24、帰ろー!



 放課後、部活に向かう人の波とは反対に、俺は校門へと歩いていた。帰宅部なので、どこにも寄ることなく、当然直帰だ。


 一年の頃は、部活に入っていたこともあったが、すぐにやめてしまった。つまり友達の一人もできなかった。


 いつもなら、帰るまで誰とも会わない。


 今日は違かった。


 校門を出ようとした俺の前に、


「わっ」


 と待ってましたとばかりに、人影が飛び出してきた。


「……二葉先輩」


 楽しそうな笑みを浮かべた、彼女がいた。

 二葉先輩は、俺の顔を見ると、残念そうに首をひねった。


「ありゃ……あまりびっくりしなかった?」


「いや」


 そうじゃなくて。

 びっくりし過ぎて、反応できなかった。


 そんな言葉も喉に詰まる。


「ど、どうして、ここに?」


「そろそろ授業終わる頃かなって」


「はい。まさしく」


「わたし、ほら、スマホとか持ってないし」


 先輩はひらひらと手を振った。


「待ち合わせできないじゃん」


「……そう、でした」


「でしょ」


「もっともです」


 うまく頭の切り替えができていない。

 何年も続いてきた日常が、まさかこんな形で変わるだなんて、思いも寄らなかった。


 誰かが、俺を待っていた。

 それだけで身に余る事実だ。お腹いっぱいだ。それが好きな女の子だなんて、ちょ

っと出来すぎている。


「じゃあ、一緒に帰ろっか」


 カバンを持ち直して、先輩が歩き出そうとする。足が踏み出せない。その背中に声をかける。


「せ、先輩」


「何、どうしたの? 顔色悪いけど……お腹痛い?」


「いや、元気。元気なんですが」


「ん?」


 二葉先輩が不思議そうに首をかしげる。


 その顔をジッと見て、自分の気持ちを整理する。


 当然のように、俺の隣にいる彼女に目をやる。


 ポロリと言葉がこぼれ落ちる。


「俺たち、本当に付き合ってるんだな……と」


「え?」


「……ありがとうございます。まさか待っていてくれるなんて……」


 過ぎ去る車が、太陽を反射する。赤い夕日が視界を横切る。

 ポンとハンコでも押したみたいに、二葉先輩の顔が真っ赤になった。


「な……」


 彼女は驚いたように口を開けて、小さな声で言った。


「こ、恋人って一緒に帰るもんじゃないの……?」


「そう……なんですね。良く分かんなくて」


「よ、良く分かんないのに、わたしに告ったの……?」


「は、……まぁ……はい」


 そう言うと、二葉先輩は恥ずかしそうに言った。


「へ、へー。じゃ、じゃあ、一人で帰っちゃっても良いんだね!」


 ぷんと怒ったように言った彼女は、てくてくと先に歩き始めた。けれど、すぐに立ち止まって振り返った。


「……じょ、冗談だってばー……!」


 相変わらず赤い頬の先輩が、振り返って手を振る。ハッと我に返って追いかける。


「やっぱり、一緒に帰ろう」


 彼女が俺の顔を見上げて、言う。その言葉に大きくうなずいて、駅までの道を並んで歩き始めた。



 

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