39、ノーブラパジャマでこうげきりょくアップ



 ソファに座りなおして、お茶を飲みながら、先輩は俺のスマホとにらめっこしていた。


「それにしても残念だ。せっかく写真を撮ったのに」


「そうですね。男一人がにやけてる画像に、価値なんてないです」


「火であぶったら浮かび上がってこないかな?」


「みかん汁じゃないんですから」


 ちえっと口をとがらせた彼女は、ゴロンとソファに寝転んだ。髪を乾かし終わると、彼女はタオルを首に巻いていた。


「これから、どうしましょうか?」


「家の問題? それとも私が消える問題?」


「どっちもです」


「うーん。そうだなぁ」


 天井を見ながら、彼女が身体を傾ける。それに合わせて、二葉先輩の身体のラインが、ゆったりと動いた。


「私が消える問題は、多分、おかか研に相談するのが良いんじゃない? 何か知ってそうな感じだったし」


「もう起こらないのが一番なんですが。心臓に悪い」


「あはは。そうだね。びっくりするよね」


「もう消えて出てこなかったらどうしようとか……」


 まさしく、風呂場でよぎったのはそんな考えだった。


 煙のように消えるなんて。今、思い出しただけでもゾッとする。


「まー、出てきたんだし。良いんじゃない?」


「そんな悠長ゆうちょうな……」


「それよりかさ、家はどうしよっか。そっちの方が問題だよ」


 先輩はぴょんと起き上がって、言った。


 また、彼女の身体が動く。胸の辺りのクマさんがぷるんと跳ねるのが、見えてしまった。


「私としては、お兄ちゃんが帰ってくるまで、待つ以外に方法がないの」


「……そしたら、帰ってくるまで、俺の家に泊まってください。家族はしばらく帰ってこないんで。気軽に過ごしていて良いですよ」


「本当? 良いの!?」


 先輩は嬉しそうに飛び跳ねた。


 おかしい。

 なんで、こんなにおっぱいが揺れるんだ。


「ありがとー! 家事とか手伝うから。見捨てないでねー!」


「……み、見捨てませんよ」


「ん、どうしたの? なんか顔色悪いよ」


「いや……」


 怪訝けげんそうな顔で、先輩が眉を下げる。


 そして何かに気がつくと、


「あっ」


 先輩はパッと後ずさりした。 


 自分の胸のあたりを手で隠していた。


「……気づいた?」


 先輩はぼそりと言った。


「気がついたでしょ」


「な、何をですか」


「今、ブラしてないの」


「ぶっ」


 口からお茶を吹き出す。


「ど、どうして……」


「お姉さんの下着借りるわけに、いかないし。ちょっとサイズも合わないし……」


 確かに姉は貧乳だ。


「乾かないから、干してるの。だから下着がなくて、し、仕方なく……!」


 慌てたように彼女は声をあげた。


 理解したクマ。

 つまり、先輩はノーブラだ。


 頭の中で、何かがプッツンと切れる。


「あっ」


 真っ赤な液体がポタポタと、床にれていく。


「……鼻血」


 抑えることができない。

 先輩はその光景を、じっと見ていた。


「……ナルくん」


「ふ、不可抗力です」


「……えっち」


 胸の辺りを隠して先輩は、ガタンと立ち上がった。


「だ、だめだったら、だめなんだー!」


 大きな声で叫ぶと、パタンと寝室の扉を閉めて行ってしまった。


 動く胸の残像が消えてくれない。

 頭がクラクラしてきた。


 ノーブラパジャマとか、刺激が強すぎる。


 鼻にティッシュを詰めて、大人しく自分の布団についたが、興奮してほとんど眠ることはできなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る