追憶と現実の狭間で ⑧
「たしかに……トモはメンバー5人の中で一番変わったな。昔はもっと……なんて言うか、真面目な好青年って感じだった。今はヤンチャな大人って感じだけど」
「酒も強くなったし……適当に女の子とも付き合って、かわいい女の子と二人きりでいても、昔みたいにいちいちドキドキしたりしないしさぁ……。それに見た目も変わったろ?ただのイイやつじゃなくなったと思うんだけどなぁ……」
トモはイスの背もたれに身を預け、組んだ両手で後ろ頭を抱えて天井を見上げた。
「トモはさ……なんでそんなに変わろうと思ったんだ?」
「なんで……?なんでって……。もしまた彼女と会えたら、今度こそオレを選んで欲しいって、そう思ってたからだよ……。弱くて頼りないオレじゃなくて、強くて男らしいやつになりたかったんだ、リュウみたいに」
トモの口から出てきた意外な言葉に、ユウは驚いてまばたきをした。
「そうすればさ……死ぬほど好きな女を、昔みたいにリュウに取られたりしないだろ」
「えっ……リュウに?!」
ユウは驚いて、思わずイスから立ち上がった。
「うん……。リュウが悪いわけじゃないけどな……オレの彼女だって知らなかったわけだし?リュウも初めて本気で好きになったって言ってたし……。彼女も、オレとリュウが友達だって知らなかったんだしさ……。結局は、弱くて頼りなかったオレのせいなんだよ」
「マジか……。そんな事ってあるんだな……」
衝撃的なトモの失恋話に、ユウは動揺を隠しきれなかったが、とりあえず静かにイスに座り直した。
「リュウ……今でも何も知らないのか?」
「いや、話したよ。ユウの結婚式の後に、二人でバーに寄った時。片桐さんのキレイな花嫁姿見てたら、なんとなく彼女の事思い出してさ。もう話してもいいかなって。でも……リュウに話した事、今になって後悔してる」
「なんで?」
「そん時はなんとなく思い出話で収まったんだけどさ……。この間、彼女の夢の話をしたらさ……リュウ、悪かったってまた謝るんだよ……。多分今でもリュウは、昔の事すげぇ後悔してる」
「あぁ……それはあるかもな……。リュウ、ああ見えて繊細だから」
「それ、昔の連れにも言われたんだ。ユウにはわかるのか?」
「なんとなくだよ。リュウはロンドンでできた初めての友達だからな。トモがロンドンに来る前は、二人でいろいろ話したんだ。見た目は強そうなのに、めちゃくちゃ優しいんだもんな」
「だろ?それに男らしい」
「そうなんだよな……」
トモはタバコに火をつけて、ため息混じりに煙を吐き出した。
「今日さ、リュウ、同窓会に行ってんだけど……彼女も来るかも知れないから、一緒に帰らないかって誘ってくれたんだよ。二次会くらいなら紛れ込んでも誰も文句言わねぇからって。でもオレは……行けなかった」
「なんで?」
「今の彼女が昔と全然違ってるかもとか……もう結婚して幸せに暮らしてるかもとか……いろいろ考えたら、彼女に会うのが……怖かった」
「怖かったんだ……」
「それにさ……もし昔みたいにかわいくて、独身だったとしてもだよ?他に好きな男がいるとか……今のオレは好きじゃないとかさ……やっぱリュウがいいとか言われたら、もう立ち直れないじゃん。想い出はキレイなままの方がいいのかも知れないって思ったりしてさ」
「そう……かな?」
ユウは、若かった頃のトモを見ているような、不思議な気分でトモの言葉を聞いていた。
トモはまだ彼女への想いにけりをつける事ができず、彼女のために変わったはずの今の自分に自信が持てないでいるのかも知れない。
(トモ……彼女が好きだったのは、彼女と付き合ってた頃のありのままの自分だったんだって思ってるのかな……。だから余計に会うのが怖いのかも……)
ユウは水割りを飲みながら、どこか頼りなげなトモの様子を窺った。
トモは頬杖をついたまま顔をしかめている。
「それにさ……オレ自身の気持ちがよくわからねぇんだよ。もう随分昔の話じゃん。それなのに今でも彼女の事が好きなのか……ただ彼女との想い出に浸ってたいだけなのか……」
ユウの目には、トモが昔の恋の想い出と今の現実の境目を、あてもなくさまよっているように見えた。
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