第14話 ドラゴンスレイヤーを持つ者

 頑丈で大きな取調室。ドラゴンが取り調べを受けている姿はいささかシュールです。やはり小人気分。それでもまだ小型のドラゴンです。大型のドラゴンを逮捕した時はどうするんでしょうね。どこかドームでも借り切って取り調べるのでしょうか?


「言ったとおりです。あの男が悪いんです。なんてひどいことをするのでしょう。万死に値します」


 リファールはエインとは違った方向に取り調べにくそうです。

 人間を下等な生物と見ているふしがあります。


 供述によると、別の部屋で寝ていたところ、ガルズ氏の部屋から激しい音が聞こえてきた。同時に魔力を感じたので心配になって部屋に行くと、ガルズ氏が首を両断されて倒れていた。


「どう思うね、名探偵」

「名探偵じゃありません。不可解なことが多いですね。単純な事件ではないのかもしれません」


 遅めのランチを取りながら話し合います。

 リンズ刑事はオーク印のオーキンバーガーセット。

 私はダブルオーキンバーガーセットです。


「ピクルス抜きだなんてお子様だね」


 リンズ刑事はあざ笑うように言いました。


「ここのピクルスは酸っぱすぎるんですよ」

「舌がお子様の証拠だ」

「それはリンズ刑事の方でしょう?」


 彼はセットのコーヒーをリンゴジュースに変えていました。私はブラックのコーヒーを飲んでいます。


「それは毒だよ。苦いんだ。苦さとは毒に対する防御反応だろう」

「でしたら、酸っぱいのだって食中毒に対する防御反応でしょう? 適度な苦みは人間に必要という説がありますよ。良薬は口に苦しとも言いますしね」


「おやおや。だったら適度な酸味だって必要だろう?」

「適度でも腐ったものを食べたらお腹壊しますよ? 拾い食いにはお気をつけを」

「僕をなんだと思ってるんだ」


「うーわ。こんなところで小難しい会話をしないでくれよ。ふたりとも子供ってことでいいだろう?」


 つくしさんもやってきました。激辛ダブルチーズバーガーとイチゴミルク。恐ろしい組み合わせです。


「君には言われたくないな……」

「舌死んでません?」


「ひどい言われよう! せっかく様子を見に来たのに。なんだか楽しそうだね!」


 皮肉たっぷりに叫びました。やさしいつくしさんです。私のことを心配してきてくれたのに。


「ぜんぜん楽しくないです。リンズ刑事、なんの説明もなく引っ張り回すんです! いったい、十課ってなんなんですか?」


「なにも教えずにヴェイルちゃんをここに呼んだんですか?」

「ああ。なにか問題があったかい?」


「大ありです」

「どっちにしたって。名探偵君はここに入れる条件で合格になったんだ」


「そうですけど」

「あのう。結局の所、十課とは?」

「ああごめん。十課ってのはね。警察庁の問題児達を集めた課なんだ」


 うわぁ。知りたくなかった事実です。

 だからあんた若いのになにしたんだなんて言われたのですね。

 リンズ刑事はいいとして、つくしさんも問題児なのでしょうか?


「ま、そういうことだ」

「だから一課の人にあんなこと言われたのですね」


 屋根裏だなんて。普段使わないものをしまっておくところではないですか。でも、言われっぱなしというのは気分が悪いです。見返してやろうではないですか。一課よりはやく、事件を解決するのです。


「ヴェイルちゃんがきてくれたら十課の検挙率も上がりそうだからね。期待してるよ」

「ええ。もちろんです」


「ああ。そうだ。新しい情報を持ってきたんだ」


 つくしさんはハンバーガー片手に語り始めました。


「傷口から輝燐鉄きりんてつが検出されたんだって」

「ドラゴンスレイヤー!」


「なるほど。これで謎がひとつ解けましたね」


 つくしさんはハンバーガーを頬張りながら、続きを早くという顔。


「凶器です。凶器が見当たらなかったのです。エインは剣を持っていましたが、あの剣ではドラゴンの硬い皮膚を綺麗に切ることはできそうにありませんでした。できたのなら、リファールさんも死んでいるはずです」


