第47話 亜人と共に宿に泊まる
ドレの町、そこには五大種族の街の風景とはまるで違うものがあった。
洗練された町ではない、街並みの風景のどこにもこうした方がいいという改修点がある。しかも木造の家も石のレンガのようなもので作った家も点在し、地面もむき出しだったり整えていたりとバラバラの民族がそれぞれで勝手に作ったような外観だ。
ちぐはぐが過ぎてごちゃまぜと言ってもいい。だが彼らからしたらそれが普通なのだろう。何も注意するような人はおらず、ただ好き勝手に作っているだけだ。
しかしそれが悪いとは言わない。彼らは亜人だ。奪われ、蔑まれ、生きることさえできればそれだけでいいという人たちだ。ならばこういう形で町を作っていることだけでも称賛に値するようなことだろう。
空を見上げると既に時間は夜に入りつつある。通りに人は既におらず、家や酒場から笑い声が聞こえてくる。亜人の町の夜とはこういうものなのだろう。
バイラジが宿をとった、と言っていたけれど……どこだろう?
「エシータ、バイラジの宿ってどこかしら?」
「えーと、ちょっと待って」
エシータが耳に魔力を集中させ、聞き耳をたてる。今いる大通りからでも聞き分けられるものなのか……獣人の感覚を甘く見ていたかもしれない。
「ここから見て二つ横の通りの……少し行ったら面倒屋処があって、その4つ手前かな」
「あー…俺たちに配慮してくれたのか?。助かるな」
「それじゃ行くぞ」
ルミナは担がれたまま、4人が歩き出す。全員で行動しているが、見た感じ治安が悪いとかそういうことはなさそうだ。多分単純に疲れているからまとまって行動しているだけだ。
「ねぇ、面倒屋処って?」
「ん?、面倒屋の集会所みたいなもんだ。そこに依頼とかが集まって、俺たちがどれを解決するか選ぶんだ。暇つぶしにだべってるやつも多いがな」
「へぇ……面白そう」
町の広場や鍛冶をやっているところを見に行こうと考えていたけど情報集めという意味ではそこも悪くない。困っていることが集まるならそこから町に裏側があるなら少し見えるかもしれない。何が足りないとかあれば何が起きているかの推測もできる。
「興味があるなら行ってみる?。……もしかしたらさっきのあいつがいるかもしれないけど」
「じゃあいいや」
危険があるなら回避する。誰だってそうする。あたしだってそうする。あんなのと二度と会ってたまるか。
「まぁバイラジはともかく俺たちは休みを二日くらいとったら次の依頼を受ける。この町で過ごすならその間で聞きたいことは聞いてくれ」
「そっか。ありがと。皆が行った後はバイラジをこき使うことにする」
「ははは、それもいいかもな」
二日という短い間しか協力者がいないというのは心細いものがある。が、半ば無理やりついてきた目的は怪しまれずに町の中に入ることだ。町の中には入れているという意味なら達成している。
怪しまれずに、というのはミグアとかいう奇人のせいで難しくなったが。
「あそこね。バイラジの魔力があるわ」
「ようやくか~。疲れた~」
通りを進むとファイネが宿を特定した。旅の途中も分かっていたけど、ファイネは魔力感知ができるという意味では今のあたしよりか優秀だ。魔力総量の暴力でなんとかなるけど、拮抗した魔力総量だったら魔力操作能力で勝てるか分からないだろう。
宿に入ると、確かにバイラジの姿があった。だがそこいたのは―
「おい、酒飲んでんじゃねぇよ」
「へぇ?」
―どう見ても酒を呑んで酔いつぶれているダメ男だった。
「はぁ……おいファイネ、エシータ。お前らはこの部屋行って休め。こいつは俺とダイダクが処理する」
リガードがバイラジの懐から木の板を二枚抜き取り、片方をファイネに渡す。リガードたち二人はバイラジを連れて外へ出て行く。水でもかけて覚ますつもりなのだろう。
そして受け取った板は部屋の番号か何かが書かれている札だ。そこの書かれているのは……文字か絵か分からない。が、ファイネが部屋を探すとそれに合ったモノが部屋の扉に書かれていた。
部屋に入るとファイネが発行虫の籠を叩き部屋を照らした。
寝具の方に目を向け確認する。ベッド……というよりクッションに布をかけただけだ。その下には木の板を二枚重ねた、すのこのようなものがある。衝撃耐性を考えてないのが丸わかりだ。
と言っても今のあたしはどうにかしようとする気もない。甘んじてこれを使うことにする。
