81、コタツがあるって聞きましたので


「おこたでお鍋がやりたい!」


 とある日の休日、二葉先輩は早朝から俺のことをゆり起こすと、はしゃいだ声で言った。


「こたつ! こたつ!」


「な、何ですか、やぶから棒に」


「この前、お姉さんと電話してたらね。どうもナルくんの家には、こたつがあるらしいじゃないですか」


「あぁ、ありますね」


「出そう! 冬といえば、鍋とこたつとミカンをしたい!」


 俺の布団をひっぺがえして、先輩は無理やり俺を起こさせた。寒い。


「ブルブル」


「昨日からずっと考えてたの」


「そ、そうですか」


「寒そうだね」 


「寒いです。もうちょっと寝てても良いですか」


「だめー」


 二葉先輩が俺にのしかかってくる。そのまま背中に手を回して、彼女は抱きついてきた。


「ぎゅー」


 あったかい。


 ポカポカして柔らかい。


 顔を上げた彼女は、ニコニコと笑っていた。


「やる気になった?」 


「がぜん」


 目が覚めた。

 ようし、何でもできるぞ。


「こたつは……確かこの辺に」


 姉の部屋のクローゼットをあさる。

 こたつと言っても、そんなに大きいやつではなく、姉が一人で使っている小さなものだ。


 とっ散らかっているクローゼットから、こたつを救出する。花柄の布団がついていて、ちょっとほこりかぶっている。


「これです」


「わぁ、可愛いね」


「こっちの布団はコインランドリーに出しちゃいましょう」


「良いね。ついでに買い物行く?」


「ですね。鍋だったら、肉とみかんも買っときましょうか」


「うんうん!」


 先輩がグッとガッツポーズをする。


「さいこーだね!」


「あ……そういえば」


 お鍋と聞いて、ふと思い出した。以前、スーパーに買いものに行ったとき、二葉先輩が特上の肉に吸い寄せられて行ったこと。


 今日なら肌寒いし、ちょうど良いかもしれない。


「せっかくだから、すき焼きにしましょうか」


「すき焼き……」


「高い肉で」


「ほ、本当?」


「はい、和牛を買い込んで、おこたですき焼きをやりましょう。軍資金も振り込まれましたし。たまの贅沢ぜいたくです」


「やったー!」


 先輩がピョンピョンと飛び跳ねて、小おどりした。


 良い休日になりそうだ。


 この時の俺は、まさか自分が彼女にみつかれる事になるとは、思ってもいなかった。

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