「部屋にはドラゴンスレイヤーなんて落ちてなかったんだよね?」

「はい」


「エインは部屋に入ったとき、すでにガルズは死んでいたと言っています。リファールが部屋に入ったとき、エインとガルズ氏の死体があったと言っています。だとすれば、凶器無しでエインはどうやって首を切り裂いたのかが謎だったのです」


「エインには暴竜ガルズを殺害する動機が見当たらない。最強と謳われたドラゴンです。殺害を計画する時点で無謀ですし」


「つまり、ふたりの供述が正しいとすると、第三者の存在を考えないといけないと?」

「そうなりますね。しかも、最強と謳われた前国王に匹敵する強さの第三者」

「エインが言っていた、兵士と思われる誰か? そいつがドラゴンスレイヤーを持っていた」


 ドラゴンスレイヤー。300年前、大賢者グルズフが錬成に成功したとされる貴金属から作られた刃で、竜族の魔力を帯びた鱗を切り裂く能力があるとされています。


 それが凶器だとしても、そんなものは捜索で見つかっていない。


「ドラゴンスレイヤーなら流通量は限られている。武器屋に当たってみてくれ」


 つくしさんに指示を出しました。


「よし、行くぞ。名探偵」

「え、ちょ」


 まだハンバーガー食べ終えていないのですが!

 というかなんで私がリンズ刑事の相棒みたいになっているんです?



 訪れたのは冒険者ギルド。

 国営ですが、独立した行政機構で、他組織からの干渉を嫌っていることで有名です。

 エインの裏取りと、情報集めです。


「エイン? 知ってるぜ、奴がどうした?」


 ギルドマスターは身長2メートル50はあろうかという大男です。


「彼の仕事歴と今受けている仕事を教えてくれるかな?」

「令状もなしに来たってなにも話せねぇぜ」

「えっ。令状ないんですか?」


 私が驚いてしまいました。


「そのバッジを見ると、お嬢ちゃんも刑事なのか? 最近はそっちも人手不足なのかい?」

「彼女はあのカプリン魔法学園を首席で卒業するほどの実力者だよ。失礼を働いているとどうなるか知らないよ?」


 嘘は言ってませんが。誤解を与えないでくださいよ。


「へぇ。ちっこいのにすごいじゃねぇか。悪かったな。エインのことだろ。教えることができる範囲で教えよう」


 毎日生死を分ける戦いに身を置いているだけあって、ギルドの人たちは殺気立っていました。リンズ刑事は物怖じせずに対応します。


「魔物や賞金首の討伐が得意だな」

「強さはどれほどでしょう?」


「白金級の中じゃあ下の方ってとこだろう」


 だとすれば、暴竜ガルズに勝てるとは思えません。


「今受けている依頼はありますか?」

「それは秘密だ」


「ギルド以外に依頼を受けることのできる場所はありますか?」

「上位の冒険者になれば、個人的に受ける場合もある」


「ドラゴン討伐の依頼は出ていますか?」

「いいや。そんな依頼滅多に出ないさ。人権があるからな」


「最近、ドラゴンスレイヤーの話を聞いたことは?」

「いいや。そんなものあったら俺が欲しいぐらいだ。むしろ、情報があったら俺にくれよな」


「捜査情報を流すわけには行きませんよ」

「でもそこは、お互い様だろう?」


 情報交換は捜査の基本と聞いたことがあります。

 こういう繋がりも必要なのでしょうね。

 私にできるでしょうか?

 めっちゃ怖いのですが。


「最後に、エインさんがよくパーティーを組んでいた人などは?」

「あいつは基本ソロだったよ」


 帰り際、一課の刑事が入ってきました。


「屋根裏のリンズじゃないか。捜査の邪魔はするなと言っただろう?」

「邪魔はしてないさ。ちょっとギルドに興味があってね」


「転職か。いいねそりゃあ。とっとと辞めちまえ」

「君こそどうだい?」


「口の減らない野郎だ。とっととクビになっちまえ」


 彼が去った後、私は質問します。


「彼は問題児じゃないんですか?」

「言動は汚いが、あれでも検挙率は高いんだ。それに、あれぐらいは普通の範囲内だよ」


 だとしたら、十課のみなさんはどれほどに?

 とは怖くて聞けませんでした。

 どうせ、すぐに垣間見ることになるでしょうし。

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