「さて、三つあるからそれぞれで使いましょ。……はい、ルミナ」
「あ、ありがと」
担いでいたあたしをゆったりとベッドへ下ろすファイネ。ベッドに倒れた感じだとクッション性はあんまりない。もし担いできたのが男どもだったら放り投げていたかもと考えると、洒落では済まない可能性もあったみたいだ。
「私はダイダク達の様子見てくる。二人は疲れてるでしょ、先に寝ててもいいわ」
「動けないのはその通りかな……」
「私も疲れたー」
エシータは格好はそのままにベッドに座り、ファイネは言った通りまた外へ出る。が、ファイネが忘れていたかのように扉の隙間から中をのぞき込むようにエシータの方を見た。
「エシータはちゃんと武器は横に置いて寝なさいね。また身体に刺さっても知らないから」
「分かってるよ~!」
ファイネはそう一言告げてそのままダイダク達の方へと歩いて行った。足音からして間違いなさそうだ。
エシータと二人きり、と言っても疲れ切った二人だ。そのまま寝る―
「ねぇねぇ、ミグアって何で襲ってきたのかな?」
―ことはできなさそうだ。
ミグア?、いきなり襲ってきた金髪の人間としかあたしは知らない。なんかあたしが危険だとかなんとか言ってたけど、あたしからすればいいがかりもいいところだ。
「さぁ?、ドワーフだからとかじゃないの?」
「ううん……あの目の向け方はそれじゃないと思う。何かルミナに目的があって、だから襲ったんじゃないかな」
「……何でエシータはそう思うの?」
「勘!」
獣人特有の直感というやつか。理屈は分からない、だが結論だけは会っている。筋道を立てるドワーフとは真反対の思考回路だが、嫌いなものではない。
庇護も何もない獣人の直感は五大種族のそれとは比較にならないほど優秀であり、ドワーフは優秀ならば軽蔑はしないやつらばかりだからだ。
「あたしに目的かぁ。思い当たる節が全くないなぁ。あるとすれば……これを奪うとか?」
指輪からゼルを展開する。大きさは15cmのトンカチ程度の、小さな形態だ。
「これってルミナの武器だよね?。そんなに大事なやつなの?」
「そんなに大事って……。ああ、4人は使い捨てに近い武器だから」
ドワーフの国で武器は倉庫におかれているか、軍では各人が持っているものだ。軍くらいしかマトモに戦うことがないことからそうなっている。だいたいが各人で持っているが、それらは愛着があって使うか、性能の良さで決まる。
そうなると使い捨てという概念はなく、一つの武器を使っていくのが基本になる。
だが亜人は戦う機会ばかりだ。一本の武器では疲労がたまりすぐに使えなくなり命を落とすかもしれない。それなら使い捨てで逃げることを念頭に置いて行動した方がマシだということだろう。
「面倒屋が災害に遭うなんてよくある話だしねー。武器が重いと死ぬから、軽い物か使い捨てが基本だよ」
「それじゃ分からないか。でもゼルの内包魔力なら気づきそうなもの……。そっか、これ隠してたっけ」
「魔力感知下手な獣人からはなんか凄そう、くらいしか分かんないよ。ファイネは気づいてそうだけどね。……見せれる?」
「んー…、これの魔力解放したらこの宿なんかかるーく吹き飛ぶくらいあるけど」
「聞いた私が馬鹿でした。やめてね?」
「やらないよ!。まぁ、そんな武器だから奪われる可能性はあるかなーって」
「あー、なるほど」
エシータは納得しているが、あたしは納得していない。
なぜならゼルがどんなものか少しでも分かれば奪おうとは考えないから。ゼルを感知したらどんな物なのか少しだけ分かるのだが、真っ先に出てくるのが自爆スイッチみたいなものなのだ。
具体的にはあたしが所持していないと密度を高める魔術が解けるようになっている。そうなれば山のような土が溢れてきて圧死は免れない。感知したら傍目には余りにも不可解な魔術が起きるという理解になるはずだが、そんな爆弾を爆発させたいかと言われると嫌だろう。
とはいえあたしの前の誰かさんみたいに魔力操作が極まってれば多少は話は変わるかもしれない。魔術であることに変わりはないのだから。
「ま、考えていても仕方ないか。ふぁ…寝ましょうか」
「うんうん納得。あーそれなら私も寝るー」
ちょうど発光虫が寝たのか、部屋が暗くなる。その暗がりのまま、二人は睡魔の囁くままに誘われたのだった。
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