第48話 亜人の未来を憂う者

宿の外から一つ外れた路地裏。そこにダイダク、リガード、バイラジの三人はいた。

バシャという音と共にバイラジの顔に水がかけられる。水の魔石は山のように手に入るため、水の魔石は湯水のように使われていた。


「で、バイラジ。どういうことだ?。お前が俺たちを無視して酒に呑まれるとは思えん」


リガードの鋭い視線がバイラジを襲う。リガードだけではない、ダイダクと…そしてファイネも一緒にいた。

ゲホゲホと胸に入った水でむせていたバイラジだが、そのおかげで正気には戻っていた。そして旅の時はのほほんとしていた目つきが、人が変わったかのように鋭利なものに変わっていた。


「お前たちも気づいているんじゃないのか?」

「何にだ?」

「とぼけるな。あのルミナという小娘だ。あの力だけではない、更に何か隠している。それだけあれば亜人の発展は五大種族にすら劣らない程の勢いになるだろう」

「…そこまで、あるというのか」


リガード顔が驚愕で染まる。ダイダクも似たようなものだ。驚いていないのは魔力感知能力が4人の中では高いファイネだけだった。


「はぁ…ま、それも納得できるものがあるわ。あの槌……ゼルとか言ったっけ。多分あれを使い切れるなら一つで五大種族と対等に渡り合えるくらいの性能があるでしょうね」

「確か……ミグアと言ったか。あいつが言っていた眠っていた子というのはそれか?」

「かもしれない。ただ普通に災害かもしれないけど……十分にあり得る話ね。ただ……」


ファイネは一度間を置いてその先を話す。その顔には言いたくないと分かりやすく書かれていた。


「ただ、何だ?」

「……亜人の町長とか、上の方がそれを使おうとして、五大種族が襲ってくる可能性も十分にあり得るわ」

「なるほどな。話さずにどこかで漏れるか、話して囚われるかもしれないかってところか。厄介だな」


ダイダクもファイネが言っていることが分かったようだ。ルミナという存在が引き金となる危険なことは多過ぎて、どれが起きてもおかしくはないということに。


「利用すべきだ。あの小娘一人で亜人が救われる可能性があるというなら、捕まえて技術を搾り取るのが最善だ。それが分かったから俺は……」

「酒にも溺れるわな…理解はできる。結局のところ、亜人の存続こそが俺たちが面倒屋をしていたりお前が魔石商をしていたりする理由だからな。……おい待て、まさかミグアを仕掛けたのはお前か?」


ダイダクの視線が一層厳しくなる。ルミナの危害を加えたのは重要だが問題はそこではない。

ミグアの殺意はルミナだけに向かれていたが、ダイダク達に危害を加えない保証はなかったという点だ。


「いいや違う。だが……町の誰かである可能性は否定できんな。俺が持っている炎の魔石、あれを感知できるやつなら俺が連れてきたやつに何かあると考える。そこからすぐさま事を起こそうとすれば即座に起こせるだろう」

「町がルミナを求めている?。いや、だがミグアはルミナを殺そうとした」

「あの小娘に何かあると考えるのは荒唐無稽な話だ。あの武器に何かあると考えた方が妥当、ということだな。事実俺ですら何かあると分かったからな。ファイネ、お前ならよほどのことまで分かったろう?」

「……正直、話したくないわ」

「言え、もしかすると俺たちがミグアと戦う羽目になるかもしれねぇ。そのとき説得力がある理由がなければ意味が無い」


苦々しい顔を隠さないファイネに強要するダイダク。数秒程経った後、投げやり感漂う言い方でファイネは口に出した。


「あれ、多分ドワーフの国宝とか、それほどの物。魔力付与とか、そんな領域の魔術じゃないことが起きてた。私が理解できたのはそこまで」

「威力増加の魔術も平気な顔してやっていたが?」

「多分それもゼルの性能でしょうね。つまりは汎用性が異様に高すぎる魔術、そんなもの私は知らない」

「威力増加系……つまりは接近戦闘関係。それに魔力付与、魔力系列の関係の極致みたいなものだがそれもできる。そして大きさも変わっていたから使い手の自在に変わる。……なるほど、どれも系統が違うが全部一つの武器で行っている。理解できんな」

「特化する方が楽だからな。そりゃ宝もいいとこだ。国の宝って言ってもおかしくないだろうよ」


全員があの武器の性能が明らかにおかしいことを確認する。そしておかしいのは武器であって、本人ではないと認識するのも間違いないということを把握した。


「なるほどな。それほどの物が手に入ればルミナはいらないか。殺そうとするのも納得だ」

「でしょうね。バイラジ、あなたはどうするつもり?」

「隙ができれば捕らえて町長に引き渡すだろう。もしくは自分から行かせるとかだな。おそらくそれが一番いい」


使命に燃えているバイラジではあったが、手段は選ぶ。何せ何が出るのか分からない者なのだ。手段を選ばずに行動を起こして町が無くなるなんてことは御免だった。


「リガード、これ俺たちの手に負えんな」

「ああ、こういうことは聞かなかったことにするのが一番だ。……バイラジ、俺たちは何も聞かなかった。それでいいな?」

「あたしも何も話していない、いいわね?」

「……ああ、いいだろう。だがルミナを町長に会わせようとするのはいいだろう?」


バイラジの言葉に三人は頷く。そこにルミナの意志があれば止めることはしない。何も聞いてないのだからそうするのは当然だった。


「ルミナが行くなら好きにすればいい」


リガードがそう告げて三人は宿の方へ戻っていった。

路地裏に倒れるバイラジは眼の色を失望のそれに変え、溜息を一つついた。そして届くことはない独り言をぼやく。


「……なぜ理解できんのだ。たかがドワーフの小娘一人で亜人が救われるというのに」


亜人の未来を憂う亜人が、そこにはいた。

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