71、心中じゃないって


 コテージに帰って、あったかいシャワーを浴びたらドッと疲れが押し寄せきた。

 

「ナルくん、おやすみー……」


 二葉先輩も大きなあくびをしながら、剥不はがれずさんに引っ張られていった。

 

 俺も大人しく寝ることにした。


「いや、マジで死んだのかと思ったわ」


 隣のベッドに寝転んだ鷺ノ宮は、横になるなり大きなため息をついた。


「森の方に消えていなくなったと思ったら、急にザブンだぜ。部長なんか「南無三なむさん」とか念仏唱え始めるし、勘弁してくれよ」


「ごめんな」


「……なんであんなことしたんだよ」


「頭を……冷やそうと思って」


「なんだよそれ。わざわざあんな汚い池に飛び込むなんて、どうかしてるわ」


「グゥの音も出ない」


 一通り文句を言った鷺ノ宮は、フッと息を吐くと、感慨深げにつぶやいた。


「今更だけど、鐘白ってなんか印象と違うな」


「そうか?」


「そりゃそうよ。もっとこう人を寄せ付けない感じがしてた」


「いやぁ、俺は普通のボッチだけど」


「普通だったら、汚ない池に飛びこまないんだよなぁ」


 冗談っぽく笑いながら、鷺ノ宮は言った。


「こっちの寿命が縮まった」


「……俺から言わせれば、鷺ノ宮こそ印象違うけどな」


「え、どこが?」


「こんな変な部活に入っているとは思わなかった。もっと、日の当たる場所ところで、大勢とキャッキャッしてる存在かと思った」


「その言い方、トゲがあるな……」


「ボッチのひがみだよ」


「……でもまぁ、それこそ印象の通りだぜ。俺、友達多いし」


 鷺ノ宮はあっさりと言った。


「クラスの奴らとも普通に仲良いし。おかか研以外に二つ兼部している、付き合いで。……疲れるけどな」


「疲れる?」


「疲れるよ、マジで」


 彼はハァと深いため息をついた。


「大概5人以上集まるとくだらない話しかしないんだ。陰口とか文句とか、不平不満とか。どこでも一緒だ。マジでどうでも良いし、時間の無駄だ」


「聞いてるだけで疲れそう」


「だろ? でもおかか研にいると、なんかどうでも良くなるんだ。剥不部長はすごい自由だから」


「自由というより、頭のネジが……」


「そうそう。俺は部長みたいにはなれないけれど、あぁいう生き方に憧れている」


「なれば良いのに」


「ん?」


「捨てて。ボッチになれば。疲れることもないのに」


 鷺ノ宮は少し黙ったあと、言った。


「楽だろうな。でも俺が思うにボッチにも適正があると思うんだ。つまり俺は無理だ」


「ボッチに適正なんてあるのかな」


「あるある。人の目気になるし。良いこと3割、悪いこと7割で十分。俺もこの場所があって、どうにかやって来ている」


「なんか色々考え過ぎな気もするけど」


「だから、どっかでタガを外さないとやっていけないんだよ」


 どこか吹っ切れたような口調で、彼は言った。


「鷺ノ宮、生きるの大変そうだな」


「お互いさまだよ」


「お互いさまかぁ」


 なんか安心する言葉だ。

 とりあえず俺が鷺ノ宮みたいになることはできないのは、確かなことな気がする。


「て言うかさ」


「ん」


「お前、もうボッチじゃねーだろ。散々俺たちの前でイチャイチャしてるし。同居までしてるし」


「……はい」


「こんな時に言うのもなんだけど、うらやまし……」


 背中に嫉妬しっとの視線を感じながら、眠りについた。

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