第282話

 「ほぉ、この妖力……深く、重たい。素晴らしいな。よもや現世でここまでの素質を持つ者が居たとは、世はもう少し早く現世に来るべきだったなぁ」

 

 妖力に包まれていく村正から溢れる妖力を感じ、覇鬼は内から込み上げる高揚感を感じざるを得なかった。しかし、村正は覇鬼の言動を一つ否定する。

 

 「貴殿のような存在が現世に来るなど、勘弁して欲しいでござるよ。総大将殿も、同じ判断をしたから現世と魔境を繋ぐ門を作ったのだろう。今なら、その気持ちが分かるでござるよ」

 「ほぉ?聞かせてくれないか?息子の行動理由を」


 そんな村正の言動に対し、目を細める覇鬼はそう問い掛けた。だがしかし、村正はニヤリと笑みを浮かべて刀を振るうのであった。


 「自分で聞くでござる!」


 その瞬間、村正は灰色の妖力のオーラと砂埃に包まれた。やがて風圧が収まり、覇鬼はシルエットで見える村正の姿を見据える。

 

 スゥー……シュッ。


 周囲に舞っていた砂埃を振り払った村正の姿を見た覇鬼は、楽しげな表情を浮かべて関心を向けた。


 「纏い……――灰塵去鏡かいじんこきょう

 「フッフッフッフ……クククク、クハハハハハ……さぁ、世を楽しませるのだ」

 「それは約束出来かねるでござるよ。拙者の刀は既に、殿でござるからな」

 「?――っ!?」


 そう告げた村正が静かに刀を鞘に納めた瞬間だった。覇鬼の全身から、大量の血飛沫が溢れ出たのである。

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