第312話
――鬼組拠点、神崎邸。
幽楽町を守りながら、負傷した面々の応急手当や民間人の避難場所となりつつあった神崎邸。そんな神崎邸に姿を現したのは、傷だらけの杏嘉を背中に背負った魅夜とそれを守る為に一緒に行動していた狂鬼だった。
幹部の一人である杏嘉の傷を見た組員の妖怪達は戸惑いつつも、応急手当をし始めながら感じ取っていた気配について魅夜と狂鬼に問い掛ける。
『さ、先程の妖力、あの気配は一体……?』
「焔が帰って来た。裏切ってなんか居なかった」
『っ、それは本当でしょうか!?』
「うん、本当……ボクは本物の焔に会ったし、こんな嘘を言っても仕方ないでしょ」
『っ!!』
魅夜の言葉を聞いた妖怪達は嬉々とした表情を浮かべ、互いに顔を見合わせ始める。疑う様子が無い事に驚きつつも、その喜びようを見て改めて焔鬼こと総大将である焔が妖怪達に慕われていた事を理解した狂鬼。
そんな事を感じた瞬間だった。地響と共に聞こえきた衝撃音と妖力の気配を感じ、妖怪達は目を見開くと同時に顔を見合わせながら頷いて告げた。
『魅夜様、狂鬼様……少しばかりですが、治癒術を施します。そしてどうか、総大将のお手伝いをっ』
『杏嘉様の事はお任せを。必ずや回復させます!』
『我々の思いと力を、総大将様にっ!!』
『『『――総大将様にっ!!!』』』
その場に居た妖怪達が頭を下げ、全てを託すような口振りでそう言った。彼等の表情に迷いはなく、心から出た言葉という事が理解出来た。そんな言葉を受け取ってしまったら、魅夜も狂鬼もただ治療だけされて待機するなんて事は出来ないだろう。
いや、出来る訳がない。彼女達も、総大将である彼を語った覇鬼を許す事は出来ない。そんな妖怪達の言葉に押されると同時に、前に出た烏丸が自分も行くと申し出た。
「私も、行きます」
「大丈夫なの、烏丸……ボクにお前を守る力なんてないぞ」
「構いません。守られてばかりというのは、私としても納得が出来ないので」
「……ん、それじゃあ行こう。お前もそれで良いか?」
烏丸の言葉に頷いた魅夜は、隣で丁度治療を終えた狂鬼が口角を上げて告げる。
「誰に言ってやがるんだ?猫。オレはいつでも戦う準備は万端だ」
「なら行こう。……皆、行って来る」
『ご武運をっ!』
そう告げた魅夜は屋敷を飛び出し、その後に続くように狂鬼と烏丸が屋敷を出る。しかし、それだけではなかった。自分も参加すると戦う力を持つ妖怪達が飛び出し、数十名の妖怪達が一斉に森へ向かったのである。
「待ってて、焔。――今向かう」
森へ戻った魅夜達は、覇鬼と対峙する焔鬼と合流した。
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