

 私も立ち上がって彼女に対峙します。

「あの、えっと」

 たぶん言うより早い方法があります。

 私はそのままみゆきちゃんを抱きしめました。

「私も好きだから。大好きだから」

 みゆきちゃんが小さな声で「ありがとう」と言うのを聞いてから、彼女の顔を見ました。彼女の顔は、相当赤くなっていて、プルプルと、今にも震えだしそうです。腕からは、彼女の体温を感じます。鼓動の音も、聞こえるかもしれません。私の心臓も早くなります。私はそっと顔を寄せ、唇を重ねました。

 近くの木から、何羽かの鳥が飛び立っていく音が聞こえました。

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