第43話 属性を変える力
上手くいった。町から出ていた商人らしき人影、護衛が居てもおかしくないとふんだけれど予想通りだった。
あとは適当に魔物をその辺の森から引っ張りだしてくれば戦った跡ができる。できるなら戦闘している場所に近づいて来てくれればその後が楽だなと期待していたが、その期待にも応えてくれたようだ。
ドワーフは情報を知る能力…いや技術か。それがずば抜けて高いことをドワーフ以外は知らない。土や風の魔力振動から遠くから言葉を聞くことが可能なのだが、エルフの上位種とフェアリーの一部くらいしかできない技術だ。
これをドワーフは情報部隊を構成して常時世界規模の情報を知ることができる。あたしもその技術に関わった一人だった記憶を持っている。
だからこそ世間知らずというのがドワーフ以外からのドワーフの認識だ。余りに情報を持っているから、逆に世間知らずを装うことで溶け込む。ドワーフがドワーフ社会以外の社会に入り込むための常套手段だ。
隠したいところも勝手に誤認してくれたみたいだし、予想以上に上手くいってくれた。予想できなかったことと言えば―
「―何で馬車みたいなのは無いの?」
これに尽きる。亜人が背負って持てる量は非常に少ない。珍しいものであれば希少価値から利益が得られるかもしれないが、そうでないなら何をやっているのか理解が難しい。
簡単な疑問だったがバイラジと名乗っていた商人が答えてくれた。
「えぇ、簡単です。そちらの方が価値が高いので」
「俺らやこいつよりもそういう装備の方が価値があるのさ。災害から逃げられる可能性が高くなるからな」
「ドワーフやエルフはかなりの頭数持ってたり、災害避ける方法とか知ってるらしいから使えるの。私たちはそんなもの…使えないわ」
「あー…納得」
確かドワーフの国にはかなりの数の馬がいた。王様のペットか何かだったかな。藪蛇の気配がすごかったから話すことはなかったけど、近くの町までは馬車が出ていたのはそのおかげか。
「フェアリーは馬車が必要な程荷物持って移動はしない」
「確か知り合いのハーフジャイアントも馬が邪魔とか言ってたっけ」
フェアリーのリガードと獣人のエシータが捕捉までくれた。非常に助かる。自給自足が基本で、移動するほどの希少なものなら手持ち程度に落ち着く、ということか。
…となると彼らが護衛していたのもそれなりに希少なもののはずなのだけれど、あたしに言ってよかったのだろうか?
「ちなみに…何?」
「ルミナさんがドワーフなら隠すほどのものではないですぞ?。各属性の魔石ですな」
「何だ、そんなもの…って何?。あたし変なこと言った?」
全員がグリンと顔だけをこちらに向けた。その眼を見開いた顔は驚愕に染まっていることを隠しもしない。
変なことを言ったつもりはない。属性魔石の作成なんて適当に魔物を討伐すれば魔石が手に入り、魔石内の魔力操作ができるようになれば簡単にできるようになる。
専門家は必要ないほどのもののはずだ。
「ドワーフってそんなにおかしいのね…。属性魔石は貴重よ。作られた環境に依存するから狙ったものを手に入れるのが難しいの」
「ま、手に入れやすい環境ってのもある。だから貴重とはいえあんまりなものも多いけどな」
「少し前の魔石入手依頼はひどかったな…」
「全部同じだったわね…」
後半二人がどんよりとした雰囲気になっていたが、ファイネとダイダクの説明でなんとなく分かった。
なんならあたしが手助けするのも考えていいが、如何せん今のあたしの魔力操作技術だと無理だ。魔力放出の技術を習得してからならできるかもしれない。が、それも時間がかかるだろう。今すぐはどうやっても無理…待てよ?。
「ねぇ、一つ借りてもいい?」
「…壊さないでくださいよ?」
「保証はできないから壊したら何かしら手伝うわ。…貴重な属性の魔石ってどの属性かしら?」
「貴重な属性、っていうと…嵐、雨、岩、雷とか?」
「炎も十分貴重だがな」
ふむ、あたしも炎はやってみたいところだ。その辺りで試してみるか。
視線を指輪に向ける。考えが正しいなら上手くいくはず。誰かさんの遺産に頼りっきりになるのは癪ではあるけれど、それがあたしのためなら存分に頼るだけだ。
「珍しいという意味では空や時間などもあるな」
「獣もそれなりかな?。皆思いつく早すぎない?」
「エシータが遅いんだよ」
「ダイダクも数は全然出てないじゃん」
「んだと!?」「やるかー!?」
ダイダクとエシータが口でやり合っているのを横目に、バイラジから魔石を受け取る。大きさはあたしの拳の半分程度といったところであり、軽いものだ。だがやろうとしていることからすれば助かる大きさだ。
魔石の魔力は重さによって変わる。この魔石の魔力総量はあたしからすれば移動時に跳ぶときの魔力量で三歩分くらいだ。
ゼルを指輪から変形させ、15cm程度のトンカチに形を変える。そして込めるイメージは属性を変えること。変える属性は…全てを燃やし尽くすような炎。一度発現すれば燃やしたものを灰塵に帰すまで焦がし続ける暴虐の火。
「おいルミナ1?」
「ていっ!」
ゼルを受け取った魔石にトンッと振り下ろす。コツンという音と共に魔石の色が変わっていく。
緑と茶色が混じったような汚い色から、少しずつ茶色が抜けていき緑が抜けていき…真っ赤に染まっていく。
そして右目で魔力視を利用して魔力の流れがどうなっているのかを視る。外気魔力と干渉し合い、周囲に属性の付いた魔力ばらまいたり集束させたりしている動きが分かりやすい。
「綺麗…」
「ドワーフの技術、か」
「すっご!」
皆から口々に言葉が出ているが、そんなことはどうでもいい。今は起きている現象に集中していた。
身に纏わりつく魔力の感覚、地面に足を踏み込むときの外気魔力への無意識的な操作、そして…ほんの少しだけ気温が低くなっていること。
緑の魔力は風を起こし、茶色の魔力は土へ還り、付与させようとしている魔術によって周囲から熱を奪っている。それをルミナは理解していた。
「感知が、必要ってあああ!!!」
そして気づく、魔力感知という技法があったことに。誰かさんは時間はかからず習得した上に応用しか使わないような化け物だったから忘れていたのだった。魔力放出もそこからだった。
「どうした…ってかすごいな。魔石の属性変わってる」
「おお!、確かに変わっておりますな。炎…それも途轍もなく高純度な物ですぞ。人によっては一生見ることはできないほどですな」
バイラジ達が何か言っているけどショックなことが判明したことが精神にきており認識すらしていなかった。
バイラジはそれを知らずに頭を抱えて唸ることしかできないルミナに声をかけたが、気づいた。
「これはいい買い物をしましたな。礼は…」
「うぬぬぬぬぅぅ…!」
「よし、明日にしましょうぞ」
「よーし、俺とファイネが夜の番をする。リガードとエシータはバイラジとルミナを連れて寝てくれ」
「あいよ」「はーい」
ダイダクが行動を指示し、全員が行動をとる。そしてルミナは唸ったままだった。
「うぅぅぅぅ…」
唸るルミナを見てダイダクは溜息を一つつく。そして落としていたゼルを拾い、思いっきり振り下ろした。
「お前は寝てろっ!」
空気を読んだのか、何故か働いたゼルの魔力によってルミナの意識は眠りに落ちたのだった。
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