第354話
覇鬼に妖術を放った茜と桜鬼によって、焔鬼の視界は妖術の衝撃に包まれた。しかし、茜と桜鬼が妖術を放った直後に距離を取っていたのだろう。焔鬼は、茜と桜鬼と共に覇鬼から離れる事が出来ていた。
「ぐっ……」
「ほーくん!」「兄様っ」
「大丈夫だ。それより、奴はどうなった?」
脇腹を押さえる焔鬼は、口元から垂れた血を拭いながら問い掛ける。茜と桜鬼の放った妖術は、確実に致死性のある術と威力だった。いくら魔境の王であっても、それ程の術を受ければ無傷とはいかないだろう。
そう考えていた瞬間、焔鬼は両隣に居る茜と桜鬼の身体を押した。
「離れろっ!!」
「「――っ!?」」
心配に包まれていた表情は一変。衝撃によって気圧された焔鬼を見て、茜と桜鬼は遥か後方へ遠ざかる後を追う。一方、焔鬼の眼前に散る火花の先には、傷だらけとなった覇鬼の姿があったのである。
「まだ倒れねぇのか、しぶとい奴だなあんたはっ!」
「今のは効いたぞ。だが、遊びはもう終わりにしようではないかっ」
「オレもそのつもりだ!(くそっ、まだこんな力があるのか。押し返せねぇ)」
鍔迫り合い状態で引き摺られたまま、焔鬼は表情を歪める。傷を負った覇鬼は、拳を振るい続けて来ている。受け流すのが精一杯で、受け止める事は不可能だと判断した焔鬼は反撃を繰り出したいところだ。
しかし、その反撃を繰り出す瞬間が無い。
「残念だが貴様等の攻撃は既に理解した。もう世に通用する事はない。貴様等の負けだっ」
「だったら、さっさとオレを殺してみせろ。――っ?」
「……そのつもりだ」
「(オレが受け流すと同時に背後に……不味い、この攻撃は避けれねぇ)」
目を見開く刹那。焔鬼へ手刀を繰り出す覇鬼の姿で視界が覆われていく。やがて焔鬼へ到達するまで、その僅か数秒が焔鬼の目にはスローモーションに見えたのである。
そして……その手刀は焔鬼の胸を貫いたのであった。
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