第18話
次の日は、テスト一週間前で部活が休みとなった西尾さんと東野さんも一緒に勉強をすることになった。自主練よりも「赤点ギリギリ女」の汚名を返上したかったらしく、昼休み、お弁当を食べている時に彼女たちの参加も決定した。
こだまと二人っきりの方が良かったけど、仕方がない。いや、むしろ昨日みたいに余計なことを考えなくてもいいように、二人が来てくれた方がいい。なんとなく、二人が会話に加わると明るくなる、というか、細かいことを気にしなくてもいいかなっていう気持ちになれる。
思考停止。
考えてもわからない時はわからないし。だったら考えるのをやめる時間も必要だ。
なんて、ちょっと成長したかもな。私。
そう思った。
亀池図書館には集団学習スペースというところがあって、手続きをすれば利用できる。テスト週間だし混んでいるかと思ったが、手続きが少し煩わしいためか、意外と空いていた。こだまと二人で来ても隣で座れなかったかもしれないし、ここでも二人に感謝した。
西尾さんと東野さんの学力の状況は、思ったよりも深刻だった。授業中に寝ていることが多いためか、知識が断片的で、繋がらない。まずは二人には教科書を通読してもらって、わからないところはこだまに聞いてもらうことにした。
だが、二人は意外と理解が早かった。それに、集中力もすごかった。普段部活に使っているエネルギーを勉強に向けることで、最初の数日で教科書の基本問題はあらかた解けるようになった。元から残りの二割は捨てる予定だったらしく、他の教科の勉強に時間を割いた。なんというか、要領がいい。帰り際に西尾さんが「うちらはやればできるんだよ」と鼻を鳴らしているのも納得だった。
そして、テストを終え。
テストの結果は、夏休み直前に発表された。
放課後になるとこだまは嬉しそうに私の席にやって来た。
「見て見て。四十九位。都道府県の数と一緒」
いつも平均の少し上にいる彼女にとっては、嬉しい数字のようだった。
「都道府県の数は四十七でしょう」
「え……そうだったっけ…。互いに素だから、紛らわしいね」
「言い訳になってないわよ」
こだまはおかしそうに微笑んだ。
「みゆきちゃんは?」
「五位」
「すごい」
理系科目だけなら一位だった。いつもの通り文系科目が足を引っ張った。特に国語。
でも、前回よりはいい。定期テストにはあまり力を入れてこなかったから、こだまと勉強できて良かった。
「うっす、みゆき先生にこだま先生。いやいやおかげさまで」
「久々に平均点超えたわ。サンキュー」
西尾さんは東野さんを押しながら忙しそうに部活に向かった。
「『赤点ギリギリ女』は免除かな」
「だといいわね」
蝉が、鳴いていた。
もうすぐ夏休み。
成績の上がった、このタイミングで言うのはちょっとずるい気もする。
だけど。
「こだま。私、夏休みから受験勉強始めるんだけど、一緒にどう?もちろん、毎日とは…」
「いいの?」
目を輝かせて言う。そんなに嬉しそうに言ってくれたら照れくさい。
「あ、でも電車代とかあるわね」
「それはたぶん大丈夫。交渉の材料は揃っているのです」
と言いながらテストの個票をひらひらさせる。
「この成績表を見せたら、電車代出してくれるよ。でも私、もっと頭よくなっちゃったらどうしよう」
「変な心配ね」
頬が緩んだ。
帰る準備をしながら、この前のこだまの言葉が頭をよぎる。
――私も、みゆきちゃんみたいになれるかな。
「だけど、こだまは、こだまよ」
そう言って、立ち上がると、彼女は嬉しそうに、こくんと頷いた。
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