第327話

 ……滑稽だ。


 その言葉通り、目の前で起きている事はそれを感じさせる景色だ。強大な力の前に、成す術もなく蹂躙されていく妖怪達。そんな光景を見れば、誰だって覇鬼を倒す事が出来ないのではないかと思わせるのは容易だろう。

 だがしかし、だがそれでも妖怪達は諦める訳にはいかない。鬼組の総大将である彼が、妖怪と人間が共存する町を数年、数百年の年月を経て築き上げた町なのだ。そして集めた仲間達は、それぞれが総大将……焔鬼の背中に憧れ、叶えたい願いを託すと同時に命を預けたのだ。

 

 『お、お前なんかに負けない!!負けるわけにはいかないっ』

 『そうだ。俺の……俺達の町を滅茶苦茶にされて黙ってられるかってんだ!』

 『仲間の仇だ!!絶対に殺してやるわ!』


 味方の妖怪達は既に半数が殺されてしまっている。それなのに何故、彼等は一切の躊躇もなく攻め込む事が出来るのだろうか。鬼組の総意なのか、はたまた自身の内にある闘争心なのか、はたまた自尊心から生まれる意思なのか。

 いずれにしても、明確な意思が伝わる物もある。目の前で果敢に攻め込む妖怪達は、仲間の仇を取る為に覇鬼に挑み続けている。その戦い方は怒りの込められた物だと理解出来るが、それよりも通している意志モノがある。


 ――それは恐らくであると、蒼鬼は感じたのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る