47、二葉ちゃんは七並べがやりたいっ!
「へー、じゃあ本当に、私消えていたんだ」
二葉先輩はあまり納得いかないと言った感じで、ペットボトルのお茶を飲んだ。
「全然気がつかなかった」
「消失した当人に、自覚はなし……と」
剥不さんがノートに、何やらメモを書いていく。
「時間の感覚は?」
「うーん、あんまし。でも大体3分くらい?」
「5分と30秒。前回はもっと長かった?」
剥不さんが俺の方を振り向く。
「……はい。多分」
「消失時間、発生時間、発生場所、ともにランダム」
剥不さんは首を傾げた。
「規則性がない。電磁波のデータを調べれば、もっと深く分かるかもしれないけど」
「……もう少し詳しくおしえてもらえませんか。その……電磁波」
「興味?」
「興味というか、知らなきゃいけないじゃないですか。正直、頭がおかしくなりそうです」
俺は剥不さんや鷺ノ宮みたいに、冷静にこの状況を見ることはできない。さっきだって、不安で仕方がなかった。
「第一、なんで二葉先輩はそんなに
「う。怒ってる?」
「違くて……理解できないんです。どうして先輩が消えるのか。どうして先輩『だけ』が消えるのか」
「でも5分くらいなら……トイレ行くくらいの時間だし……」
「もし大事な試験の時に、消えたらどうするんですか」
「それはやだなぁ」
先輩は腕を組んで、うーんとうなった。
俺が言いたかったのは、それだけではない。
もし、さっき剥不さんが言ったように、二葉先輩が消えたまま二度と現れなかったら。
考えるだけで、恐ろしい。
そんな可能性、万にひとつでも残してはおけない。
「あの、剥不さん。電磁波とやらの影響は、これからも続くんですか」
「天体の位置関係からいくと、電磁波の影響は今がピーク。恒星Nは冬にかけて、ゆっくりと離れていく。年明けくらいには電磁波の影響はほとんどなくなる、はず」
「そうか……とりあえず良かった」
胸をなでおろす。
二葉先輩もにっこり笑って、お茶をコクリと飲み干した。
「逆に言えば、我々の実験は今からが正念場。今後も、協力して欲しい」
「……そうですね。助けてもらっちゃたし。二葉先輩もそれで良いですか」
「うん、もちろん」
「感謝」
剥不さんがニンマリと笑った。
「じゃあ、これで観察は終わりってことで……」
鷺ノ宮があくびをしながら、ゆっくりと立ち上がる。
俺も続いて、立ち上がろうとすると、シャッシャッとトランプをシャッフルする先輩と目が合ってしまった。
「先輩?」
「……七並べ」
「寝ないんですか」
「七並べ……」
よほどやりたかったらしい。
そんな子ウサギみたいな目で見られると、
「一回だけですよ」
「おっしゃ」
トランプの前に、全員が座り直す。
それが悪夢の始まりだった。
「あがりです。二葉先輩の負けですね」
「……もう一回やろ!」
「えー、これで終わりだって言ったじゃないですか」
「ナルくんだって、最初に自分が負けた時、もう一回って言ったじゃん」
「う……」
二葉先輩の言葉に、剥不さんも同調する。
「私も、納得いかない。もう一回」
「だってさ!」
「分かりました……あと一回だけですからね」
「終わるんですかね、これ」
「鷺ノ宮くんの番だよ!」
「はいはい」
「終わるんでしょうか、これ」
「ナルくんの番!」
「はいはい」
結局、朝になるまで七並べしていた。
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