大人になりたい ⑥
「なんで……?なんでダメなの?好きでなくても同じくらいの歳なら良くて、好きでも歳が離れてたらダメなの?」
ハルがリュウのシャツを握りしめ、体を強く押すようにして一歩詰め寄った。
その拍子にバランスを崩してよろめいたリュウは、ハルに押し倒されたような格好で床に倒れ込んだ。
「いってぇ……。オイ、ハル……」
リュウの体の上でハルが上半身を起こし、顔を上げてリュウの目を悲しげに見つめる。
「好きとも言ってくれない……。一緒にいても、キスもしてくれない……。触れてもくれない……。とーちゃんは大人だから、ハルみたいな子供には本気になんてならないって、わかってる……」
ハルの目から涙がポトリと落ちた。
ハルは溢れた涙で頬を濡らしたまま、リュウの唇に柔らかい唇を重ねた。
「ハルがずっととーちゃんの事を好きだったから、仕方なく一緒にいてくれてるのかも知れないけど……一緒にいられるだけでいいって思ってたはずなのに……そばにいても手が届かないのはつらいの……。この先もずっと届かない気がして……」
「バカ……」
リュウはハルを片手で抱き寄せ、体勢を入れ替えてハルを組み敷き、涙で濡れたハルの頬を指で拭った。
「仕方なくとか本気にならねぇなんて誰が言ったんだよ」
「だって……」
「オレだって……ハルが大人になるの待ちきれなくなって、歳の近い男を好きになって離れてくかもと思うと不安だ。でも……大事にしたいんだ、本気でハルを幸せにしたいから。それでもまだ信じられねぇか?」
ハルは小さく首を横に振った。
「好きなの……。大好き……。ずっと好きだったんだよ……。あとどれだけ待てばいいの……?ハルがどれくらい大人になれば、とーちゃんはハルを本気で好きになってくれるの……?」
リュウは涙声を絞り出すハルの唇を、自分の唇で塞いだ。
「ハル……好きだ。ずっとオレのそばにいろ」
そう言ってリュウは、もう一度唇を重ねた。
唇をついばむように優しく吸って唇を開かせ、舌先をハルの柔らかく湿った舌に絡めた。
生まれて初めて経験する、甘くて優しいリュウの大人のキスに、ハルは目を閉じて精一杯応えた。
長いキスの後、静かに唇を離してリュウが照れ臭そうに呟く。
「ずっと我慢してたのに……」
ハルは手を伸ばしてリュウに抱きついた。
「ねぇとーちゃん……もっとして」
「バカ……。これ以上したら、マジで抑えきれなくなんだろ……。それにそのまんまじゃ風邪ひくし……目のやり場に困る。とりあえず、服着てくれ」
リュウがハルの体から目をそらして手を離すと、ハルは笑って着替えに手を伸ばした。
リュウが向こうを向いている間にパジャマを着たハルが、リュウの体に抱きついた。
「とーちゃんの体で、あっためて」
「……バカ……」
リュウは少し赤い顔でハルを抱き上げて、ベッドにそっと寝かせると、その隣に横になって抱きしめた。
「あっためるだけだからな」
「キスの続きは?」
「今はまだダメ。ハルが大人になるまで、そういう事はしないって姉貴と約束したからな」
「ハルは今がいいのに……」
唇をとがらせて体をすり寄せるハルを、リュウは少し苦笑いしながら抱きしめた。
「もう少し大人になるまで待ってろ。オレも待ってるから」
数日後。
ラジオの出演を終えたユウがタバコを吸いながら一息ついていると、リュウが隣に座ってタバコに火をつけた。
「お疲れ」
「お疲れ……。なぁユウ……ちょっと教えて欲しいんだけど……」
少し照れくさそうに目をそらして話すリュウに、ユウは微笑みながら尋ねる。
「ん?なんだ?」
「ユウさ……片桐さんに指輪……どこで買った?」
「指輪?」
(ああ……ハルちゃんに指輪買ってあげたいんだな。ホントにハルちゃんがかわいくてしょうがないんだ)
リュウは相変わらず照れくさそうにタバコを吸っている。
「明日休みだし、一緒に行く?」
「いいのか?」
「オレも明日はレナと買い物に行こうと思ってたとこだし……。それに、オレたちは結婚してるから一緒にいても何も言われないけど、リュウとハルちゃんは、二人で歩いてるとジロジロ見られるだろ?」
「そうなんだよな……。だから、せっかくこっちに来たのに、ハルをどこにも連れてってやれねぇんだ」
「一緒に行こうよ。オレ、いい店知ってる。オレがレナに指輪買った時にお世話になった店。店員さんがすごく気遣ってくれてさ」
「そうか……。ハルも片桐さんに会えると喜ぶだろうし……じゃあ、そうさせてもらうかな……」
タバコを吸い終えたユウとリュウは、一緒に控え室を出た。
「そうだ。せっかくだから、うちの買い物にも付き合ってくれるか?」
「いいけど……。何買うんだ?」
「出産の準備だよ。レナ、産休に入ってすぐ入院しただろ?そろそろ準備しとかないと、いつ生まれてもおかしくないから」
「そうか。オレらで良けりゃ、いくらでも付き合うぞ」
「助かるよ」
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