第19話 自由になりたい

 後日、エインとリファールが送検されたという話を聞きました。


「あの2人はどれぐらいの刑になりそうなんですか?」


 リンズ刑事は新聞を読みながら答えました。あの事件は大きな注目を集めていました。それはそうです。ドラゴンが殺されただけでも大事件なのに、動機も犯人も意外でしたらかね。


「ガルズの家庭内暴力やふたりへの攻撃が立証されれば少しは減刑になるだろう。だが魔導具やドラゴンスレイヤーを使っての殺人だ。数十年は出てこれないだろうね」


「数十年ですか……」

「そう、ふたりとも数十年だ」


「ドラゴンの寿命って、確か」

「500年ってところだろうね」


 仲良く数十年。というわけでは無いのです。


「彼女にとっては、ただの冬眠なのかもしれませんね。彼女、逃げることはできなかったんでしょうか?」

「できてりゃ殺人なんて企てないだろう。それに、彼女が言っていることがすべて本当だとも思えない」


 リファールが言っていたこと。はて、なんのことでしょう?


「暴竜ガルズはなぜ契約に従っていたと思う?」


 1年前に前国王は亡くなられているのです。前国王と交わした契約なのならば、もう破ってもいいような気もします。それに、ガルズが逃げようとするならば逃げることは可能だったはずなのです。


「プライド?」

「違うだろうね。種族というものだ。竜族にしたら、契約こそが彼らの一番大切にしなければならないものなのだろう」

「契約……」


 リファールは人間の文化に触れることで、自身の置かれた状況を見直した結果、殺害に至ったと言いました。ガルズがリファールに対し家庭内暴力を行っていた。だからこそ、情状酌量の余地がある。


 ですが、本当にそうだったのでしょうか?


 結婚も契約です。竜族は一度した契約を破ることができない。そしてその相手は王国に一生仕えなければならなかった。


 あの古傷だって、ドラゴンの専門家でさえ傷がついた時期を特定するのは困難です。


「エインは彼女を愛していたようでした。ですが、彼女はどうなんでしょう?」

「俺に聞かれてもね」


 ただ自由になりたかった。

 リンズ刑事にはそっちのほうがしっくり来たりするようです。


「でも、リファールさんが結婚したのは、ガルズが前国王に負けた後ですよ」

「結婚した後、一生国に仕える契約だって知らされたとか、前国王と戦う前から、結婚することは契約で決まっていたとかね」


 家庭内暴力が原因、私はそう結論づけました。それも全て、リファールがそうなるように誘導したのだとしたら?


 ガルズもリファールも、大空を自由に飛べる種族です。摩天楼のてっぺんにずっと居続けるような種族ではないのかも。ガルズと結婚したままなら、死ぬまで摩天楼に監禁される。でも、ガルズが死ねば開放される。


 ガルズとリファールの寿命が後どれぐらいなのか、正確なところはわかりません。


 竜族の知能が人間より高いのかどうか、それもまだわかっていません。


 もしかしたら、人間の法を一番理解しているのは、ドラゴンなのかもしれません。

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ヴェイルの理:魔導捜査十課一係 箱守みずき @hakomori

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