第24話
週明けの今日は少し、遅くなった。
朝の時間というものは、十分違うだけでかなり景色が変わるようだ。すれ違う人も、通る車の数も、気温も、いつもとちょっとずつ違っていて、世界がずれたような感じがした。
遅れたといっても遅刻するほどではないので、このいつもと違う変化に触れながら、普段通りのペースで学校に向かった。
正門をくぐり、ふと時計に目をやると、八時十分だった。授業は八時三十分に始まるので、八時十五分には登校するように指示されている。いつもは八時にはついているから、今日は十分遅れの到着だ。
昇降口でスリッパに履き替えていた時。
「あ、みゆきちゃん」
声をかけられた。入口の方に目を向けると、こだまが驚いた顔でこちらを見ていた。
ずれた世界は彼女に会うためのものだったのかと思った。
ひょこひょことこちらにやって来るこだま。
そして金曜日のことはなかったかのような、柔らかな声で言う。
「みゆきちゃん、この時間に来るって珍しいね。いつも私が教室に入るときにはもう座ってるし」
「そうね、今日はちょっと寝坊しちゃって」
頑張ればいつもの時間に来れたかもしれないが、今日はそんな気にはなれなかった。
「へえ、みゆきちゃんでもそういうことあるんだね」
こだまはなぜだか嬉しそうに笑った。
「こだまはいつもこの時間なのね」
八時十分。下手したら遅刻しそうな時間だ。
でも、言ってから気がついた。
「うん。私、電車通学だから、この時間になっちゃうの。もう一本早くしてもいいけど、朝は限界までゆっくりしたいし」
そう。彼女は三駅かけて通学している。電車を逃すと十分か十五分くらい待たなければならないので、ゆっくりするにも限界があるのだろう。
――そんな当たり前なことを。
今日は冴えてない。
「そうだったわね。……こだまは、いつも電車に乗ってる時は何をしているの?」
気を取り直すように聞いてみた。痴漢とかにあっていたら……怖いな。
「えっと、本当は本とか読みたいんだけど、酔っちゃうから、ぼーっとしながら外の景色とか見てるかな」
「毎日同じ景色だったら飽きない?」
「ううん、意外と。ちょっとした発見があったりするから、楽しいよ。あと、小さい子が踏切で手を振ってくれるのを見るのも好き」
――ちょっとした発見か。
さっきの私も同じことを考えていた。
「こだまは手を振り返さないの? ほら、いつもやってるみたいに」
帰り際のこだまの真似をしてみせた。
「うう。でもちょっとそれ、恥ずかしいよね」
小さい子供好きのこだまの可愛い葛藤といったところか。
それにしても。
この時間に来れば、登校でも毎日こだまと話せる。今までどうして気付かなかったんだろう。完全に盲点だった。明日から時間をずらして来よう、と思いながら教室のドアを開けると、いつもと違う、人の多さがちょっと嫌になった。
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